第五章 逆転の法廷
二〇一〇年六月二十五日金曜日午後二時、京都府京都市中京区京都地方裁判所。斉川敦夫に対する第二回目の公判が、前回と同じ小法廷で行われようとしていた。すでに被告人席には手錠に繋がれた斉川が表向き憔悴した表情で座っており、その後ろの弁護人席には秋沼弁護士、検事席には諸橋検事の姿がある。斉川は俯き、諸橋と秋沼は互いにそれぞれの書類を確認しており、嵐の前の静けさとでもいうべき状況である。
傍聴席には再び京都を訪れた榊原と瑞穂の姿もあった。前回の調査から数日後、府警からの連絡があった榊原は、今度は単身京都を訪れており、そこで希望通り諸橋検事と会って何かを密談したようである。それがどのような密談だったのかは大学の講義に出席していて同行できなかった瑞穂には知らされていなかったが、どうやらこの裁判中に何かをする腹積もりらしい。実際、榊原は腕組みをしながらジッとその時を待っており、瑞穂はその横で緊張気味に法廷の様子を見回していた。よく見ると、少し離れた所には緊張した面持ちの岡部と片寄の姿もある。全体的に、何とも言えないピンと張り詰めた空気が法廷内に漂っているのが瑞穂にもわかった。
そしてそれからしばらくして、裁判官が入廷した。法廷内の全員が立ち上がって一礼し、再び着席すると同時に裁判所書記官が宣言する。
「事件名、平成22年638号業務上過失致死被告事件!」
「では、二回目の公判を始めましょう。検察官、前回申請があった証人の入廷をお願いします」
裁判官が諸橋にそう言うが、諸橋は傍聴席の榊原にチラリと目配せしながら立ち上がると、早速本来の予定にないイレギュラーな行動に移った。
「裁判長、それについてですが、一つよろしいでしょうか?」
「何でしょうか?」
「本来であれば、今回の法廷では平野小次郎氏に対する証人尋問を行う予定でしたが、予定を変更し、新たな証人に対する尋問を実施したいのです。許可して頂けないでしょうか?」
予想外の事態に、さっそく傍聴席がざわめく。それに対し、裁判官は眉をひそめつつ尋ねた。
「静粛に。検察官、その意図を説明できますか?」
「前回の法廷の後で明らかになった本事件についての新事実を検証し、新たな証拠の立証を行うためです」
「新証拠、ですか。弁護人、いかがでしょうか? 検察側の要請を受け入れますか?」
裁判官は秋沼弁護士の方を見やる。予想がつかない話だけに断るかと思われたが、意外にも秋沼は穏やかな表情でこう応じた。
「いいでしょう。弁護側としてもその新証拠とやらに興味があります。無論、具体的な内容がわからない現段階では不同意でありますが」
その言葉を受けて、裁判官も決断したようだった。
「……わかりました。検察側の要請を受け入れます。検察官、その証人の準備はできていますか?」
「はい。すぐにでも尋問可能です」
「では、お願いします」
裁判官に言われて、諸橋は一息つくと傍聴席の方を見ながらこう告げた。
「新たな証人……私立探偵の榊原恵一氏を証人席へ」
その言葉と同時に、驚く瑞穂を尻目に傍聴席に座っていた榊原が立ち上がり、ゆっくりとした歩調で証人席へ向かったのだった……。
まず、最初に通常の法定手続きに則って榊原に対する人定質問が行われる。
「名前をお願いします」
「榊原恵一です」
「生年月日は?」
「昭和四十一年四月七日です」
「職業は?」
「東京で私立探偵事務所を経営しています」
「住所は?」
「東京都品川区××です」
……その後もしばらく質問は続き、それが一通りの質問が終わると、榊原は落ち着いた口調で型通りに証人としての宣誓文を読みあげる。
「良心に従って、本当の事を申し上げます。知っている事を隠したり、ない事を申し上げたりなど決して致しません。右の通り誓います」
「ありがとうございます。では、署名と捺印をお願いします」
裁判官に言われ、榊原は手慣れた様子で指示に従う。書記官が宣誓書を回収し、手続きは滞りなく進んでいた。
「結構です。それでは、お座りください」
裁判官に促され、榊原は証人席に腰かける。そして、証人申請を行った検察側からの証人尋問が始まった。
「それではいくつか質問します。準備はよろしいですか?」
「はい、問題ありません」
榊原は慣れた風に応じる。榊原は今でこそ探偵ではあるが、刑事時代に捜査説明のための証人として何度かこうして法廷に証人として立ったことがあるため、今更この程度で動じる事はないようである。むしろ、それを見守っている瑞穂の方が、緊張して手に汗を握っている状態だった。
「まず、あなたのこの事件へのかかわりを教えてください」
「ある事件関係者から『この事件についてもっと詳しく調べてほしい』と依頼を受け、独自に調査をしていました」
