177. 声

「えと、それで、冒険者ギルドのサブマスター様がどうしてこちらに?」


 小さな侍女さんにたずねられる。


「いやー、何故ですかねぇ?」


 妖精様に拉致されて突っ込んだ先は、どうやら王城にある妖精様の自室のようだった。お城に突っ込んだとき腕が変な方向へ曲がっていたと思うんだけど、今は何ともない。でも絶対折れてたって。妖精様、治せば怪我させても良いとか思ってるんじゃ……。


「インディさんは何か心当たりあります?」

「いえ……」


 もう1人、私と一緒に拉致されてきた男性は弓使いのインディさんだった。スタンピードのときに弓矢でオークキングにとどめを刺したという凄腕さんだ。


 部屋に飛び込んだときに結構な音が鳴ってたようで、廊下にはどんどん人が集まってきている。原因の張本人である妖精様は部屋の中をのんきに飛び回っていたけど、唐突にボードゲームをテーブルに広げられた。そしてボードゲームを指さして注目を集めた妖精様は、何か奇怪な動きをされ始める。


 ボードの真ん中でばんざーい。と思ったらいきなりバタリと倒れた。集まっていた全員が何事かと驚くけど、どうやら心配はいらないみたい。すぐに飛び上がる。


「うーん? この行動には何の意味が?」

「……分かりません」


「手を上げる……、私にかかってこい? それで、倒れたのは妖精様が負けたことを表しているんですかね? つまり、妖精様にゲームで勝ったら何かあると?」



 侍女さんに状況を訊くと、どうやら妖精様はこの2日間ほぼまるまるこのボードゲームで遊んでいたらしい。羨ましいよ、私なんてずっと書類作成だったのに。


「えーと、妖精様はボードゲームのお相手をご所望で? あなたに負け続けたから、勝ちたくて違う対戦相手を連れてきたってことです?」


「いいえ、知略の妖精様ですよ。わざと負けて頂いていたに決まっています」


「うーん、じゃぁなんだろ? まぁ対戦してみれば分かるかもしれませんね」


 インディさんは突然王城に連れてこられたからか、空気に徹している。集まってきている人達も話には入ってこない。どうやら私がやるしかないっぽいね。仕方なく私は妖精様の向かいの席に座った。侍女さんが駒を並べてくれる。


 置かれているボードゲームは有名なモノで、幸い私でもルールを知っていた。確か巡礼をモチーフにしたゲームだ。ボードの四隅を経由しながら司教の駒を一周すれば勝ち、これは各地の聖地を回って戻ってくることを示していると聞いたことがあるよ。それから、相手の駒を挟めば自分の駒になるのは宣教で相手の改宗に成功したからだって。


 だけどゲームをしたかった訳ではないのかもしれない。妖精様はボードゲームを開始されず……。



「……あ、あ、あ」

「?」

「妖精様、声が!」


 え、今の声って妖精様? めちゃくちゃ可愛い声だったよ!


「……ドラゴン、召喚、危険」

「うわー、可愛い!」


「ドラゴン、召喚、危険……。ドラゴン、召喚、危険……」

「?」


 声は可愛いんだけど、言ってることはなんだか不穏じゃない?


「なんですと!?」

「わ、びっくりした!」


 いつの間に居たのか魔術師団長様が驚愕の声を上げる。


「どうしたんですか? 魔術師団長様」

「これは、このボードゲームはですな。いにしえの大規模召喚儀式を後世に伝えるために作られたのが元となっておるのですじゃ」


「え? でも私は、これは教会の巡礼や宣教を表したゲームだと聞きましたが……」


 侍女さんが魔術師団長様とは異なる由来を言う。私が知っているこのゲームの由来も侍女さんが言っているのと同じだ。


「それは後世に後付けされた設定ですな。元々は大規模召喚儀式をゲームに隠して伝承していたモノなのですじゃ。召喚陣を設置して、それを取り囲むように霊石を4箇所に設置、それを2組の術者が決まった手順で魔力を注いでいくという」


「え、じゃぁどこかでドラゴンが召喚されて危険ってことですか?」

「むむむ、こうしちゃ居られませんぞ!」


 ええ、なんだか大変なことになってきちゃったよ!


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