118. 魔術師
「おう、見ねぇ顔だな? 兄ちゃんも
遥々やってきた王都の冒険者ギルドに入ると、中は人だらけだった。情報を集めるには好都合だが、あまりに人が多過ぎると不都合にもなる。とりあえず目の前の男から確認していくか……。
「ああ、さっき着いたばかりだ。しばらく王都で活動しようと思ってな。よろしく頼む」
「おう。つっても俺も最近来たばっかだけどな」
なんだ、現地の奴じゃないのか。使えない。しかしまぁ、基本的な近況くらいは聞き出せるだろう。
「人が多いな。さすが王都、冒険者も多いらしい」
「ああ、それな。妖精ブームだぜ。今は
「ああ。妖精にお近づきになれれば体の不調が全て改善するって聞いてな」
「はっは、でも残念だったな。妖精は今、北に行ってて居ないらしいぜ」
「む、そうなのか? それは残念だ……」
妖精が居ないだと? やはり認識している状況とかなりズレがあるな。間諜や協力者と軒並み連絡が付かなくなったため、いまいち近況が分からん。
「何故北に行ったのか知っているか?」
「さぁな。ちょっと前に、豪商の依頼だとかで妖精を捕まえにきた
ふむ、その豪商とやらはややこしいことをしてくれる。王国や帝国以外の駒に盤面をひっかきまわされると、余計に状況がつかみづらくなるじゃないか。
「そうだったのか。妖精は人気なんだろう? しかも王家と繋がっているとか。その豪商や
「さぁなぁ、そこまでは知らんよ。王都ギルドもギルマスが替わったばっかで混乱してんだろうよ」
「替わったのか? 全然知らなかったよ。王都はスタンピードがあったんだろ? スタンピードを無血防衛したとかで英雄になっていてもおかしくないと思うんだが」
まぁ、当然責任は取らされるだろうな。端から見れば、その前ギルマスは単に踊らされただけだ。騙しやすそうな奴だったから替わったのは俺も残念だよ。しかしそうなると、新ギルマスの情報も確認しないとな。
「ああ、無血防衛んときに取り纏めてたんは……、ほら、あの嬢ちゃんだよ」
「なんと……、本当か? とてもそうとは見えないが」
男が顎で指した先に居たのは、いかにも新人受付嬢ですと言わんばかりの、良く言えばムードメーカー、悪く言えば何も考えてなさそうな若い女だった。
「気を付けろよぉ。商業ギルドや薬師ギルドのマスターも顎で使いっ走りにし、国の英雄も逆らえねぇほど怖いらしい。スタンピード前には城に直接乗り込んで戦力を引っ張ってきたってさ」
ふむ、綿密に王都から戦力を離してからスタンピードを起こしたのにどうやって戦力を用意したのかと思っていたのだが、あの女が戦力を用意したのか。
「さらには城の魔術師団長にトイレも許さず脱糞させながら魔法を撃たせ続けたらしい。あの嬢ちゃんに逆らった奴は全員河に沈められたって話だ。ちなみにここのサブマスだぞ。逆らうなよぉ」
「本当か……? とてもそうとは見えないが……。人は見かけによらないな」
優秀そうな奴はだいたい始末済みの筈だったのだが……、あの見た目で見逃していたか? あいつは要チェックだな。
「それで、前のギルマスはどうなったんだ?」
「ああ? 舐められるのが嫌で西のエネルギアに行ったらしい。惨めなもんだよなぁ、ギルマスまで登り詰めたのによぉ」
「そうだったのか」
ふむ、曲がりなりにもギルマスだった男だ。まだ使える可能性がある。追わせるか?
「ところで、兄ちゃんは魔術師か? なんとなくそんな感じに見えるが」
「いやいや。魔術なんて使えていたら、もっと違う生き方をしていたさ」
「あっは、違ぇねぇ!」
意外に勘の良い男だ。前衛装備を揃えてきたってのに、いきなり見抜いてくるとは冒険者も侮れん。
『ぐごおおおおおおおおお!!(ぐごおおおおおおおおお!!(ぐごおおおおおおおおお!!))』
「うお!?」
「なんだ!?」
突然鳴り響いた地の底からの雄叫びのような音に、ギルド内の全員が驚く。なるほど、周りの状況から察するに日常的に鳴っている音ではなさそうだ。しかし何の音だ?
「なんだ今の? めちゃくちゃ反響してたぞ」
「地下か? 王都は地下に水路が作られてんだろ?」
「音? いや、声か?」
「おいおい、スタンピードの次は地下に
地下と言えば、今頃帝国が侵入経路の再確保に動いている筈だ。何か関係があるのか? 妖精は居ないらしいが、では何だ?
王都で何が起こっている?
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