「つまり、あなたは事件が発生した後の段階で、仕事という形で事件の調査を行ったという事ですね?」
「その通りです」
「依頼を受けたのはいつの事でしょうか?」
「六月十一日の事です」
「その依頼者とは誰でしょうか?」
「申し訳ありませんが、守秘義務がありますので、必要がない限りは申し上げる事はできません」
「……結構です。それで、あなたは事件を調査する依頼を受け、具体的にどうしましたか?」
「事件について下調べをした上で、依頼から一週間後に実際に京都市内の現場を現地調査しました」
「それはいつの事でしょうか?」
「六月十八日の事です」
「調査は一人で行ったのですか?」
「いえ、同行者が一人いました。私の事務所の事務員で、その……助手のような存在です」
さすがに公の場で瑞穂の事をどう言うべきか榊原も少し迷ったようだが、結局「助手」という形で押し切るようだった。諸橋も事前にその事は聞いていたのか、この点についてそれ以上は突っ込まなかった。
「わかりました。それで、実際に調査を行った結果、何かわかりましたか?」
「事件の構図を覆しかねない重大な発見があったと考えます」
榊原の発言に、傍聴席が少しざわめく。
「それは具体的にどのようなものでしょうか?」
「まず、被害者が死亡した周囲を調べた結果、その近くの壁に何か紙のようなものを張り付けた痕跡を見つけました。そこで周囲を調べた結果、近くの側溝に一枚の張り紙のような紙があるのを見つけたのです」
その言葉と同時に諸橋が手元の機械を操作し、まず備え付けのスクリーンに現場で撮影された問題の壁の写真が提示される。
「これがそのマンションの壁ですね?」
「その通りです」
「証人にはこの壁がどう見えますか?」
「何かの紙がセロテープで張り付けられていた跡のように見えます」
続けざまに、発見された問題の紙の映像が映し出され、同時にビニール袋に入れられたその実物が諸橋から提示される。
「証人が現場の側溝から見つけた紙というのはこれですね?」
「その通りです。確認したところ、先程の写真の壁の痕跡とぴったり一致しました」
と、ここで諸橋は一際声を張り上げた。
「この紙ですが、鑑識が鑑定を行った結果、使用されているインクの成分が判明しました。そのインクの成分をさらに調べた所、被告人の部屋に備え付けられていたプリンターのインクの成分と一致しました。すなわち、この張り紙は被告人の部屋で作成された可能性が高いという事になります。また、紙にはわずかながら泥の成分も付着しており、この泥は先程示した壁に付着していた泥の成分と一致しました。つまり、この紙が先程の場所に張り付けられていた可能性もかなり高いと判断できます」
その情報に少しざわめきが起こり、被告人席の斉川の顔色が悪くなる中、諸橋はさらに榊原に問いかけた。
「さて、見ればわかる通り、この紙には『家田涼花に天罰を』と書かれています。証人、あなたはこの張り紙を発見し、そこからどのような事を考えましたか?」
「この紙が事件当日の事件発生時刻前後に、被害者をあの場に足止めするために張られていた可能性があると考えられます。これはマンションの住民に聞き込みをすれば証明は可能かと考えます」
厳密に言えばすでに「当日の朝にこのような張り紙はなかった」という赤野の証言があるのだが、これは現時点では榊原が聞いただけの伝聞証拠に過ぎないため、赤野本人が証言台に立たない限り今の段階ではこの証言を出す事はできなかった。とはいえ、現段階ではそれでも構わないと思っているのか、諸橋はさらに証言を突き詰めていく。
「被害者を足止めするため、というのはどういう事でしょうか? もう少し具体的に説明してください」
「自転車で帰宅した被害者が仮に壁に張り付けられたこの紙を見た場合、ほぼ間違いなく壁に近づき、そこで足を止めるはずです。それは言い換えれば……屋上から見た時にちょうどいい的になるという事です」
意味ありげなその榊原の言葉に、傍聴席のざわめきが少し大きくなった。すかさず秋沼が異議を唱える。
「異議あり。根拠もなく被告人を貶める発言です。直ちに記録から抹消すべきと主張します」
「異議あり! 検察側はこの証言が今回の事件についての重要な証言だと判断しています。それを立証するためにも、最後まで証人の証言を聞くべきだと主張します」
諸橋がすかさず反論する。裁判官は冷静に諸橋に問いかけた。
「検察官、あなたはこの証人に何を証言させようとしているのですか? 大まかな意図を確認させてください」
裁判官の質問に、諸橋はすました表情で答える。
