176. 召喚

 2日続けてボードゲームをやり続けてしまったけど、そろそろ飽きてきた。違う、勝てないから嫌になってきちゃった。


 今日こそは外に遊びに行こう。そう思って窓から飛び出した。後ろに絶望した表情の見習メイドちゃんが見える。大丈夫大丈夫、夜には帰るって。



 そうして街まで降りてきたんだけど、街の外から何か感じる。なんだろ? ちょっと遠そうだけど行ってみるか。


 街の城壁を飛び越えてそのまま飛び続けると、その先に何かが光っているのが見えた。近付いて見るとでっかい変なマークが光ってる。すごく大きい。


 うーん、なんか見覚えがあるぞ……。あ、ボードゲームの盤中央のマークだ! 仰々しいファンタジー感全開なあのマークが地面から少し浮いた位置で光ってる!



 さらに近付くと、そのマークを中心に数人の2グループが練り歩いているのが見えた。マーク中央の上空にはファンシーなピンクの斑点模様を付けたおじいちゃんが両手を上げている。めちゃくちゃ怪しい! なんかの宗教儀式っぽい!


 そう思って見ると、あのマークもなんかの魔法陣に見えてきた。マークの光が強くなるに連れて悪意みたいな感じがどんどん濃く大きくなっていく。絶対ヤバいヤツだ! あれ絶対ヤバいヤツだ! なんか出てきた! 魔法陣の中からなんか出てきたって!


 ゆっくりゆっくり何かがせり上がってきてると思ったら、急に魔法陣から太いモノが大きく伸びる。ドラゴンの頭だ! おじいちゃん食べられちゃった! やっば! 自分を犠牲にドラゴン召喚ってこと!?


 あのドラゴンからギンギンの悪意をビシバシ感じる。絶対悪いドラゴンだ。すごく平和な国だと思ってたのに、こんなテロ組織みたいなのもいるのか! こうしちゃいられない、みんなに知らせないと!


 って言っても、私1人でみんなに知らせるなんて無理だ。ここはお城のお偉いさんに知らせて通達を出してもらうのが最善かな。それからドラゴン討伐できる人を連れてこないと……。ドラゴン討伐と言ったら冒険者、冒険者と言ったら冒険者ギルドか。急げ!



 冒険者ギルドまで飛んだ私はギルド内を見渡す。相変わらず呑気に飲み食いしてるなー。街の外にはドラゴンが出てるって言うのにさ!


 えーととりあえず、まずは遠距離攻撃職が必要だよね? 魔法使いとかが良いと思うんだけど、魔法使いっぽい人は居ないか。魔法使いが居ないなら他は……。


 あ、弓の人だ! 夏の終わりのパレードで一緒になった弓兄さんが居た。よしゲット!


 うぐぐ、子どもと違って浮かすのが大変だけど、まだいける。説明とか交渉役でお偉いさんも欲しい。ギルドの上階を確認すると、ぽっちゃりさんと受付しょうさんが居た。


 弓兄さんと一緒に運ぶには、ぽっちゃりさんは重量オーバーだ。受付しょうさんを連れて行こう。よしゲット、お城へ急げ!



 受付しょうさんと弓兄さんを浮かせたまま、窓からお城の私の部屋へと突っ込む。スピードが乗り過ぎてちょっと交通事故みたいになってしまった。でも生きてれば回復できるし問題ないよね。今は緊急事態なのだ、細かいことは言いっこなしだよ。


 見習いメイドちゃんがびっくりしている。お城に飛び込んだ音を聞きつけたのか人も集まってきた。よしよし、まずは緊急事態を知らせないと。街の外で悪いドラゴンが召喚されようとしてるって。賢い私はドラゴンという単語を覚えている。絵本に出てきたからね。


「――!」


 あれ?


「――! ――――!!」


 声出なくない?


 やば。声出せないわ私。そういう体の作りしてないって理解できる。思い返せば息すらしてなかった。臭いは感じるのに不思議だ。あー、そっかー。せっかく言葉も覚え始めてたんだけどなぁ。


 でも大丈夫。この状況を説明できる素晴らしいアイテムがある。私は部屋の隅に仕舞われていたボードゲームを広げて指さす。


 それから中央のマークの上で両手を上げて、バタリ。これはドラゴンに食べられた演技だ。そして真上に飛びたつ。ドラゴン召喚! バサバサ! いつもより羽を大きく動かしてドラゴンらしさをアピール!


 ……みんなが何事か言い始めた。伝わったか?


 おもむろに受付しょうさんが向かいの席に座った。そして見習いメイドちゃんが駒を並べ始める。ちがうちがう! ゲームしたいんじゃないんだって! ドラゴンが出たんだってば!


 えーと、えーと……。


 あ。


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