298. その名はずばり

「ほんがあああああああああああああああああああッ!」

「俺に魔法は効かへんっての!」


 さっきから絶叫がうっせぇ!

 なんやあの魔法使いクソジジイは! 無駄に魔法バンバン撃ちまくりよってからに。しかもその都度いちいち絶叫すんなっちゅうねん。


 でもなんやこの違和感。今の俺は闇属性以外の魔法は完全無効の筈やのに、当たるとちょい痛いやんけ。無視できる範囲なんやけど、この強さになってから痛覚なんて久々に感じたで?


「んばああああああああああああああああッ!」


 うっせーな!

 封印される前に闇属性使いは全員殺したし、文献のある都市も軒並み焼き払った。闇属性は失伝してる筈や。せやし、あの魔法使いクソジジイは無視でええ。うるさ過ぎっから黙らせときたいけど、ドラゴンのバリアがなかなか硬そうやしな。後でええわ。


「あんばああああああああああああああッ!」


 それよりこの男や。

 最初どん臭かったくせに妖精アイツなんかしたら急につよなりよった。この如何にも伝説の武具ですって見た目の装備、コイツが今の勇者なんは確定やろ。つまり相手の俺は今の魔王ってか? 妖精アイツも魔王ガルムっってたもんな。勝手に人を魔王にしやがって。まぁ、そう呼ばれてもしゃーないことはしてきたけどさぁ。


 なにが勇者や。その魔法剣使つこてる限り俺にダメージなんか入らへんで。俺にダメージ入れたかったら無属性で頑張るか闇属性武器でも持ってこいや。持ってこれるもんならな!



「すぬううううううううううううううううッ!」


 ――ブシュ!

「ぐ!?」


 なんや!? 左腕に斬傷が!?

 魔法使いクソジジイの魔法やない。勇者の剣もちゃう。ドラゴンんとこ居る奴らもなんかしたようには見えへん。


「ずべえええええええええええええええッ!」


 ――ズドーン!

「ぐへ!?」


 今度はなんや!? 木の玉!? どっから落ちてきた!? 妖精アイツか!

 ウッザ! しかもこの玉、封印の木とおんなじ魔力やんけ! せっかく薄れてきた封印がちょっと戻ってもうた。


 体勢が崩れたところに勇者の攻撃がくる。しつこいな、魔法剣それは効かん言うてるやろ。って、木の棒? ふざけてんのか?


「んちょおおおおおおおおおおおおッ!」


 くそが。何が「んちょ」や、キモいねんて!

 あの魔法使いクソジジイ、うるさ過ぎて細かい動き見逃してまうやろ。


 ――ブシュ!

「!」


 は? 妖精? なんで急にボロボロに?

 あ、紐付いとる。人形やんけ。

 唯一俺にまともなダメージ入れれてんのが人形て、どこまで人おちょくったら気ぃ済むんやアホ共が! 俺が変身したらお前らなんか1発やねんぞ!?

 まずはその人形ぶっ潰したる!


 ――ピカッ!

「うお、まぶし!?」


 なんで人形が光んねん!?

 なんやねんもう! 勇者やろ!? 俺魔王なんやろ!? ラスボス戦やんけ! こんなふざけたラスボス戦あっかよ!


 ――ズドーン!

「ぐ!?」


 また木の玉かい! もうええわ!


「ふふふ、どう? その玉はアンタご自慢の配下の1体を倒した玉だよ?」


「はぁ? 配下ぁ!? 俺に配下なんか居ぃひんわ! ……あー、あれか? 俺の魔力溜まりから勝手に生まれた魔物らか? そんな副産物倒してイキんなよ!? そんなモンなんぼでも出せんにゃからな!」


 ちょっと魔力込めると地面から4つ足の狼みたいな黒い魔物が10体程立ち上がる。コイツ1体でそれなりの街滅ぼせるくらいには強いで。さぁ、どうする?


「まだ俺を倒せる思てるようやけど、格が違う。アンタに生物生成なんてできひんやろ?」


「……あ、思い出した」

「は?」


 何かとおもたら羊が大量に出てきた。あふれ出てきた羊が俺の魔物を押し潰す。


「おい、生物生成は神格に片足突っ込んでなできひん芸当やぞ? なんでアンタにできんてんねん!?」


 妖精コイツにも神格があるってんのかよ?


「迷える子羊だよ。いやー、生物作るのとか無理かと思ってたけど、そういや子羊出したことあったわ。仏のポーズすると出てくるんだよね、なぜか。南無ナム~」


 どこまでも人をおちょくりやがって。

 魔法で羊共を吹き飛ばす。せっかく出した羊が瞬殺されたってのに、妖精は涼しい顔をしたままや。ムカつくわぁ。


「あと消すこともできるよ」


 そう言うと、羊の死体が何もなかったかのように綺麗さっぱり消えた。


「ふんがああああああああああああああッ!」

 あー! だからうっさいってんねん魔法使いクソジジイが!


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 ドラゴンオマエもうっさいんかい! それに鳴くだけでなんもしいひんのかい!

 どうせ鳴くならなんかしろや!


 ――ズドーン!

 だからもう玉はええ言うてんやろ! 何回やんねんこの流れ!


 ……このふざけた流れやと、さっきドラゴンアレの腹から散らばった変なアイテムもふざけた効果ありそうやな。

 ってかあの5本の短剣、魔力だだ漏れ過ぎやろ。なんぼ程威力あんねんアレ。アレ奪えたら勇者の盾も貫けんちゃうか?



 ……にしても、よう分からん状況や。

 俺の名前は伝わってるらしいのに、なんで俺を名前で縛ろうとせぇへんのやろ。まぁ、今の俺ならやっても無駄なんやけど、にしても試しすらせぇへんのは疑問やで。今まで突っかかってきた人間は、だいたい初手名前縛りやったのにな。


 つーか、妖精が名前で縛られてんのは確実やろうけど、どうも完璧に縛れてへんみたいやん。明らかに連携とれてへんやろコイツら。縛られてる割には行動が突飛過ぎんねんて。それでも妖精アイツがコイツらの頼みの綱なんは間違いあらへん。闇属性魔法まともにくろてピンピンしてる奴なんか普通ちゃうやろ。


 これなら俺が妖精アイツの縛りを上書きできそうやな。妖精アイツの体は魔力の塊みたいなもんや。名前は魔力を縛る。つまり魔力でできた妖精アイツを縛れば身も心も縛ったようなもんや。


 妖精アイツを縛るには妖精アイツの名前が分からんと思てるやろ? でも見当は付いてんねんで。俺がアンタらの言葉分からへん思て油断しとるやろうけど、アホでも分かるわ。

 妖精アイツに命令すっときアンタらが最初に言う言葉……。


 ずばり、妖精アイツの名前はアシェールラや!


「ちょわああああああああああああああああッ!」

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 うっせー!

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