「最初に述べたように、事件の新たな側面について検証するための証言です。色々ご意見はあると思いますが、重ねて申し上げるように、まずはこの証人の証言を全て聞いて頂きたい。そうしなければ話が先に進みませんので。異議はその後でいくらでも受け付けます」
「弁護人、いかがでしょうか?」
「……しかるべく。このままでは埒があきませんからな」
普通は検察官が言うセリフを、今回ばかりは秋沼が口にした。
「では、証人。続けて聞きますが、あなたが現場から発見した証拠はそれだけですか?」
諸橋の問いに、榊原は何事もなかったかのように証言を続ける。
「いえ、自転車庫に停められていた被害者・家田涼花さんの自転車を調べました。その結果、自転車のサドルの下から、小さな機械のようなものを発見しました」
榊原が証言すると、すかさず諸橋がビニール袋に入れられたその機械の現物を示す。
「この機械は証人の連絡を受けて駆け付けた捜査員が押収しました。検査の結果、正体は小型の盗聴器であると判明しています」
思ってもいなかった証拠の登場に、傍聴席は再び大きくざわめく。だが、榊原の証言はさらに続いた。
「それと、問題の屋上菜園を調べた所、その一角の土の中から盗聴器の受信機とイヤホンを発見しました。受信機を調べた所、先程示した盗聴器で拾った音声を拾うための物とみて間違いありませんでした」
これもまた、諸橋が即座にビニール袋に入れられた現物を示し、すぐに榊原に質問を重ねる。
「その受信機とイヤホンと言うのはこれの事ですか?」
「その通りです」
「証人はこれらの証拠品を発見して、どのように考えましたか?」
「何者かが被害者の自転車に盗聴器を仕掛け、受信機で密かに音声を聞いていた可能性があると考えました」
「証人は、これを仕掛けた人物がなぜそんな事をしたと思いますか?」
「あくまで客観的に考えた見解ですが、会話を聞き取るのが目的ではなく、自転車周辺や自転車その物の音から被害者の自転車の動きを知るためだと考えられます。例えば音声が受信できるようになるだけでも被害者がこの受信機の受信範囲内に入ったという情報を得る事ができますし、ペダルの音が止まったりスタンドを立てたりする音がすれば、被害者が自転車から降りた事を直接見ずに判断できます」
「確認しますが、この受信機は被告人が事件当時にいた屋上菜園で発見されたのですね?」
「その通りです」
「では、これを使った可能性がある人物として、あなたが考える人物は誰でしょうか?」
きわどい問いかけに、しかし榊原はあっさり答えた。
「普通に考えれば、屋上菜園を実際に行っていた被告人である可能性が高いと考えます」
「つまり、あなたは被告人が事件以前に被害者の自転車に盗聴器を仕掛け、その音を聞いて被害者がマンションに帰宅した事を知ったと主張するつもりですか?」
「断言するつもりはありません。ただ、新証拠を元に考えるとあくまでその可能性がある、とだけ申し上げておきます」
法廷の席という事もあってか榊原はいつも以上に言い回しに慎重であったが、それでも人々に与えた衝撃はかなり大きなものだった。裁判官がすかさず声を張り上げる。
「静粛に! 検察官、続けてください」
「はい。証人、あなたは先程、張り紙の証拠について聞いた際にも『被害者の足を止めるためだった』と答えています。つまり、この張り紙も被告人が現場に貼り付けたと言うつもりなのですか?」
「これも断言はできませんが、先程検察官がおっしゃったように被告人の部屋のプリンターのインクの成分が一致したとなれば、そのような推測が可能であるのは確かです」
「では、これらの証拠が仮に被告人のものだったとして、どのような事件の流れが考えられますか?」
それは事件の根幹を揺るがす質問だったが、榊原は淡々とした口調のまま答えた。
「屋上にいた被告人が盗聴器の音から被害者が自転車でマンションに帰宅した事を把握し、あらかじめ貼っておいた張り紙で被害者の足を止めた上で、彼女の頭上に向けてレンガを落とした……そのような推測が成立すると考えます」
「つまり、被告人は過失ではなく故意かつ計画的にレンガを被害者の頭上に落とした可能性があるという事ですか?」
と、ここでさすがに耐えきれなくなったのか、秋沼が異議を唱えた。
「異議あり! さすがに今の発言は見過ごせません。検察側の今の質問は根拠もなく被告人を侮辱する発言であり、早急な撤回を求めます!」
だが、諸橋も負けてはいない。裁判官が何か言う前に声を張り上げる。
「ではここではっきりさせておきましょう。証人、あなたは今回発見された証拠を踏まえ、この事件の構図がどのようなものであると考えているのですか? 今この場で、忌憚のない意見をお聞かせいただきたい」
諸橋の問いかけに、榊原は決然とした表情ではっきり応じた。
