288. 吸収
ファルシアンのゴミ共が、妖精が来たと言って騒ぎ始めた。これはチャンスだ。
しかし、同じ地下牢に捕らえられている同志達は死んだような目をして動こうとしない。既に諦めている者の目だ。
しかし私は違う。私は1人でもやり遂げてみせる。
魔術師の拘束は通常、口を封じておくだけで十分だ。普通の魔術師ならそれで詠唱できず魔術が使えなくなる。
が、私を普通の魔術師と同じにするなよ。魔術の真理に手を掛けている私にとって詠唱など不要なのだ。魔術杖すら必要ない。
さらに、魔力抽出の魔道具。
ああ、優秀な者達は帝国に皆殺しにされていたのだったな。そのためこの場には無能しか居ないのだ。馬鹿ばかりなのも納得である。
気付かれないように威力を抑えた魔術で手足の拘束を解き、そして兵の大半が妖精のもとへ行き人が減ったタイミングで牢の壁を吹き飛ばした。
見かける者共を全て魔術で吹き飛ばしながら階段を上り外に出ると、正に今、砦の中庭にドラゴンが下り立つ瞬間であった。攻撃魔術を連射しつつ身体強化してドラゴンに駆け寄る。
「脱走だッ! 誰かそいつを捕らえろ!」
「速いッ!?」
「おい! 殿下に近付けさせるな!」
見つけたぞ! あれが妖精だな!?
ドラゴンのまわりを飛ぶ小さな光の玉、目を凝らすと人型に見える。そして虫のような羽。間違いない。
ついでに別の
「ふんぬばああああああああああああああ!」
絶叫と共に攻撃魔術が飛んでくる。
あれが王国の悪魔と名高い無詠唱魔術師だな。防御魔術で相手の攻撃を防ぎつつ、同時にこちらからも攻撃魔術をお見舞いしてやる。するとあっさりと倒すことができた。妖精が傷を回復させているようだが、奴の魔術など脅威ではない。
ふん。無詠唱とは言いつつも、いちいち絶叫しなければ魔術を行使できない半端者め。所詮この程度か。引退済みの老い耄れが戦場に出てきたところで無意味なのだよ。
妖精は近い。このまま押し通る!
「ぬおおおおおおおおッ!」
「狙いは殿下達じゃぁない! 妖精様が狙いか!?」
「こいつ! 下着の中から魔道具を!?」
「なにッ!? 魔道具を隠し持っていやがったのか!」
よし、有効距離だ! 妖精の魔力、根こそぎ奪ってやるぞ!
……お!? おおっ!?
なんという魔力量、聖女の魔力などとは桁違いだ! しかも、妖精の体ごと吸収している!?
「ああっ!? 妖精様が!」
「あの男の魔道具に吸い込まれてしまわれたぞ!?」
なるほど。この妖精、体は魔力で構成されていたのだな。そのため魔力吸収で体ごと吸い込んだのだろう。これは新発見だ。
「対魔術盾部隊、奴を囲め! 行け!」
「ふはははは! 今更対魔盾など寄せ集めたところで無意味だぞ! 見よこの尋常ではない魔力量! おっと、馬鹿なお前達ではこの魔力量でも感じ取ることはできないのかな? これは失敬。ではこの私が目に見える形にしてやろう! 砦ごと吹き飛ばしてくれる!」
聖王国の結界は外からの干渉を防ぐには非常にすぐれているが、既に砦内部に居るこの私相手に結界での対処は難しいに違いない。
「くくく、この私のとっておきを見せてやろう! 火属性に風属性を混ぜると破壊力と影響範囲が高まるのだ。貴様ら下等な馬鹿共には2属性を混ぜるなど発想すら出てこなかっただろう? この大規模魔術、魔術の神髄を理解しないお前達には防ぐことなどできはしまい!」
「や、やめろぉ!」
私の手にかつてない程の魔力が集まり、その魔力圧で周囲の埃や小石がフワリと浮き上がる。
「ふんぬばああああああああああああああ!」
王国の悪魔が性懲りもなく魔術を飛ばしてきたが、しかし私の周りに渦巻く高濃度の魔力がそれを防いだ。
「ふはははは! 最早私に攻撃することなど不可能! この高濃度魔力! 既に結界と言っても過言ではない! さぁ、準備は整った。そろそろ皆死ぬが良い!」
放たれる膨大な魔力!
そしてそれはポテッと足元に落ち……、見ると妖精が座っていた。不思議そうな顔でこちらを見上げてくる。
あれ程高濃度に渦巻いていた魔力も綺麗さっぱり消えてしまった。
何故だ!? 私は大規模破壊魔術を発動した筈なのに!
「確保だ! 対魔術盾部隊囲め! 数で攻めろ!」
馬鹿王子がそう叫ぶと共に、光の刃で私の右腕を斬り飛ばした。くるくると飛んでいく私の腕と魔道具がやけにゆっくりと見える。
ここまでか……。
魔術の発展が、人類の進歩が、私の理想が……、今、潰えたのだ。
おのれ、ファルシアンめ。
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