300. 第2形態

「やったか!?」


 手筈通り、妖精付侍女のクソ高威力魔術を魔王にぶつけることができた。これで終わりなら楽なんだが……。

 魔術師団長が持ち込んだついの魔道具、妖精付侍女はそれを目標に転移してきたのだ。エネルギアが作った転移の魔道具は、その魔道具に登録された場所もしくは対となる魔道具のある場所へ転移することができるらしい。


「フラグ! フラグ!」


 妖精がまた意味不明な言葉を発して飛び回る。

 妖精コイツが絡むと状況が意味不明になるんだよな。さっきも魔王が突然「妖精様!」と叫び、それに応えて妖精が短剣を運ぶし、いったいなんだったんだ。それにまさかドラゴンの腹に様々な物を詰め込んでるとは思わなかったぜ。

 ただ、どうやらまだ終わりじゃないらしいことは分かる。こちらの奥の手もまだ出てきていない。まだ出るタイミングじゃないと判断しているのだろう。


「殿下! 気を付けてくだされ! あ奴の魔力が膨れ上がっておりますじゃ!」


「ムニムニ! ムニムニムニムニ!」


「封印が完全に解けるそうですわ!」


 封印が解ける? さっきまでは半封印状態であの強さだったってのか。それはキツイ。

 爆風の中から何か大きなモノが立ち上がった。黒い2足歩行の獣だ。


「ガアアアアアアアアアアアッ! XXXXXxx、XXXXXXXXX!」


「第2形態! 第2形態!」


 爆風が晴れてもさっきの男は居ない。この獣が魔王の本当の姿ってことか? そこそこでかいが成人男性2人分程だ。南の砦に現れたクソでかい配下に比べればまだ小さい。が……、マジかよ、無傷に見えるぞ。


 ――ズバーン!


 すかさず妖精付侍女が2発目を撃つ。傷が付いた! いけるか!?

 と思った直後には魔王の傷が塞がった。クソ、回復もするのかよ。面倒だな。さてどうしたものか……。


 ――ゴォオォオッ!


 魔王が一瞬仰け反った後、辺り一面に炎がばら撒かれた。慌てて妖精盾に身を隠す。そういや世界を焼き尽くしたとかいう伝承があったな。当然炎攻撃もあるか。他の皆は……、エフィリス殿の結界で無事か。


「殿下! この姿も伝承にありましたぞ! ワシの推測が正しければマズい状況です! まだまだ大きくなる可能性がありますじゃ! 最終的に山より大きく、おわぁ!?」


 マジかー。まだ強くなるのかよ。山よりでかいとか言われても普通なら信じないだろう。しかし南の砦に現れた配下を見た今じゃぁ、それも信じられる。


 妖精付侍女の魔術に合わせて飛び出した。同時に妖精の身体強化魔術がかかる。最初からかけとけよ。まさか忘れてたとか言わないよな?

 果実を食べて身体能力が上がった状態からの強化魔術、普通なら敵なしの筈だ。しかし魔王ともなるとこの状態でも厳しい。


 丸太のように太い腕の攻撃を搔い潜りながら奴へ向けて走った。奴が少し仰け反ったのを見て大きく上へ飛ぶ。直後、広範囲の地面を炎が駆けた。魔王の口から炎が噴き出ている。先程の炎も口から出したのだろう。森が燃え始めているが今はどうしようもない。


 空中に居る俺に向けて今度は大きな拳が飛んできた。妖精人形を投げて巻き付けた紐を引っ張り拳を避ける。ついでに妖精人形が魔王を斬り付けた。しかしここまででかいと妖精人形の小さな剣じゃぁ大したダメージにはならないな。


 妖精付侍女の魔術が絶えず飛び、魔王の動きを阻害する。さらに魔術師団長の炎が魔王の目を襲う。ダメージにはならないだろうが、目晦ましにはなるだろう。その隙に俺も落下の勢いを乗せて斬り付けた。


 魔王の血と思しき黒い液体が飛ぶ。

 ふむ。飛ばした斬撃はほとんど無意味だったが、直接斬り付ければ効果はあるようだ。しかしやはり魔王の傷はすぐに塞がる。


 俺の着地に合わせて魔王の蹴りがくるが、それを大量の羊が妨害した。さらに妖精付侍女の魔術が浮いた魔王の足を捉え、魔王のバランスが崩れる。チャンスだが……、悩んでいる暇はない。とりあえず光の斬撃を魔王の口の中へ飛ばしてみる。……駄目か。