「それははっきり申し上げます。新たに発見されたこれらの証拠ですが、あくまで客観的に見た場合という条件はつきますが、『当時屋上にいた被告人が故意を持って被害者にレンガを落として死に至らしめた』事を示唆する重大な証拠になる可能性が高いと考えます。仮にこの推測が正しかった場合、この事件は過失致死事案ではなく、明確な殺人事案であると考えられる次第です」
傍聴席のざわめきが最高潮に達し、被告人席で俯いていた斉川の表情が明らかに変わる。と、さすがに見かねた秋沼が異議を唱えるよりも前に、諸橋が裁判長に対して発言を求めた。
「裁判長! ここでただ今示されたいくつかの証拠を、この場で新たに甲号証として申請したいと考えます!」
そう前置きして、諸橋はこれまで提示された新たな証拠を改めて列挙していく。
「甲18号証・現場から発見された張り紙。甲19号証・現場近くの壁を写した写真。甲20号証・被害者の自転車に仕掛けられていた盗聴器。甲21号証・被害者の自転車。甲22号証・屋上菜園から発見された盗聴器の受信機。甲23号証・同じく屋上菜園から発見されたイヤホン。甲24号証・甲22、23号証発見前の屋上菜園を撮影した写真。以上であります」
「弁護側、いかがですか?」
裁判官の問いかけに、秋沼は静かながら毅然とした言葉で応じた。
「現時点では全て不同意。これらの証拠は証拠調べ手続きの際に提出されなかった新たな証拠であり、弁護側による反対尋問が必要かと考えます。さらに言えば、検察側の主張は被告人に対する急な訴因変更を示唆するものであり、弁護側としては到底容認できるものではありません。この点についても後々ご説明頂きたい」
「検察官、いかがでしょうか?」
「構いません。ですが、もうしばらくこの証人に対する質問を続けさせて頂きたい」
諸橋は冷静にそう主張する。何にしても榊原が示した新たな証拠は、確かにこの犯行が単なる過失致死事件ではなく明確な殺意による殺人事件である可能性を示唆するものであり、実際に榊原もこの事件が「殺人事件」であると明言していた。が、当然ながら被告人席の斉川敦夫はその主張に納得できないようで、顔色を変えて榊原に反論しようとしている。
だが、弁護人席の秋沼弁護士が彼の肩に手を置いてそれを止めた。そもそも、裁判の席で裁判長の許可なく被告人が勝手に発言するのはまずい話だ。斉川は必死の形相だが、秋沼が首を振るのを見て、力なくその場でうなだれてしまった。一方の秋沼は諦めた様子はない。この後の榊原に対する反対尋問が勝負と踏んでいる様子である。
「では、証人。これらの証拠を踏まえた上で改めて確認をしますが、あなたは本件が被告人による過失致死事件ではなく、殺人事件であると主張するつもりなのですね?」
諸橋の質問に対し、榊原は毅然とした表情ではっきり答えた。
「はい。本件は過失致死事件ではなく明確な殺人事件である。私はそう考えます」
その言葉に、法廷内に緊迫した空気が漂った。被告人席の斉川はもはや絶望的な表情を浮かべており、両手で頭を抱えて嗚咽を漏らしている。もはや勝負あった……まだ反対尋問が残っているとはいえ、法廷の誰もがそう感じていた。
「その上で、私はさらにこう主張します」
だからこそ、続く榊原の言葉に、傍聴席の誰もが呆気にとられた表情を浮かべる事になった。
「本件は明確な殺人事件である。すなわち……被告人・斉川敦夫は本件については完全無罪であり、被告人とは別に被害者を『殺害』した真犯人が存在する、と!」
……一瞬、法廷が静まり返る。瑞穂も、榊原が何を言っているのかわからなくなった。何しろ榊原はこれが殺人だと断言しながら、被告人である斉川敦夫がその犯人ではないと矛盾した事を言っているのである。何が何だかわからなくなるのも当然だろう。
だが、間髪入れず、衝撃に包まれる法廷内で榊原は立て続けにこんな言葉を発したのだった。
「そう主張する根拠は一つです。すなわち、私が今回発見した証拠類は、被告人が逮捕された後に作られ、被告人に殺人の罪を着せるために意図的に私に発見されるように仕向けられた、いわば『偽造された証拠品』であるからです!」
予想外の主張にざわめく法廷を、裁判長が「静粛に!」を言って鎮めようとする。一方、この騒ぎの中心であるはずの榊原は、あくまで冷静な表情で証人席から裁判官席の方を見つめていた。
そして、法廷がようやく静まり返ったのを見計らって、検事席の諸橋が咳払いをして質問を再開した。
「証人、確認ですが、ただいまあなたはこの事件が殺人事件であると主張しました。間違いありませんね?」
「間違いありません」
「しかしながら、それでいながらあなたはこの事件の犯人が被告人・斉川敦夫ではないと主張している。これも間違いありませんか?」
