144. 鳥の模型

 河を上っての帰路。行きの時点でだいぶ秋めいていたけど、今はもう本格的に秋らしい。


 北の方は河幅が広過ぎて地上の様子がよく分からなかったけど、南下するにつれて河幅が狭くなってきて、もう作物の収穫が始まっていることに気付いた。地域差があるのか場所によってはまだ収穫が始まっていなくて、小麦だと思う作物が一面金色に実っているところもあったよ。そこを船で進んでいるときは、まるで黄金の海に浮いている気分だったよね。



 船は河の流れに逆らって普通に進めているけど、船員さんたちは大変そうだった。帆から伸びるロープをグイグイひっぱったりして何かよく分からない調整をしている。まっすぐ河を上るんじゃなくて、斜めに切り返しながら進んでいた。それに、風のマッチョ魔法使いも頑張っていたよ。


 だいぶ南下して何個目かの町からは、船にロープを繋いで岸から馬で引っ張っていっきに河を上る。他の船もいくつかはロープを繋いで陸から引っ張っていたけど、私たちの船が通る際にはこちらを優先してくれていた。さすがお城の船、権力パワーで最優先だ。


 オールを漕いだりはしていないから、本気を出せばもっとスピードを出せるんだと思う。この時代の船を舐めてたかもしれない。



 んでもって、帰りの船で勉強に飽きた私が何をしていたかと言うと、鳥の模型の改造だ。自分用のお土産で買ってもらったこの白くてでかい鳥の模型、なんと羽とか首が可動式なんだよね。もうちょっと改造すれば飛ばせる気がする。


 初めのうちは、あんまりよく知らない空気力学の知識を総動員して改造していたんだ。羽の形とかを変えては空に投げて、失敗しては修正しての繰り返し。だけど、素人知識ではどうも上手くいかない。質の悪いグライダー程度の飛行が関の山だったよ。羽の形と揚力が重要だった気がするんだけどなぁ……。


 最初に強度を上げておいたから落ちても壊れないんだけど、マストの上から投げては甲板に落っこちてを繰り返していた。なまじ鳥の模型が壊れないもんだから船の甲板が傷付いてしまったのはご愛敬だ。甲板もちゃんと直しておいたよ。船員がすごい目で見てきたからね……。



 そんなトライ&エラーを繰り返して何とか鳥の模型を飛ばそうとしてたんだけど、そのうち面倒になって羽の下から魔力パワーを噴射するようにした。飛んだのは良いけど、出力が強すぎて船から離れていってしまって回収に苦労したよ。


 それから、常時魔力パワーが出っぱなしなのは困るのでオンオフ機能を付けることにしたんだ。鳥の首の付け根にコインを入れる穴を開けて、そこにドアップ銅貨を投入すれば鳥の発進だ。1分すれば銅貨が排出されて鳥が止まる。


 よしよし、お城の街に帰り付く前になんとか完成することができたね。チェケラの港町で買った鳥だからチェケラ号と名付けよう。飛んだ後のチェケラ号と銅貨の回収がちょっと大変だけど、今はしょうがない。また時間があったらその辺も改良しようかな。


 一連のチェケラ号開発は鳥籠メイドさんや見習いメイドちゃんだけじゃなく、船員たちや護衛の騎士たちも見守ってくれていた。めちゃくちゃ興味深そうに見ていたから、ドアップ銅貨を投入すれば飛ぶことを教えてあげると驚いてたよ。



 そんなこともありつつ、バッシャバッシャと船が進んでようやくお城の街が見えてきた。終着点だ。けど、何かおかしい。何か違和感がある。気のせいかと思ったけど、街に近づいてその違和感が気のせいではなかったことが分かった。


 う、うわー! 街門の両サイドに超巨大な私の彫像がぶっ立ってるぅ! 街に入っていく人たちが足を止めて超巨大私彫像を見上げて観光スポットになってるぅ!? こ、これは恥ずかしいぃ!


 超巨大私彫像は城壁より高い。元あった見張り台に貼り付く形になってるみたいだ。頭の上から見張り台が出ている。そして、めちゃくちゃ慈愛に満ちた微笑みで行き交う人々を見下ろしてる。


 めちゃくちゃ恥ずかしいけど、考え方によっては王家のペットから街のマスコットにランクアップしたのでは? 全力プロデュース中のご当地ゆるキャラみたいなもんだ。宣伝大使とか観光親善大使みたいな仕事とかもあるかもしれないね。高いよ? 私のギャラ。鳥籠メイドマネージャーさんを通して下さいね。



 船から降りた馬車の中に私がいることに気付いた人たちが歓声をあげる。うんうん、長らく感じてなかった歓迎ムードだ。やっぱこの街って私好き過ぎだよね! でも、馬車の中にいる小さな私を見つけるなんて相変わらず凄い観察眼だよなぁ。


 いやー、ちょっと想定外もあったけど、ようやく帰ってきたって感じ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る