208. 魔女

 銀髪ちゃんと聖女さんが私の前で跪いて目をつむり、一心に何か祈っている。数日前から始まった謎のお祈り時間だ。でもなぜ急に祈りだされたのか分からないんだよね。この国の信仰対象が妖精じゃないことは確認済みだけど、もしかしたら聖女さんの出身地は妖精信仰だったのかなぁ? たしか東の方の国外から嫁いできたんだっけ。


 こうして目の前でお祈りされてると、なんか新興宗教誕生の瞬間に立ち会ってるような気がしてくる。そうなると私が教祖か。いや、私は信仰対象か。じゃぁ教祖は聖女さん? なら銀髪ちゃんは組織のナンバー2ツーってことね。でもそのナンバー2ツーが今のところ組織の最下位でもあるんだから、かなりショボい宗教団体だよね。


 私が救国の英雄だから信仰対象にしようってことなのかな? でも、私を救国の英雄だとでっち上げたあの劇がウソだってことは、王族なら当然知ってるよね? 知った上で信仰対象にでっち上げようとしてる? 民衆よ、こちらにおわすお方が妖精様だ! 控え居ろう!って?

 そうなったら壺とか作れば売れるかもしれない。作ろうかな、壺。何か効果とか付与しとけば詐欺とも言われないでしょ。だって実際にその効果があるんだから。


 うーん、もしかして現存宗教と王家の壮大な対立関係に利用されてたりしてる?

 でもまぁ良いか。どうせ私が深く考えても何も変わらないんだし。私は流されるまま生きるだけだよ。私に危害がないなら特に文句もない。なにせ私は忠実なる王家のペットだからね、わんわん。


 それにしても暇だ。この2人、1度祈りだすと1時間くらいは余裕で祈り続けてるんだよね。しかも祈り終わった後も何か反省会とかしてる。祈りの反省って何さ? 足が痺れてモゾモゾしてたから今日は減点ですとか?




 長時間祈ってる2人を見てて気づいたことがある。たぶんこれは祈ってるって言うより瞑想とかに近い修行みたいなモノなんだと思う。2人の魔力の揺らぎが穏やかになったり膨れたり……、魔力コントロールの修行ってことか。

 同じ魔法でも魔力コントロールが上手いと威力が高いとかあるのかもしれないね。んで、戦の最中に「今のは上級魔法ではない、下級魔法だ」とか言って相手をビビらせるんだ。


 そう言えば魔力量がどうたらとかお祈り後の反省会で言ってたような気がするな。魔力量が増えれば良いのか。あ、もしかして私に魔力量増やしてくださいってお願いしてるってこと? だからお祈りしてる?

 だったら最初から声に出して言ってくれれば良いのに。今なら言葉もだいぶ分かるようになってきてんだからさ。ほいっとな。



 お祈りの後に聖女さんと銀髪ちゃんが何やら騒いでたけど、たぶん魔力が増えて嬉しかったんだろう。そんなことより下が騒がしい気がする。お祈りも終わったし行ってみよう。


 お城のホールまで来ると、ホールに飾ってあるドラゴンの前で事務員しょうさんがひっくり返っていた。隣にはお酒マンと、たまに見る受付姉さんもいるね。冒険者ギルドの人たちがお城に来るなんて珍しい。



 しばらくすると会議が始まった。ドアップ様に金髪兄さん、勇者くんに銀髪ちゃん、それから冒険者ギルドの事務員しょうさんと受付姉さんとお酒マンだ。あと書記官とか秘書みたいな人が数人いる。


 また何か起こったのかな? 前に冒険者ギルドの人とお城の人が会議したのって、南への大遠征前だったよね。あのときは盗人ぬすっと騒ぎで途中離脱したから、結局南で何が起こってたのか知らないままなんだよなぁ。



 ……うーむ、これは事件の香りですね、間違いない。しかも前より大きな事件っぽい。だって魔王とか勇者とか言ってるもん。いよいよファンタジーRPGっぽい本題が勃発するんかな? ドラゴンもファンタジーRPGっぽいけど、あれがラスボス戦だったかと言われると、いや中ボスでしょって感じだったもんね。

 ラスボス戦と言えばやっぱ、敵ダンジョンの奥まで行ってようやく戦闘ってのがセオリーってもんよ。


 そう言えば、前に金髪兄さんと聖女さんも勇者がどうとか2人で夜に話してたなぁ。あの時はどんな話してたっけ? たしかドラゴンに乗りたいとか、それから……。ああ、思い出した。


「魔女!」


 ……しまった。

 ちょうどみんなが一斉にこっちを向いたもんだから、何かリアクションを取らないとって思って思い出してた魔女という単語を言っちゃったよ。いつもみたいに無難に頷いとくだけで良かったのに、唐突に脈略もなく魔女なんて言っちゃったもんだからみんな反応に困ってるって。空気が微妙だよ! 渾身のギャグで滑ったお笑い芸人みたいになってるじゃん!


 こうなったらもうゴリ押すしかない。私はいかにも正しいことを言いましたって雰囲気を醸し出すのだ。


 ――そう、この会議のキーワードは魔女だったのです!


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