「間違いありません」
榊原は一切揺るがない。同様に諸橋にも動揺するような素振りはない。どうやらこの流れは、諸橋と榊原の間で事前に打ち合わせがなされていた事のようである。
「なぜそのような結論に至るのか、あなたはそれについて『今回出てきた新証拠がすべて偽造されたものだから』と主張しました。それについて、詳しく説明して頂けますか?」
諸橋の言葉に、榊原は静かに頷くと自身の「推理」を語り始めた。
「今回、この事件に対する新たな証拠として、『「家田涼花に天罰を」と書かれた張り紙と犯行時にそれが現場の壁に張り付けられていた痕跡』、及び『自転車に仕掛けられた盗聴器と、屋上菜園に埋められていた受信機』が提示されました。この新発見された証拠を前提に事件の流れを推理すると、先程述べたように『当時屋上にいた被告人が過失ではなく故意を持って被害者にレンガを落として死に至らしめた』という推理が成立してしまう事も事実です。しかし、実の所、そもそもこれらの新証拠類はどれも存在そのものが『あり得ない』証拠品ばかりなのです」
「あり得ない証拠、ですか。具体的にどのようなものでしょうか?」
諸橋の合いの手に、榊原は淡々と自身の推理を述べていく。
「例えば、証拠の一つに現場近くの側溝から発見された張り紙があります。この紙の存在から、犯人があらかじめこの紙を壁に張り付けておき、被害者がその紙に近づいて足を止めた瞬間にレンガを投げ落とした……そのような推理が成立する可能性があるという事を、私は先ほど申し上げたわけです」
しかし、と榊原は告げた。
「あくまでそれは『机上の空論』ならぬ『机上の推理』に過ぎません。実はこの推理は、ある理由から根本的に成り立つはずがないと断言できるのです」
榊原はあろう事か、己が語った推理を自分自身で否定しにかかる。それに対し、諸橋が合いの手を入れた。
「どうしてそう思うのですか?」
「簡単な話です。仮に先程の推理が正しかったとするならば、被告人は事件発生直後、通報してから警察が到着するまでのわずかな時間にこの紙を側溝に隠した事になります。これ以降、被告人は今日に至るまでずっと拘束状態にあったので、証拠隠滅を図るならタイミングはここしかあり得ません。しかし、この紙が事件当日から我々が発見したその日まで側溝にずっとあったなどという事は絶対にありえない。なぜなら今から十日ほど前……つまり私があのマンションを調査する三日ほど前に京都市には雨が降っており、もし側溝にこの紙があったとすれば雨や流れてくる水によって紙は確実に濡れ、書かれているワープロ印字の文字はにじんで読めなくなってしまったはずだからです!」
そう言われて、誰もが呆気にとられた表情を浮かべていた。そんな中、諸橋は慎重に質問を続行する。
「雨、ですか?」
「えぇ。私の記憶が正しければ、今から十日ほど前の六月十五日頃、京都市にはそれなりの量……最近まで鴨川の水を増水させ続けるくらいの雨が降っていたはずです」
その言葉に、瑞穂はハッとした表情を浮かべる。頭に浮かんだのは先週、三条大橋から鴨川の方を見た景色……『普段より増水している鴨川の流れ』であった。
「私がこの紙を発見したのは一週間前の六月十八日です。しかし、もし本当に紙が事件後からずっと側溝にあったとすれば、少なくとも十日前のこの大雨で側溝は水浸しになり、その時点でそこにあった紙も水につかってしまったはず。そうなれば紙はもっとボロボロになるはずですし、何より書いてある字や付着していた泥が無事であるわけがない。こんなにはっきりとした文字が残るはずがないし、泥も洗い流されてしまった事でしょう」
「それが意味することは何でしょうか?」
「言うまでもなく、この紙が側溝に置かれたのが六月四日の事件直後などではなく、少なくとも十日前の六月十五日に大雨が降ったよりも後だったという事です。つまりそれは、斉川氏がこの小細工を仕込んだかのように見せかけ、斉川氏を殺人罪に陥れるための偽造をした何者かが存在するという事を示す証拠でもあります!」
傍聴席が一気にざわめく。だが、榊原の言葉は続いた。
「同じ事は盗聴器と受信機にも言えます。自転車に仕掛けられた盗聴器はともかく、受信機は屋上菜園の土の中に埋められていました。しかし、その深さはかなり浅く、地面から概ね十センチ程度の場所でした。その状況で六月十五日の大雨が降れば、屋上で雨ざらしになっている屋上菜園の土には大量の水がしみ込み、そこに埋まっている機械は確実に故障していたはずです。しかし、実際には掘り起こしてすぐに機械のスイッチを入れた所、この受信機は問題なく動きました。さらに言えば、これだけの大雨が降ればそもそも土を掘り返した跡自体が消えてしまうはずですが、どういうわけか私が掘り返した時、受信機が埋まっていた場所には掘り返した跡らしきものが残っていました。これらの状況は、事件直後に受信機が屋上菜園に埋められたという推測と明らかに矛盾します」
