最終話

「お疲れ様でしたー」

「お疲れ様、天沢くん」

冬夜がいつも通り残っている店長に声をかけてからペットショップを出て帰ろうとしていた。

一瞬頭に今日発売の慶汰が載っている雑誌が過ったがすぐに首を振って家に真っ直ぐ帰ろうとした。

すると後ろから走ってくる足音が聞こえてきて冬夜は(この時間にランニングか…)と呑気なことを考えながら帰ろうとしたが「冬夜!」と名前を呼ばれてビクッと体が跳ね上がってしまった。

忘れるはずもない自分よりも低い大好きな声に冬夜は恐る恐る振り返った、そこにいたのは…


息を乱している慶汰だった。


すぐに笑顔で名前を呼んで近寄りたかった。色々話がしたかった。でも冬夜は何とか堪えて真剣な表情と声色で言い放った。

「なんですか?ここに来たら鷹汰くんに怒られますよ、帰ってください」

そう言って冬夜は背を向けたがすぐに腕を掴まれてしまい、無理矢理剥がそうとしたがびくともしなかった。

「離してください…!」

「離さねぇ!話だけでも聞いてくれよ、頼むから…」

辛そうな表情で懇願してくる相手に冬夜の良心にグサリと刺さってしまい、話聞くために近くの公園に移動することになった。


公園に着きベンチに座っていると缶コーヒーを買ってきた慶汰が戻ってきて冬夜に差し出してきてお礼を言いながら受け取った。

そして隣に座り缶コーヒーを開けると一口飲んで、沈黙が続いた。

先に口を開いたのは慶汰だった。

「俺、今日撮影だったんだ…もちろん、鷹汰との…」

「…そうですか…」

「けどダメだったんだ、全然出来なかった…」

まさかの言葉に冬夜は目を見開いて「え?」と驚きの声を上げてしまった。

いつもどんな撮影でも余裕そうにしていて、どの写真もかっこよく決めている慶汰がダメだったと言ってきたからだ。

「どうして、あんなにかっこよく決めてたじゃないですか」

「……冬夜を考えたらダメだった」

自分の名前を出されて一瞬期待をしてしまったが。すぐにその考えは消そうとした。そんなことないって言い聞かせた。

でも期待してしまったら…止まらなかった。

冬夜は手を伸ばして相手の手に重ねると慶汰はバッと冬夜の方を見てきた。

頬は赤くなっていて余裕さは全くなかった。

「教えてください、何で俺のこと考えたらダメになったんですか?」

ドキドキと心臓がうるさかったがそれよりも知りたかった。慶汰の気持ちが…。

一瞬顔を歪ませ俯いたが何かを決心すると真剣な表情で見つめてきた。


「…俺の中で冬夜は大事な存在になっていた。友達とかじゃ無理だ、大好きなんだ…恋愛として冬夜のこと…」


憧れの人で大好きな人からの告白に冬夜の目からポロリと涙が流れてきて、慶汰は目を見開き驚いてしまい慌て出した。

すぐに冬夜は指で涙を拭って謝ってから口を開いた。

「すみません、嬉しくて…実は俺、慶汰さんのこと初めて会った時からモデルでそういう絡みの撮影をしている人って知っていたんです」

そう言うと「嘘っ!?」と慶汰は驚き、その反応にクスクス笑ってから携帯を取り出してSNSやら画像欄を見せてファンである事を教えた。

「じゃあ…何で最初に教えてくれなかったんだ?」

「モデルとしての慶汰さんも好きですが…動物に向けている笑顔が写真の時と違って好きでして…それに男で好きなんて嫌われるかなとも思いました…だから友達になれた時それだけで嬉しかったんです、でもそれ以上を俺が受け取っていいんですか?」

