305. 報告纏め
「それが今回の概要です。アナタの認識と相違ないかしら?」
「ありません」
って答えるしかないよねぇ!?
妖精様に置いてかれて南の国境から馬車で帰るハメになった私は、帰ってすぐに王妃様に呼び出されている。そして色々と質問攻めにされているんだよ。最後には魔王事件をまとめた資料を全部読ませられて間違いを洗い出せって……。
「あの、私は今回ほとんど何も知らないまま事が終わったのですが……。私の証言なんて必要あるのでしょうか?」
私が知ってるのなんてドラゴンで南の砦に向かったくらいだよ。
あの後魔王が出てきたこともそれを討伐に行っていたことも知らなかったんだからね?
だって南の砦に1人置いてかれてずっと各冒険者ギルド支部の溜まってた仕事を押し付けられてたんだから。なんなら、妖精様たちは先に王都へ戻ってたことすら、王城から迎えの馬車がくるまで知らなかったんだよ!
でも、南部冒険者ギルド各支部の仕事が溜まりに溜まっていたのは事実だった。あのタイミングで私が介入してなきゃ後々大問題になってたかもしれない案件もいくつかあったからなぁ。妖精様は魔王問題のついでにこちらも解決させておきたかったのかもしれないね。
「念のための確認ですよ。各自の証言を1つに纏めるのにも苦労するのです。これなど見てみなさいな」
そう言って王妃様は私に1枚の紙を渡してきた。
えーと……、魔術師が股間から出した魔道具で妖精様を吸った? 直後妖精様は何事もなく出てこられ魔術師は取り押さえられた。なんだこの報告書?
「次にこれとかですね」
えーと……、妖精様人形を振りまわして魔王に対抗した兄は、神杖を掲げ光る巨人となり魔王を再封印した?
……どこかの宗教の神話かな?
「こういった断片的な証言を1つの話に纏めているのです。私の苦労も分かってもらえたかしら? 全く、人手不足も嫌になるわね」
なるほど、王妃様は王妃様で大変そうだ。
とっとと人員を増やせば良いように思うけど、今不用意に増やしたら妖精様の力を欲しがる悪いヤツが入りこむかもしれないからね。なかなか人手不足も解消しないんだろうなぁ。
私の証言なんて微塵も役に立ちそうにないけど、逆に私は今回の件の全容がようやく見えてきたよ。
まずカティヌール。
私は南にとどまっていたから、あの後カティヌール軍がすぐに帰っていったのは知っている。だけど、私が南にいた数か月の間にカティヌール前王は監禁、代替わりしたらしい。勝手に攻めてきたことへの報復だって。
そうそう、カティヌールのお姫様はどうやら神域の森に残ったみたい。神域の森と言っても今は焼け野原らしいんだけど、それでも王城内にいるよりは良いんじゃないかなぁ。だってファルシアン王国内じゃむちゃくちゃ嫌われてたもんね。かと言って自国に戻っても居づらいだろうしなぁ。
でも、姫様が魔王討伐に協力して、なおかつ神域にとどまって魔王封印を守り続ける決断をしたおかげで、カティヌール現王は代替わり直後でも他の国に対して優位に動けてるらしいよ。
私には関係ない話だけど、いつどこで世界情勢が冒険者ギルドに関わってくるかわからないからね。知っておいて損はないかな。
それからエネルギア残党。拷問で洗いざらい吐かされたうえ死刑。
まぁ、ファルシアンの王族を襲ってるし、カティヌール王家も騙してたらしいからね。南方諸国で神聖視されてる神域の民にも無茶苦茶してたらしいし。素人の私でも死刑以外あり得ないってわかってたよ。
それで、ファルシアン王国からは諸外国に向けて、透明化魔道具と転移の魔道具の対処法が伝えられたんだって。まだ潜んでるエネルギア残党の対処のためだけじゃなくて、それらの魔道具を接収したファルシアン王国に不要な危機感を持たれないようにしたいのかなぁ。
各地に散っていたエネルギア残党も国際的に指名手配の状態だ。これは冒険者ギルドにも捕縛依頼が来てたもんね。1人残らず捕まえるのは無理でも、これで大きな問題は起こせなくなったでしょ。
あとは、木の玉が落ちてきた南の砦付近。
妖精様が飛ばして魔王配下をやっつけたっていう本物の玉は神域の森に置いてきたそうだけど、南の辺境伯はレプリカの玉を作って観光名所にするらしい。すでに木の玉の装飾品が魔避けのお守りとして売り出されてるって言うんだから、商魂たくましいよねぇ。
めでたい話だと思うんだけど、これに不服だったのが先に特産品の話を妖精様に持ちかけていた東部貴族だ。西は羊、北は鳥、南は玉で、東だけ何もないからなぁ。
成り行き上しょうがなかったと思うんだけど、こればっかりは妖精様がなんとかするしかないよね。