と、ここで諸橋がすかさず大声を上げる。
「裁判長! 証人の証言を裏付ける証拠として、京都気象台が観測した六月十五日の京都市内の気象記録を提出したいと考えます! 該当日に現場付近で大雨があった事は、この記録により証明できるものと考えます!」
検察側の主張に対し、裁判長はチラリと秋沼弁護士を見やる。
「弁護人、いかがですか?」
「異論はありません。この証拠については提出に同意します」
秋沼は即座に答えた。偽造の余地がない気象データに反対尋問しても意味がないという事もあるが、この老練な弁護士は今この場で何が起ころうとしているのかを瞬時に悟った様子で、自身もその流れに乗ろうとしているようだった。
「わかりました。では、証拠の提出を認めます」
それと同時に、検察側から裁判所書記官に問題の気象記録が提出され、その具体的な内容が宣告される。
「甲25号証・六月十五日付けの京都市内の気象記録! 六月十五日に京都市内に大雨が降っていた事を示すものであります!」
「結構です。さて、話を聞く限り、証人の推理は確かにあり得ない話ではないと考えます。しかし、今の発言だけではそれを立証するのには弱いのも事実です。今回提出された証拠が捏造されたものであると証明する決定的な証拠はあるのでしょうか?」
確かにそうだった。だが、裁判官のそんな疑問に対し、榊原は焦ることなくこう言った。
「あります」
「それは何でしょうか?」
「ある人物の証言です。実は、私は今回の依頼を受けた際に、京都市に事務所を開く神里紗理奈という探偵にこの事件についての事前調査を依頼したのですが、その際にそれとは別にある事を頼んでおいたのです。そして、その『頼み事』の結果が、この証拠が捏造されたものであるという事を示す決定的な証拠となっているのです」
その瞬間、諸橋が声を張り上げた。
「裁判長! ここでこの証言の事実関係を確認するため、一度この証人に対する尋問を中断し、証言内に出てきた神里紗理奈氏に対する尋問を行う事を要求します!」
もはや裁判がどうなるかわからず、傍聴席のざわめきはさらに大きくなる。だが、裁判官はあくまで冷静に審理を進めにかかった。
「弁護側、いかがですか?」
「……結構です。その証言とやらを聞かなければ、この証人に対する反対尋問もできなさそうですからな」
秋沼弁護士はそう言って検察側の提案を受け入れる。
「検察官、証人の準備は?」
「すぐにでも証言可能です」
「では、この証人への尋問を一度中断し、新たな証人の召喚を行います」
裁判官の言葉と同時に、検察官が傍聴席に控えていた検察事務官に合図を送る。それから数分も経たずに、別室で待機していた神里紗理奈が姿を見せ、後ろの席にいったん下がった榊原をチラリと見ながら証言席に立った。
「それでは始めましょう。まず、氏名をお願いします」
「神里紗理奈です」
「ご職業は?」
「京都市内で私立探偵事務所を経営しています」
以降も今まで同様の人定質問が続き、最後に証人の宣誓が行われ、準備が整うとすぐに検察側からの尋問が始まった。
「あなたは今から約二週間前、先程の証人である榊原恵一氏から連絡を受け、調査依頼を受けた。まず、これについて間違いはありませんか?」
「ありません」
「それからあなたはどうしましたか?」
「この事件についてわかる可能な限りの情報を調べ、榊原さんが先週京都にいらした際に報告書をお渡ししました」
「しかし、榊原さんの話ではそれ以外にもあなたに何か頼み事をしているという事ですね?」
「その通りです」
「それはどんな頼み事ですか?」
その質問に対し、直後、紗理奈の口からとんでもない事実が明るみに出された。
「簡単です。『「今日中」に現場となったマンションを徹底的に調べ、可能ならば写真か映像も撮っておいてほしい』との事でした」
その瞬間、傍聴席のざわめきが一気に大きくなった。裁判官が鋭く叫ぶ。
「静粛に!」
一方、そんな中でも諸橋は質問を続行する。
「『今日中』……というのは具体的にいつでしょうか?」
「言うまでもなく私が依頼を受けた日……つまり今から二週間前、榊原さんがこの事件についての依頼を受けた直後にあたる、六月十一日金曜日の事です」
「その依頼に対し、あなたはどうしましたか?」
「もちろん、正式な依頼ですので、その日のうちに現場を調べました。なお、一人では証拠能力に疑問が生じる可能性があると考えたので、信用がおける知り合いにも調査に同行してもらっています。必要ならば名前も言いますが」
