289. 計画どおり

 なんか体が吸い込まれたと思ったら、なんか吸い出された。

 なにを言っているのかわからないと思うけど、私もなにをされたのかわからなかったよ。なんだったんだ……。


 なにがなんだかわからないから誰かに状況を訊きたいんだけど、みんななんか忙しそうなんだよね。とても状況を訊きだせる感じじゃないっぽい。

 魔法使いみたいな人相手によってたかってわーわー言ってて大変そうだなーって。


 とか思っていたら、比較的暇そうな人を発見した。聖女さんとその専属メイドさんだ。聖女さんはとってもお疲れっぽいけど、このセイント専属メイドさんならいろいろ訊きだせるでしょ。名前は確か……、カエラさんだっけ?



「妖精様は、敵の魔術師が股間から出した魔道具にお吸われになられたのです」


 ……なんだって?


「股間の魔道具で吸われた妖精様は、その後またすぐに出てこられたのです」


 ……えーと?


「……」


 え? 説明それだけ?

 まぁでも、それだけあの魔法使いっぽい人が意味不明だったってことかな。だから常人には説明できない、みたいな?

 ってか、股間の魔道具ってなんだ。私ってそんなのに吸われたの? なんかすっごい気分悪くなってきた。おのれ股間の魔術師め。浄化しとこ……。


 でも、魔道具に吸われたとわかったことでちょっと思い出したことがある。

 魔道具の中にいる間、なんか不思議な感覚がしたんだよね。火っぽい魔力と風っぽい魔力だ。たぶんあれが属性ってヤツだったんだろうな。あの感覚が人間が使う属性魔術なんだと思う。私が普段使ってる魔法とちょっと違うなぁって思ったもん。



 それはそうと、勇者くん側のこれまでの経緯も訊きださないとな。

 ムニリーダーが吹っ飛ばした玉が落ちただろう場所に来てみたら、近くにこの砦があったから近づいてみたんだ。そしたら勇者くんが居たんだよね。


 勇者くんの方でも何かしら状況が進展してたハズ。だって山の麓に大軍が占拠してるんだもん。そしてこの股間の魔術師騒ぎだ。何もなかったなんてあり得ないよね。

 もしかして山の麓の大軍が魔王軍だったりする? でも人間だったから違うか? でも魔王が復活して暗くなってる南からやってきただろう大軍なんだよね?



「神域の民が砦を襲って魔王の配下が出てきました」


 ……えーと?


「……」


 え? 説明それだけ?

 このセイント専属メイドさん、壊滅的に状況説明が下手じゃない? 釣り目美人でできる女って感じの人だけど、さてはこの人ポンコツだな?

 で、あの山の麓の大軍は?


「南にあるカティヌール王国の軍ですね。彼らが神域の民と魔王配下を呼び出したという魔術師達を連れてきたようです」


 え? 股間の魔術師が魔王配下を呼び出したの? どういうこと? 魔王って人類の敵って感じじゃなかったっけ? うーん? よくわからないんだけど……。


 こういうときは、まずわかることを整理していかないとダメだよね。

 とりあえず確定情報は、この国の南にはカティヌール王国っていう国があることと、山の麓の大軍はそのカティヌール王国の軍だってことだ。


 で、神域の民が襲ってきた?

 神域の民ってムニムニたちのことだよね? 連れてきたムニリーダーはずっと私と一緒にいたからムニリーダーが襲ったワケじゃないのはわかる。お城においてきた他のムニムニたちも、まさか先回りしてここを襲撃なんてしてないだろう。ってことは、別のムニムニがここを襲ったのか。


 そう言えば、お城のムニムニたちも最初は私たちを襲ってきたもんね。一緒に遊んだりしたから忘れてたけど、たぶんこの国とムニ国は敵対関係なんだろうな。それで、ムニ国も南にあるって話だったから、カティヌール王国のさらに南がムニ国なのかもしれない。そのムニ国で魔王が復活した?


 で、復活した魔王の配下を股間の魔術師が呼び出したと。呼び出した魔王の配下はどうなった?


「玉に当たって死にました」


 股間に玉だって? この世界の戦はなんでそうギャグに全振りするの?


 あ、いや、もしかして?

 その魔王の配下に当たったっていう玉って、ムニリーダーが吹っ飛ばした玉だったりする? そんなバカな。そんな偶然ってある? ご都合主義展開すぎるでしょ。そんなアニメとかゲームとかあったら私だったらキレちゃうよ?


 んー、わからん。もう深く考えるのはやめよう。

 どうせ私が色々考えても何もわからないし何も解決なんてしないって。ここには勇者くんとか聖女さんとか国の偉い人がいるんだ。全部まるっと任せとけば万事オッケーだよね。



みな、流石は妖精様だと讃えられておられますよ」


 ……え?

 どゆこと? なんかまた私が事前に計画してたとか勘違いしてない? でもまぁ、それならそれで全力で乗っかっておくか……。だって、玉飛ばしたのとか無計画の事故でしたなんて知られたら絶対怒られるもんね。


「……計画どおり」


「流石は妖精様です」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る