えっと、まだある。そう、クレスト殿下。
クレスト殿下は王妃様お気に入りの妖精様人形を荒く使用した上、妖精様人形を魔王の依り代として置いてきたらしい。しかも勝手に婚約者まで決めてきたって。
言葉使いもなかなか直らない件とか諸々の鬱憤が溜まってた王妃様が盛大にブチ切れたらしいよ。その場にいなくて心底良かったと思うね。それでも婚約には賛成してくれたんだから優しい方なのかな。
そんなこんなでクレスト殿下は今、右手と左手で別々の書類を処理してるらしい。春には結婚するらしいから今から大急ぎで再教育なんだって。
前にダスターさんがしてた国王陛下は両手で2倍働いてるって話、冗談じゃなかったんだなぁ……。
ティレス王女もプチ謹慎中だそうだ。
表向き魔王討伐の立役者だけど、実は魔王討伐には無断で行ってたらしいんだよね。本当は転移するのはダスターさんとシルエラさんのみだったんだって。
転移の魔道具に魔力をこめられるだけの魔力持ちは王国内だとエフィリス様とティレス様の2人のみだ。だからティレス様が転移の魔道具に魔力をこめたそうなんだけど、そのまま転移の魔道具を使って神域の森へ一緒に転移しちゃったんだってさ。その直後の王城はそりゃもう大騒ぎだったって。
私が思うに今の王家で1番アグレッシブで危険人物なのはティレス王女だもんねぇ。そりゃ魔王が出たと知ったら突撃しちゃうでしょ。
魔王行きと言えばドラゴン。
私が乗ったドラゴンは赤かったんだけど、戻ってきたドラゴンは何故か白銀になってた。今も王城ホールで元気に蠢いている。
行きと帰りで色が変わってたもんだから、王子たちが帰還した際は知らないドラゴンが攻めてきたってこれまた大騒ぎになったらしい。結界張って強引に降りてきたドラゴンの上に王子たちを見つけるまで、王城の人たちは生きた心地しなかっただろうなぁ。
……いや、案外、どうせ妖精様だろって思ってそんなに危機感なかった可能性もあるか。どっちだろ? まぁ、良いや。
最後に、神域の民。
残された6人の神域の民は未だに王城に居る。今から神域の森に戻ろうとしても山越えが冬になるからしょうがないんだろうけど、呑気に毎日妖精様と遊んでるらしいよ。羨ましい。いや、妖精様の相手は羨ましくないや。
まぁ、王城で相手をしていてくれたら冒険者ギルドに妖精様が来ることもないだろうし、私は良いんだけどね。
あ、まだあった。
妖精様付補佐をしていた侍女の女の子、どうやら領地へ戻るらしい。なんでも去年あたりから水魔法が使えるようになって、その後色々調べてみたら飲料や農業に使えるってわかったらしいんだよね。
その力で水不足の領地を立て直すんだって。妖精様と別れることになるけど領地を助けたい気持ちも大きいとかって、複雑な心境だろうなぁ。
「アナタ、本当にこの報告書との認識の相違はないのかしら?」
「え? ないですけど?」
「そう? これがアナタに関する報告なのですけども、随分他の話と異なる内容とは思いませんか?」
そう言って王妃様はまた紙を渡してくる。
えーと……、その身はどのような攻撃も受け付けず、ドラゴンに乗って南部冒険者ギルド各支部の冒険者を軒並み倒してまわった……? 今回の暗闇騒動は全て鉄のリスティが裏で暗躍していた……?
「えーっ!? 事実無根です! 私はそんなことしてないですからね!?」
「ふふ。まぁ、そうでしょうね。もう下がっても良いですよ。ついでにドレスの合わせも済ませておいきなさいな」
「ドレス?」
「そう、ウェディングドレスです。お色直し用のドレスもですね。アナタ、ガルム期前には結婚してしまいなさいな」
うぇ!? 私の結婚式ってもしかして王城主催!?
ヤバい、胃が痛い……。
「ああ、そうそう。アナタのお相手のダスターさんね。アナタが帰ってくる前に妖精様が王城のお風呂に突き落とした事件もありましたよ」
「はぁ……」
何やってんの、ダスターさんも妖精様も……。
その後、どうにかこうにか王城での諸々をこなして冒険者ギルドに戻ってきた。その私を迎えてくれたギルマスが満面の笑みで放った言葉は……。
「やぁ、遅かったですねリスティさん。じゃぁ今期の目標達成率報告書作成と来期の目標設定、頑張りましょう。期限のガルム期はもうすぐですよ? リスティさんは2回目ですから慣れたものですよね?」
うわぁ、こっちも仕事溜まってるぅ!
もう踏んだり蹴ったりだよぉ!
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