204. 演劇
今年は激動の1年だった。
舞台上で飛び交うドラゴンと白い鳥の模型に乗った
当初この演劇鑑賞は私とエフィリス、そしてティレスだけでの予定だった。私とエフィリスの親睦を深めること、そしてエフィリスの王国への理解を深めることが目的である。
ティレスは本人が参加を望み、自動で結界を張ることができる妖精様のイヤリングを持つため許可が出ていた。
両親や弟が参加できたのは、今もエフィリスが身に着けている腕輪のおかげである。彼女の腕輪の中央で薄く光る透明な玉は、驚いたことに聖王国にある光の玉と同じ性質の物らしい。
腕輪の玉は小さいため流石に国まるごと覆う大きな結界を張ることは不可能だと聞いているが、それでも王都をまるまる覆う大きさの結界も張れるだろうとエフィリスは言っていた。それは1人での魔術としては驚異的な規模だ。
そんな光の玉を妖精様は事前にご用意されていた。しかも妖精様付き侍女に確認したところ、なんと妖精様は光の玉を玉転がしゲームの玉として使っておられたらしい。
妖精様らしいカモフラージュだ。事前に
どうして妖精様が光の玉をご用意されたのかは現時点では分からない。
静かに演劇を鑑賞されておられる妖精様、そのすました表情からは何を考えておられるのか私には分からない。まるで遥か遠い未来を見据えておられるようだ。
エフィリスは食い入るように劇を見ている。衝撃的な内容だからだろう、時折肩を震わせて感涙している。その姿は小動物のようで愛らしい。ティレスも劇に夢中だ。
ティレスがエフィリスに懐いたのは嬉しい誤算だった。これまで国の衰退のみを見続けてきたティレスは、近しい者以外にはドライな対応を取ることが多かった。しかしエフィリスとは魔力量増加の訓練を通してかなり仲が良くなっているように見える。
幼少期に戦での功績が国で最も喜ばれる功績だと刷り込まれてしまったティレスは前線に出ていた弟の影響もあり、見た目からは想像できない程力で物事を解決しようとする思考が強い。どうか、おっとりとしたエフィリスから良い影響を受けて欲しいと思う。
どうやら舞台上ではドラゴンとの決着が付いたようだ。
実際にはあのとき、鳥の制御が困難だったという理由で
この劇にはいくつか目的がある。その1つは民衆にある程度の情報を与えて納得させることだ。秋のドラゴン騒動で言えば、人為的だったこととその首謀者を討ったことで再襲撃はないと納得させる。夏のスタンピードも同様だ。そして王城への不満を帝国やエネルギアへ逸らし、王家の支持率を上げるといった目的もある。
民衆もスタンピード無血防衛やドラゴンとの空中戦を目撃しているのだから、多少脚色したとしてもそれが事実と信じて疑わないだろう。なにより普段から王都中を飛び回っておられる妖精様の存在が説得力を増している。
劇が終わり、エフィリスが私を見てきた。自然と見つめ合い、笑顔が浮かぶ。
今後もまだまだ忙しい。しかし私には特筆した妖精様の加護がなくても、彼女の笑顔があれば頑張れそうな気がするね。
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