165. 次の案

「予想以上にうまくいったな」


「そうですなぁ! 全く、笑いが止まりませんぜ!」


 開戦初日の戦果は敵を千ほど削って退却させるという大勝利に終わった。とは言ってもまだ1万4千以上残っているのだが、この勝利は大きい。相手の騎兵と魔術師を大幅に削れたのは今後に大きく影響するだろう。砦内の士気も目に見えて上がっている。勝機がかなり見えてきた。


 攻城兵器をほとんど用意して来なかったところからも、帝国はこの砦をさっさと通過するつもりであったのが見て取れる。その予定が狂ったのだから向こうは今頃頭を悩ませているだろう。


「相手は立て直しが必要でしょうし、今日はもう攻めてこれないでしょうね」


「ああ。妖精剣の使い手には今の内に寝ておくように伝達しておけ。他の兵士も持ち回りで休ませる」



 水の妖精剣に関しては魔術師団長が強い興味を示していて、これまで色々と研究していたらしい。飲み水や農業への転用でも考えているのかと思ったが、純粋に水魔法での攻撃が珍しいんだと。水魔法を攻撃に使う魔術師は全くと言って良いほど居ない中、妖精剣では何故水魔法で物が斬れるのかなどを散々聞かされた。まぁ、もう覚えていないんだが。


 その研究を通して、妖精剣はどうやら魔法の刃を飛ばせるだけではないらしいと分かってきたのだそうだ。今回帝国にやったのはそれらの応用だった。



 まず夜の内から水の妖精剣で細かい水滴を大量に空に撒き、それを風の妖精剣で帝国陣地まで飛ばす。人工的な雨のできあがりだ。そうして帝国陣地から砦までの街道を水浸しにして相手の機動力を削った。水と風の妖精剣の使い手には徹夜を強いることになったが効果はあっただろう。


 相手が一点突破を狙っているのは明白だったので、接近されてからは抵抗する振りをしてそのまま誘い込んでやった。そして予め決めてあった合図で全員が5秒間目をつぶり、光の妖精剣を全力で光らせた。明るいだけかと思ったが結構熱く、未だに体が少しヒリヒリするくらいの光量だった。


 そして相手の視力が回復するまでの間、妖精剣も交えて全力攻撃。妖精剣の存在をまだ知られたくないので相手が行動を起こした段階で妖精剣は下げる。その後は相手の行動次第だったが、撤退を見届けるに終わった。



「で、明日からはどうするんで?」


「そうだな。妖精剣で強引に攻めるにしても、もっと数を減らしておきたい。砦を出て攻めるには相手の数が多すぎる」


「別に敵を殲滅する必要はないでしょう。こちらはガルム期が明けるまでここを死守できれば良いのです」


「そうだな、要は時間稼ぎができれば良いのか……。少し早いが秘密兵器を投入しよう」


「おいおい殿下、悪い顔になってますぜ」

「秘密兵器?」


「これだ」


 俺は部屋の隅に置かれていた1つの木箱を手に取ってテーブルの上に置く。どうしても顔がにやけてくるのが自分でも分かってしまうな。



「ああ、そう言えば妖精剣と一緒に送られてきていましたね。切り札・・・とか言って」


「ああ? これが切り札・・・? ただのボロい人形じゃねぇですかい」


 1人が開けられた木箱を覗き込んで怪訝そうな表情で手を伸ばす。妖精剣と一緒に送られてきていたのは、下水で散々暴れられた妖精人形バーサーカーだ。



「気を付けろよ。そのちっこい剣に触れると指が落ちるぞ」


「うへぇ。で、これをどうするんで?」


「こいつの胸にこの石をくっつけると暴れだす。触れれば鉄格子だろうがオークキングだろうがスッパスパな剣を無茶苦茶に振り回してな」


 人形と共に入れられていた小さく透明な石を摘まみ上げて見せてやる。それからテーブルに広げられた地図上の敵駒を1つ取り、ちっこい剣の上に落としてやった。すると木製のその駒は人形が持つ剣に当たり音もなく2つに分断された。


「マジですかい」


「で、こいつを敵陣に放り込む。投石器でな」


 王城を救った妖精人形バーサーカーに国境も救ってもらおうという算段だ。風を起こせば届くだろう。


「あっは、えげつねぇ」


 出陣直前のタイミングで放り込めば多少なりとも時間稼ぎになる筈だ。上手くいけば帝国皇子をスッパスパできるかもな。


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