138. 味方から

「なんだと? 魔剣が全て盗まれた?」

「しっ。殿下、声が大きいですよ」


 捕虜を東の国境へ護送中、側近からの報告に驚く。チラッと捕虜を確認したところ何人かに聞かれてしまったようだ。しまったな。



 下水道から変な盾を回収して脱出した翌日、第2騎士団を投入して、帰ってきていなかった調査隊の救出および残存帝国兵の捕縛を完了した。


 その後、数日かけて地下道と下水道を繋げられた穴を塞ぎ、再び穴を開けられた場合に備えて新たな罠も設置。帝国兵侵入経路も特定できて侵入口も塞いだ。


 それから、妖精バカが残した罠の全容は掴めなかったため、冒険者ギルドに調査依頼を出すことになった。そのため下水道は今、冒険者でいっぱいだろう。



 そうして一段落付いた頃、帝国側から捕虜の引き渡し要求と身代金支払いの打診があった。王城を襲撃したのが帝国兵だったため、帝国が王国に対して色々と工作していたのは公にバレたことになる。そのため国としての行動を隠す必要がなくなったのだろう。おそらく戦力回復と情報収集目的で捕虜を回収したいのだと思われる。


 交渉の末、国境で捕虜と身代金を交換する手はずになったため、第二王子である俺が現在捕虜を護送中なのだ。


 その道中に側近から魔剣が盗まれたという報告が入った。魔剣とはガキ共が遊んでいたオモチャの剣のことか? それとも帝国兵を薙ぎ払ったという妖精剣? ガキ共の剣だった場合、そんなことは俺も知っている。わざわざ今更報告しないだろう。じゃぁ妖精剣が盗まれた? それは非常にマズいんじゃないのか?


「その魔剣とは妖精剣のことか?」

「――魔剣・・です」


 小声で側近に問うたが、返ってきた答えに困惑する。そしてその困惑は翌日の報告でさらに大きくなった。



「殿下、国王陛下の容態が急変したそうです」

「なんだと!? あれほど元気そうだったではないか!?」


「しっ、声が大きいですよ。暗殺者に斬られた傷の具合が突然悪くなったそうで……」


「マジか……。生死にかかわる程か?」

「かなり危ない状況のようです……」


 王都に滞在した数日間、父上はかつてない程健康そうだった。明らかに見た目が若返った母上程ではないにしろ、父上も妖精バカの影響で肌艶がピカピカだったのだ。その広いデコも綺麗に光っていた。それが突然危篤? 襲撃時に斬られていたなんてことも初耳だぞ?



 さらにその翌日、側近はまたもや予想外の報告をしてくる。


「殿下、妖精様が北の地で行方不明になられたと……」

「マジか!? 連れ去られたのか? それとも自発的に居なくなったのか?」


「詳細は分かりませんが、妖精様はそう易々と捕まったりされないでしょう。そして自由奔放なお方、自発的に出ていかれた可能性が高いと見られています」

「マジか……」


 想定外の報告が立て続けに来て混乱している。どの報告も今後に大きく影響する事柄ばかりだ。帝国への対応も考え直さなければならない。


 そう思っていると、側近がそっと小さな紙切れを渡してきた。紙切れを広げて中身を確認すると、そこには母上の字でこう書かれていた。



 あなたが受けた3つの報告は、捕虜を騙すための嘘です。

 あなたは演技が下手ですからね、あなたも纏めて騙しました。

 これを読み終えたら即、この紙は燃やして破棄しておくように。



 クソ! つまり妖精剣は盗まれていないし、父上はピンピン元気、あの妖精バカも海を満喫中ってことか! 俺の心配を返せよ!


 母上は会議の場で、魔剣が盗まれたという噂など流さなくても良いと言っていた。そこから既に俺を騙しにかかっていたってことか。そして引き渡す捕虜に嘘の報告をわざと聞かせて、帝国に偽情報を流そうと。


 盗まれたガキ共の魔剣オモチャ妖精剣ホンモノと誤認させるんだな。そう言えば父上を襲撃した敵は全て殺したらしいから、捕虜達は父上の状況を知り得ない。だから父上が瀕死という情報も真実味が出るのか。ましてや王都に居ない妖精が居なくなったかどうかなど、捕虜には確認しようがないからな。


 クソ、俺だってそれなりに演技できるっつうの!!


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