 ヤバいな。時間経過で魔王が強くなるだけでなく、森の火事も広がってきている。魔王がどうにかなっても火事で焼死なんてごめんだぞ。その魔王も徐々に大きくなってきている。今は成人男性2人半程度の大きさだ。


 魔王の攻撃を避け続けていると、不意に何かが飛んできて魔王に当たり、魔王がよろけた。今度は何だ? ……神域の民が飛んでいる?

 神域の民が持つハンマーが火を噴いて縦横無尽に飛んでいる。それに掴まっている神域の民はただ翻弄されているだけのようだが……、いや、軌道を魔王へ変えようと頑張っているな。そしてまた魔王にぶち当たる。そういや妖精がアイツのハンマーに何か細工をしていたな。


 お、打撃は結構効いてるぞ。

 それならこれはどうだ? 試しに落ちていた木製の玉を投げ付けてみる。魔王配下を倒した玉だ。特殊な効果があるかもしれない。それに今の俺の体ならただ投げるだけでも相当な威力となるだろう。


「ガアアアアアアアアアアアッ!」


 効いてる!

 っと、ヤバい。炎がくる。今からじゃ避けられない。


 致命傷を覚悟した瞬間、エフィリス殿の結界が大きく広がり炎どころか魔王をも押しやった。広がった結界の外で魔王がすっ転ぶ。そしてすぐに結界は元の大きさまで狭まった。こんな芸当もできるのか。流石聖王国の元聖女様だぜ。


 立ち上がろうとする魔王に妖精付侍女の魔術が炸裂し、次いで空飛ぶ神域の民がぶち当たった。神域の民は魔王に叩き落とされたが妖精が回復している。


「ガアアアアアアアアアアア、がほっ! グァッ!?」


 倒れたままこちらに顔を向けて炎を吐こうとした魔王の口に、突然大岩が勢いよく突っ込まれた。炎が体内へ逆流したからなのか、魔王が苦しそうにする。さらにそこへ大きな石礫が雨のように複数飛んだ。


 ようやく出てきたか。待たせやがって。

 転移してきたのは妖精付侍女だけではない。土の妖精剣を持つ冒険者も呼んでいたのだ。おそらく打撃が有効と見抜いていけると判断し出てきたのだろう。


 さて、俺も加勢しに行かないとな。魔王が押し出されて少し距離が開いてしまった。そう思い走り出そうとしたところへ、妖精が鳥の模型を持ってくる。国王父上が乗ってドラゴンと戦ったというアレだ。

 おい、俺にこれに乗って戦えって? 冗談だろ?


 クソ、しょうがないな。

 冷静に考えれば結構有効な手だ。俺とハンマーを持つ神域の民が上空から攻撃することで、奴の意識を足元から引き剥がすことができる。そうなれば冒険者やもう1人の神域の民も戦いやすくなるだろう。


 俺が空で戦うことで、今は見ているだけのもう1人の神域の民も参戦できる筈だ。

 妖精は神域の民アイツに黒い妖精剣を渡していた。ティレス達の話じゃぁ妖精は無駄なことはしないってんだろ? ならあの剣にも必ず意味がある筈だ。むしろあの剣がこの戦いの鍵なんじゃないか?

 妖精剣はその色毎の属性がある。なら黒い妖精剣にも何かしらの属性がある筈だ。そして魔王が使う黒い魔術。絶対無関係じゃないだろ。期待しているぞ、俺にも流石妖精様と言わせてみせろ。


「おい、カティヌールの姫さん! 伝言だ! 俺が魔王の注意を引く。その神域の民に参戦させろ! その黒い妖精剣が今回の戦の鍵だ!」


「は、はい!」


 俺の勝手な予想に過ぎないが、敢えて断言しておく。そうしないと神域の民コイツも不安になるだろ。俺を鍛えた熱血近衛も言っていた。不安なとき程と言えってな。


 大丈夫だ、魔王は絶対倒す。


 じゃぁ1つ、空の戦いをやってみるか。


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