「良いに決まってんだろ、俺が好きなのは冬夜お前なんだ」

その言葉を聞いた瞬間、冬夜は思いっきり抱きついた。

「大好きです、俺も慶汰さんのこと恋愛として好きです」

そう伝えると慶汰も背中に手を回してぎゅーっと抱きしめてきて、少し体を離して顔を見つめ合うとそのまま唇を重ねた。

あの撮影の時みたいに優しく触れ合うくらいのキス。凄く優しくて嬉しかった。

一瞬口が離れると今度は違う角度からキスをしてきて何度もキスをしていたが、途中で冬夜が止めてきて慶汰はムスッとした表情をした。

「何で止めるんだよ」

「いや、ここ外なんで…あの、続きは…室内の方が…」

顔を真っ赤にしながら伝えると慶汰はニッと笑って缶コーヒーを飲み干して投げてゴミ箱に完璧に入れると手を差し出してきた。

冬夜も手を伸ばして掴むとそのまま歩きだしてただ着いていくだけだった。


着いたのは慶汰の家で玄関の扉を開けて冬夜は先に入るといきなり後ろから手が伸びてきて体を反転させられると玄関の扉が閉まる前に深くキスをされてしまった。

(しゃ、写真で見たことあるやつだー!)と思いながら受けていると舌が口内に入ってきて触れてきて体がビクッと跳ね上がって一瞬口を離した。

「ちょ、慶汰さん!?」

「…冬夜、今日のキスは覚えとけよ?」

「え、それってどういう…んんっ!?」

言い終わる前に深くキスをされてしまい舌が口内に入ってきて舌同士を絡ませてきて、冬夜の頭の中は色々とキャパオーバー状態だった。

「んっ、んん…ぅ…は、あ…ん」

「ん…っ…」

「は、け、いたさっ…まっ、んぅ!」

一瞬口を離して止めようとしたがすぐにまた塞がれてしまい頭がくらくらしてきてキスが終わった時には冬夜の目は蕩けていて立っていれなくなりその場に崩れてしまった。

「はぁ…はぁ…」

「…冬夜、わりぃ、とまらねぇかも」

「ちょっ、慶汰さん!待って…!」


「大好きな奴を目の前にしてお預けは無理だろ、ごめんな、冬夜」


-----


冬夜と付き合い出して慶汰は仕事を辞めようとしたが鷹汰、マネージャー、社長で止めてそこに冬夜も参戦した。

「お前、恋人が他の奴と絡んでいるの見たいのか?」

「俺を最初に好きになったのは慶汰さんと鷹汰くんのキスですよ?それにモデルしている慶汰さんも好きですから…俺からもお願いします」

「うっ……分かった…」

冬夜の説得が効いて慶汰は今もモデルの仕事を続けており、時々冬夜をスタジオに連れて来てくれて撮影現場を見せてくれていた。


そして今日も撮影現場に来ていて椅子に座りながら待っているといきなり後ろから抱き付かれて振り返るとそこにいたのは鷹汰だった。

「冬夜、今日の夜暇?見たいホラー映画借りたんだけど見ねぇ?」

「今日は俺、慶汰さんの家でお泊まりなんで無理でーす」

「えー、俺も乱入していい?」

「お家デートの邪魔しないでくださいよ!大体兄離れするんでしょう!?」

ぎゃーぎゃー騒ぐ冬夜と鷹汰のところに「こらお前ら!」と怒鳴り声が聞こえて、声のした方を見るとヘアメイクを終わらせた慶汰がいて冬夜は目をハートマークにさせて鷹汰から離れて慶汰に近づいた。

「今回のもかっこいいです!慶汰さん!」

「ああ、ありがとうな」

「冬夜、俺は!俺!」

「鷹汰くんもかっこいいですよー」

棒読みで答えると鷹汰がデコピンを入れてきて冬夜はおでこを抑えたがすぐに復活するとデコピンを食らわせず、あまり見えづらい頸にチョップを入れた。

そのまままたぎゃーぎゃー騒ぎだして慶汰がすぐに止めた。

「お前ら、仲良しなのはいいが喧嘩はよせ」


「俺と鷹汰くんの何処が仲良しに見えるんですか!?」

「俺と冬夜の何処が仲良しに見えるんだよ!?」


同時に答えると2人は顔を見合わせて慶汰を始めとする見つめていたスタッフさん達が笑い出した。

そこにカメラマンから声がかかり、2人は撮影を開始しだした。

抱き締めあったり、頬が触れるくらいの至近距離、そしてキス…恋人なら見ていて嫌だなーと思うが冬夜はそれよりも慶汰のかっこよさに夢中だった。

するとカメラマンが振り返って冬夜を手招きしてきて冬夜は首を傾げてから近寄るとまさかのことを言われてしまった。

「悪い、冬夜くんも参加してくれない?あの2人の間に」

「えええ!!?無理ですよ!?」

「経験者じゃん、ちょっとだけヘアメイクさん!こうして…」

冬夜の答えを聞く前にあれやこれやと進められてしまい…


数分後にはヘアメイクされて衣装を身に包んだ冬夜が出来上がっていた。

渋々2人に近寄ると鷹汰がジロジロ見て来てニッコリ笑った。

「うん、いいじゃん、な!慶汰」

「ああ…可愛いな…」

頬を緩ませて言ってきた慶汰の言葉に冬夜は顔を真っ赤にさせた。

とりあえず撮影が始まると慶汰と鷹汰の間に入るようにされてしまい、冬夜の内心は緊張がすごかった。

自分とは全く違うイケメン2人に挟まれて心は慌てていたが何とか顔には出さずに耐えていると…カメラマンが出してきた次の指示に3人は耳を疑ってしまった。

「じゃあ、次、冬夜くんを奪い合う様にキスしあってくれるかい?」

「ええ!?それって…」

「ふーん、面白そうじゃん、じゃあまずは俺な」

冬夜が嫌がる前に鷹汰が顎を掴んで深く口づけをしてきて、舌が入ってきて絡ませ出した。

「んっ、んんぅ…ん、ぁ…やっ!」

「おい!鷹汰、離しやがれ!」

無理矢理引き剥がされると今度は慶汰が所謂顎クイというのをしてきてそのまま唇を重ねてきたが、それだけでは足りずに冬夜は悲しげな表情を浮かべた。

「いやです…いつものがいいです…」

「!?いや、それは…」

「だめですか?慶汰さん…」

上目遣いで見つめると慶汰も顎を掴んできて深くキスをしてきて冬夜の方から舌を入れて絡ませた。

「んっ…ん、はぁ……ん」

「ん、ん…」

「はーい、こーたい。冬夜、また俺な?」

無理矢理離されるとまた鷹汰が口を塞いできて、舌同士を絡ませた。

その後も何回も2人からキスをされて冬夜の顔はとろーんと蕩けており、2人は顔を見合わせてからカメラマンの方を同時に見た。

カメラマンは笑顔を向けるとグッと親指を立ててきた。

「なぁ、冬夜。俺と慶汰、どっちのキスが良かった?」

「もちろん、恋人である俺だよな?」

「…はぁ、ん…慶汰さん、鷹汰くん…」

甘ったるい声で名前を呼ぶ冬夜に慶汰も鷹汰もドキッと来ると、その後冬夜は目を閉じてぐったりしてしまった。

2人からの深い口づけで頭に酸素が回っていなかったらしい。

でも2人からの問いかけは聞こえていたので冬夜は心の中で呟いた。


(俺を蕩けさせるのは甘い口づけをしてくれる慶汰さんだけですよ)と…。


END

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甘い口付けに蕩けてしまう 白群 @84b5cf-byakugun

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