「お願いできますか?」
その質問に対して紗理奈が告げた名前に、傍聴席の一部がざわめくのを瑞穂は感じた。ボソボソ聞こえる話の内容から推察するに、どうやら元弁護士でもある現職の京都市議会議員らしい。自身も元市議会議員である紗理奈のコネという事のようだった。おそらく、必要とあれば証人として申請されるのだろう。
「わかりました。それで、調査の結果はどうでしたか?」
その問いかけに、紗理奈ははっきり答えた。
「結論から言いますと、私が調査した時点で、現場に証拠らしい証拠は一切確認できませんでした。もちろん、先程から証言で出ている現場近くの壁や排水溝、屋上菜園なども調べてありますが、今回新たに出されたような証拠は現場には一切なかったと断言できます」
今や、法廷のざわめきは誰にも止められないほどに大きなものになっていた。
「静粛に! 証人、今の発言は本当ですか?」
裁判官が自ら確認する。
「確かです。実際、その調査の際の映像を撮影してありますので、必要なら提出します」
その言葉と同時に、諸橋が立ち上がる。
「裁判長! そのビデオ映像をこの場で流す事を許可して頂けますでしょうか?」
「弁護側はいかがですか?」
「異議なし」
秋沼弁護士の返事は短かった。それを聞くと、諸橋は再び機械を操作し、スクリーンに映像が映し出される。映像は紗理奈が知り合いと思しき男性と共に現地を調査している映像だったが、その際に確かに問題の排水溝も調べており、さらにたまたま映った問題の壁には紙が張り付けられていた痕跡などどこにも確認できない事が目に見えてわかった。その上屋上菜園を映した映像を見ると、榊原が掘り返した辺りに直前に瑞穂が撮影した写真に写っていた『何かを掘り返したような痕跡』など、どこにも確認できない事がよくわかった。
それはすなわち、榊原が現場を調査するより一週間前の時点で、これらの証拠が現場に存在していなかった事を示す決定的な証拠に他ならなかった。
「裁判長、検察側は新たな証拠として、今から二週間前に撮影されたこの神里紗理奈氏の映像記録を提出したいと考えます!」
「弁護側、反対尋問は?」
何度も言うように、裁判手続きの上では尋問による証拠採用には必ず反対尋問が必要となり、その尋問を聞いた上で、最後は裁判官自身がこの証拠を採用するか否かを総合的に決定する事となる。が、この証拠は明らかに弁護側にとって有利な証拠品である。よって秋沼弁護士の判断は素早いものとなった。
「反対尋問は必要ありません。弁護側はこの証拠の提出に同意します」
「よろしい。では、この証拠の受理を許可します!」
裁判官の判断に、すかさず諸橋は声を張り上げた。
「甲26号証! 六月十一日に撮影された現場周辺の映像記録!」
それと同時に、映像が記録されたメモリーが裁判所書記官に提出される。同時に、紗理奈は証人席から退き、再び榊原が証人席に舞い戻った。
「では、榊原氏に対する尋問を再開します。これまでの尋問から、一週間前に証人が発見した証拠が、証人が調査をするより前に現場に置かれた『捏造証拠』である事ははっきりしました。ここからどのような結果が生じると証人は考えますか?」
それに対し、榊原はあくまで冷静にこう答えた。
「先程提示された証拠群は、今や被告人の有罪を立証する証拠ではなく『犯行後に被告人を殺人罪で有罪にするために捏造証拠を設置した人間が存在した事を示す証拠』へと変貌したものと考えます。すると、次に問題になるのは、『誰が、何のためにそんな事をしたのか』という点になります。そしてそれを解くカギは、他でもないこれら『捏造された証拠類』にあると判断します」
「それはどういう事でしょうか?」
諸橋がすかさず質問する。もはや誰も榊原の話を止めようとしない。裁判官も、興味津々と言った風に榊原の言葉を促す。
「ポイントとなるのは、先述の証言通り、私がこの事件の調査を依頼された直後の六月十一日に行われた神里探偵の調査では、こうした捏造証拠があのマンションに存在していなかったという点です。つまり、被告人を殺人罪に陥れるために作られた捏造証拠群は、神里探偵が調査をしてから私が調査に行った六月十八日までの間に設置された事になります。これは明らかに、今後調査に来るであろう私にこれらの捏造証拠を発見させ、それを元に被告人を追い詰めるために仕込んだと考えるしかありません。しかしそうなると、一つの問題が発生します。言うまでもなく、それは犯人がなぜあの日に私がマンションを調査する事を知っていたのかという点です。私がマンションを調べる事を知っていなければ、これら捏造証拠は全く意味をなさないものになってしまうのですからこれは当然の疑問です」
