232. 驚きの連続
「大丈夫かい? エフィリス」
「ありがとうございます。ようやく落ち着いてきました」
優しく問いかけてくださったアーランド様にそう答えます。
「んー! んー!」
ドラゴンが飛び立った瞬間などは、非常に大きな力でドラゴンの背に押さえつけられこのまま死ぬのではないかと思いましたが、今はドラゴンの背の上だというのに風を感じることすらありません。
「シルエラ、妖精様のご様子は?」
「はい、お眠りになられました」
「んー! んー!」
「そう……、か……」
「んー!!」
アーランド様の問いに、唯一付いてきた侍女が鳥籠の中を確認しながら答えました。私だけでなく、全員に困惑の表情が浮かびます。妖精様は突拍子もない行動が多いとお聞きしておりましたが、ここまでとは……。
会議での決定では、もっと念入りに準備した上で数日後の出発、それも複数の近衛や侍女を連れての聖王国訪問となる予定だったのですが。
「んーッ!」
「少し黙りたまえ。あなたも一国の皇子なのだろう? あまりにも騒ぐようならここから落としてしまっても良いのだけど」
「んーッ!?」
ロープで拘束され口も塞がれている男性が先程から恨めしい声をあげ続けていたのですが、アーランド様の脅しを受け最後のうめき声をあげた後、静かになりました。
「エフィリス、こちらのお
ロープで拘束された男性を見て母が私に問いかけてきます。しかし、心当たりはあるものの私にも確証はありません。アーランド様の一国の皇子という発言、それから先程の会議の内容から見当は付いているのですが、念のため答えを求めてアーランド様に目を向けます。
「ああ、彼がサルディア帝国第二皇子ジグハルト・ラ・サルディアだ。今は気にしなくて良いよ」
「それにしても、これほど高いと逆に高いという感じがしませんね」
ティレス王女殿下がサルディア帝国第二皇子を足で隅に追いやりながら話題を変えられます。
「高いところから下を見下ろすと恐怖を感じるものですが、今はそのような恐怖を全く感じません」
私なんかはドラゴンに乗るのも空を飛ぶのも初めてですから、ドラゴンの飛翔が落ち着いた今でも胸のドキドキがおさまらないのですけど……。10歳とは言え、流石は1人で敵軍をご自身ごと焼き尽くされるだけありますね。
「前に進んでいるようには見えないのですが、今も聖王国へ向けて進んでいるのでしょうか」
「どうやら進んでいるようだね、ティレス。地上が遠すぎて止まっているように見えるだけのようだよ。しかも積雪でより分かり辛い。その証拠に……、見てごらん、雲がすごい勢いで後ろに流れていく」
アーランド様の言葉に、皆様は先程通り過ぎていった白いモヤのようなモノを目で追って後方を向きます。
「雲? 先程のあの白いモノが雲なのですか?」
思わず疑問が口から出てしまいました。
「ああ。高い山に登ってみると分かるんだけどね、雲を間近で見るとああいう感じに見えるんだ。南方諸国へ赴いた際の山越えのときに気付いたのだけど、雲は霧の塊のようなモノらしいね。手で触れたりはできないようだよ」
なるほど、雲にぶつかる心配はしなくて良いようですね。風もなく進んでいる感じが全くしないのですが、あとどれ程で聖王国にたどり着くのでしょうか?
まさかこのような形で聖王国に戻ることになるとは思いもしませんでした。思えば
突然現れた母を王国は当然のように受け入れてくださり、母の身支度をしてくださいました。その夜に母と再会すると若返っていてまた驚きました。母に会うのは数年ぶりですが、最後に会ったときよりも今の方が明らかに若々しい。なんでも妖精様のお風呂の効果なのだとか。
そして母から、妹が光の玉を割り教会関係者を洗脳して母を殺害しようとしたという衝撃の話を聞いてまたまた驚いたのです。さらには、あのお酒臭い男が精霊様だったなんて。
この2日は驚きの連続でしたが、それは母も同様でしょう。
自分の娘に殺されそうになったと思えば遠いファルシアン王国に一瞬で移動して、蛮国だと思っていたそこは夜でも明るく冬でも暖かい非常に高度な技術力を持った国だったのです。
さらに妖精様の存在に驚かれ、妖精様のお風呂で若返り、もう2度と戻らないと思っていた光の玉が普通に存在してと、さぞ驚きの連続だったことでしょう。しかもその光の玉は、聖王国のモノよりも明らかに上位互換なのです。人類の至宝の1つとまで言われた光の玉の上位互換が、建物3階の高さから何度も落とされていたと聞いた時の母の顔は今でも忘れられません。
そしてドラゴンが歩き、ドラゴンに乗せられ、今は空を飛んでいるのです。ドラゴンに乗って空を飛んだことのある人なんて、いったい世界に何人居るのでしょうか。そもそもドラゴンを見たことがある人すらほとんど居ないでしょうね。
「それで、お兄様。会議での決定とはかなり状況が変わってしまいましたが、今後はどのように動かれるのですか?」
「とりあえずは聖王国との交渉だね。全く何の用意もできなかったけれども、最低限光の玉はあるからね。それを聖王国へ譲る代わりにこちらの要求を全て飲ませて終わりだよ。その後は聖王国が結界を再展開すれば他国の侵攻も止まる」
「上手くいきますか?」
「ふふ、心配しなくて良いよ。状況は圧倒的に王国に有利だ。光の玉さえあれば全て解決するのに光の玉を他から入手することができない聖王国は、こちらの要求を飲まざるを得ないからね」
アーランド様が皆様を安心させるように笑顔でそう言います。
「……エフィリスも、そんな顔しないで。聖王国も悪いようにはしない。私は戦いでは役に立たないけどね、交渉くらいは任せておいてよ」
「はい」
不安が顔に出ていたでしょうか。こういう時だからこそ笑顔でいないと。
「魔女……、聖女の洗脳はどうするのですか、お兄様? 会議では妖精茶で洗脳を解くという話でしたが、用意できていませんよ」
「そこは状況次第だね。会議の直後にドラゴンで強行出発。妖精様がこれ程急ぐということは、事態は予想よりも進行してしまっている可能性が高い。状況を見てみないことには何とも判断ができないな」
魔女……。妹は確かに我儘な性格ではありましたが、本当に聖王国はそこまでの状況に陥っているのでしょうか。私が聖王国を出てまだ四半期も経っていないというのに。
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