273. 帰ったらな
「あ、ダスターさん。もう帰って来たんですか? 早かったですねぇ? ちょうど良かったです。"双子神"様の逆流被害の災害復旧依頼とかあるんですけど受けちゃってくれますぅ? いやぁ、助かりますぅ」
「いや……、あの……」
相変わらず話の勢いが凄い。
災害復旧依頼があるようだが受けることはできないんだ。何故なら今俺は王城から待機指示が出ているからな。
早めに帰ってこられたのは、王女一行が襲撃されたため以降の予定をキャンセルして王都に帰還したからだ。
頭の中ではそう考えられる。が、それを人に伝えるとなると何故こうも難しいのか。
「あー……、無理だ」
「えーっ!? どうしてですかぁ? 今もう大変なんですよぉ。知ってます? 東門でドラゴンが暴れた件。あ、王城絡みなら私より詳しそうですね? 教えてくださいよぉ。どうせ妖精様絡みなんでしょうけど、私今それですごく忙しいんですよね。ただでさえ逆流で忙しかったのに。それに無駄に商業ギルドのギルマスも来たりして、観光客がいっぱい来て嬉しいのは分かるんですけど、だからと言って冒険者ギルドで語られても困りますよねぇ?」
「あー、そうだな」
確かにドラゴンの一件は知っている。が、俺にも何がなんだか分からんのだが……。
王女一行が異様に強い奴らに襲われた。気付けばドラゴンが目の前に居た。そして襲撃者を河に落とした。分かることなんてこれだけだ。その襲撃者は神域の民とか言う者達らしいのだが、それをここで俺の口から言える筈もない。
襲撃者が本当に神域の民なのかは不明なままだそうだが、おそらく間違いないだろう。妖精様が魔王対策に乗り出したこのタイミングで魔王の封印を守る民が現れたのだ。偶然の筈がない。それに、もし悪意ある偽物なら、俺が監視役から外される際に妖精様が反対した筈だ。妖精様が彼らの解放を黙認されておられると言うことは、そう言うことなのだろう。王家もそう考えているに違いない。
で、詳細の説明だったか。どう説明するかな。
ドラゴン襲撃は多くの者達に目撃されている。その範囲なら話しても良いか。それにどうせ、このサブマスには王城からより詳細な情報がくるだろう。王妃お気に入りなのだから。それでも一応、魔王の件は伏せておくか。
そうして俺は、つっかえつっかえではあるが、なんとか今回の件をサブマスに説明した。
「えーっ!? 大変じゃないですかぁ!?」
「ああ……」
「この時期にそんな事件って、陛下もてんてこ舞いじゃないですか? 逆流の対応もあるのに、妖精様関連で他国の対応も多くなってるって聞いてますよぉ」
「……そうだな。……両手で対応されておられるからな」
「両手で? そりゃぁ陛下も両手はありますでしょうけど」
「いや……、なんと言うか……。両手でペンを持って……、右手と左手、別々の書類の対応をされておられるんだ……」
俺が王妃に右手と左手で別々の文字が書けそうって言ってしまったからな。まさか本当に実践されておられるとは思わなかったが……。
国王陛下のお体は妖精様のおかげかとても健康そうに見えた。しかし精神的に疲れきっておられるのだろう。表情が虚無だった。
「え、そんなことできるんですか!? 冒険者ギルドの事務も手伝って欲しいですぅ!」
「おい……」
恐ろしい発想だな……、国王陛下に自分の事務処理手伝えって。
冒険者ギルドも商業ギルドも薬師ギルドも王城も全て顎で使う恐ろしいサブマスって噂、あながち間違ってないんじゃないか?
「で、木を南に運ぶから、ダスターさんはその護衛も依頼されてるとぉ。それで待機ですか。いつ行くんです? 木って何なんです? わざわざ王国の木を運ばなくても南の国で伐採すれば良いんじゃないですか? 南の方が大きい木がいっぱいあるって聞きますよぉ?」
「……さぁな」
俺に訊かれてもな。
とりあえず、運ぶ木は普通の木ではないのだろうことは予想が付く。そしてそれが何かしらの魔王対策に繋がるのだろう。
同行者は勇者である第2王子殿下に聖女様、神域の民とその通訳役のカティヌールの姫。勇者に聖女に神域の民に妖精様とくれば魔王問題だろうことは嫌でも予想が付く。できれば関わりたくないのだが……。
「あ、木と言えば第2王子殿下の護衛で同行したインディさんからの報告にありましたよ。西の森で横転していた王家の馬車から木が生えてたって。意味不明でしたけど、今回の件に関係あります?」
「む……。……あるかもな」
俺も西の森の木を運ぶと聞いている。だとすれば無関係ではないだろう。後でインディに話を聞いておくか。
「むぅ。まぁ良いですけどぉ。……それでですね、考えておいてくれました? 答え」
「……答え?」
「ちょっ、それはひどいですよぉ! 結婚です! 結婚のことです! 私とのっ!!」
「あ、あー……」
とりあえず返答を先延ばしにしてしまっているが、そろそろ俺も腹を括らねばならない。好きかと問われるとよく分からないが、俺にここまで構ってくれる女性など他に居ないのだ。婚期などとうに逃したと思っていたが、意識などしていなかったと言えば嘘になる。王妃殿下に命じられたからとかではなく、1人の男として真摯に対応すべきだろう。
「……ああ。結婚しよう。次の任務から帰ったらな、サブマス……、いや……、リスティ」
「……っ! ひゃっ、ひゃいっ!」
顔が真っ赤になるリスティ。俺もそうなのだろう。今すぐ服を脱ぎ捨ててしまいたいくらい暑い。
「あのー……、私の前でイチャつかないでもらえます?」
「うひっ、ギルマス!?」
……しまったな。
ここはギルマス部屋だった。
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