榊原はあくまで静かな口調でありながら、しかし法廷中に響き渡るような声で続ける。
「つまり、この事件の犯人は『私があの日、あのマンションを調べる事を知っていた人間』でなければならないのです。当たり前ですが、私自身は必要もなく他の人間にそんな事を話して回るような趣味はありません。先程の証人である神里氏についても、『事前に現場を調べてほしい』とは頼みましたが、その一週間後に私自身が現地調査をするつもりであるという事までは言っていません。つまり、私以外でこの事実を知っており、なおかつ今回の事件の被害者との関係がある人間……そんな人間は少ししか考えられないのです」
そして、榊原はその答えを容赦なく告げる。
「それはすなわち、私にこの事件の調査を依頼した依頼人自身です」
その言葉に顔を青くしたのは、後ろの傍聴席で事の成り行きを見守っていた当の依頼人である岡部武一と片寄耕太の二人だった。だが、榊原はそんな二人の様子を気にする事なく言葉を紡ぐ。
「本来なら、先程も言ったように私はこの依頼人の名前を軽々しく言う事はできません。探偵業には守秘義務が存在し、本人の同意なく依頼人の名前を口にする事はできないからです。しかし、この守秘義務にはいくつか例外が存在します。一つは裁判所の令状によって情報開示の要請がなされ、警察への情報提供の義務が発生した場合。そしてもう一つは私自身が裁判の証人として出廷し、嘘をつかないという宣誓をした上で裁判所もしくは検察・弁護側のいずれかから尋問を受け、法廷内でそれに答える必要に迫られた場合です。従ってこの場で裁判所権限による質問があれば、私は依頼人の名前を証言する事に何ら躊躇する事はないと宣告する次第であります」
その言葉に対し、心得たと言わんばかりに裁判官が質問した。
「では、裁判官である私から裁判所としての権限で改めて証人に質問します。あなたに本件の調査を依頼した人物は誰ですか?」
その問いかけに対し、榊原はしっかりとした口調で答えた。
「依頼人は被害者・家田涼花の友人である岡部武一と片寄耕太の二名。そして……私はこのうちの一人、片寄耕太こそが、この事件の真犯人であると確信している次第であります!」
その瞬間、告発を受けた片寄耕太が体を震わせながら真っ赤な顔で傍聴席を立ち上がり、榊原を恐ろしい表情で睨みつけた。榊原はゆっくりと後ろを振り返り、そして片寄の視線を正面から受け止める。
「お、お前! 俺になんて事を!」
片寄は激高してさらに何か反論しようとしたが、その前に裁判官の鋭い声が飛んだ。
「静粛に! 傍聴人の発言は許可されていません! 従わない場合は退廷となります!」
「ふざけんな! 一方的に犯人にされて黙っていられるか!」
片寄は噛みつくように叫び、係官が片寄を法廷から追い出すために動きかける。法廷は一瞬一触即発の空気に包まれ、瑞穂ら傍聴人はどうすればよいのかわからず固唾を飲んでその様子を見つめていた。
「お待ちください!」
と、そこで諸橋が手を挙げながら裁判官へ向けて素早く叫ぶ。
「裁判長、本案件に関しまして榊原氏の証言は充分に考慮すべきものであり、またこの件について片寄氏に反論の機会を与える必要があるのも当然の主張であります。よって検察側は片寄耕太氏の証言を聞く必要性があると考えますが、この証言は現証人の榊原氏の告発によるものであり、従いまして片寄氏の証言と榊原氏の証言を比較検討する事が必要不可欠であります。なぜなら個別の尋問ではその比較検討が難しく、また新しい証言が得られるたびにいちいち証人を再召喚する形では時間が浪費される事が想定されるからです。そこで、検察側としましては裁判進行の迅速化及び両者の証言の比較検討を容易にするため、刑事訴訟規則第124条に従い榊原氏と片寄氏双方に対する『対質尋問』を要求する次第であります!」
その言葉に傍聴席でどよめきが起こり、そんな中、裁判官は間髪入れずに秋沼弁護士に尋ねた。
「弁護人の意見は?」
「異議なし。事件の真相解明のため、榊原氏と片寄氏への対質尋問に同意します」
弁護側の即座の同意に対し、裁判官は頷く。
「よろしい。裁判所としましても、本件について片寄氏の証言を聞く必要はあると考え、その証言は榊原氏の証言と同時比較検討する必要があると考えます。よって、検察側の要請を認め、片寄耕太氏を証人として認定した上で片寄氏、榊原氏の対質尋問を行う事とします!」
その宣言に、傍聴席のざわめきは最高潮に達したのだった。
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