ワナビのゴールデンウィーク

西川 旭

序 たたき台

 太陽が正午を告げる高さに達しきる前に、惨劇は幕を閉じていた。


 穏やかだった暮らしを切り裂いた硝煙の臭い、白刃の音と炎のきらめき。


 若く細い四肢に残された力を懸命に振り絞り、カイは野山を走り続けた。


 どれくらい走ったのだろうか。気が付くと辺りは一面、薄い闇に覆われている。


 道とはいえぬ草木の間を駆け抜けたせいで、擦り傷に覆われたカイの全身。


 しかし、その痛みすらも感じないほどに彼の心身は煮えたぎっていたのだ。


 自分は生き延びる。


 いつか必ず、故郷を滅ぼし、家族を、友を殺した帝国をこの手で……。

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