四章 収穫祭

094. 地図

 朝起きた。

私人形の視線がない朝は気持ち良いね。


 昨夜あの後、私は特にお咎めもなく解散となった。それと言うのも鳥籠メイドさんが木箱を金髪兄さんに渡した直後に、鳥籠メイドさんのお腹が盛大に鳴ったからだ。場の雰囲気は「わっはっはー」となって色々なことが有耶無耶になった気がする。やったぜ。


 昨日はお城に辿り着くまで朝から何も食べてなかったからなぁ。ちなみに私は一切モノを食べなくても生きていけるっぽい不思議生物だから、当然お腹も鳴らないよ。



 それから、昨夜の内に見習いメイドちゃんの無事も確認できている。寝る前に見習いメイドちゃんにお風呂に入れてもらったのだ。元気そうで良かった。


 見習いメイドちゃんはなんか感動してたんだけど、もしかして人形爆発に大ウケだったのかもしれない。絶叫マシンとか好きなのかもね。街のガキンチョにも大ウケだった空中浮遊ジェットコースターとかしてあげたら喜ぶかな。



 そんなことを思いつつ朝食を食べ終わると、すぐにドアップ様たちがやってきた。やっぱ暇なんだろうな。女王様の仕事なんて下々に「良きにはからえ」とか言ってるだけのイメージしかないし、今朝の「良きにはからえ」は言い終わったんだろう。するとドアップ様の今日の1日の仕事は完了したことになる。さすが女王様。



 もしかして昨夜の続きで怒られるのかもと思ったけどそんなことはなく、私は鳥籠に入れられて少し豪華な部屋に移動させられた。


 部屋に移動後、鳥籠を出ると、鳥籠メイドさんが両手の人差し指と親指で四角を作る。地図を出してのサインだ。地図を出すとお城の辺りを指さされたので、お城を拡大表示する。すると鳥籠メイドさんは手を広げるジェスチャーをした。拡大しすぎたみたいなので、今度は街全体が表示される程度の縮尺にする。この辺りのやり取りは遠出のときに散々やってたんで慣れたもんだ。


 地図の表示に満足すると鳥籠メイドさんはお茶の準備をしに行ってしまった。代わりにドアップ様やお偉いさんっぽい人たちが地図を覗き込み話し合いを始める。うんうん唸ってるねぇ。



 クッキーと紅茶を出されたのでちまちま飲み食いしつつ、みんながわちゃわちゃしているのをぼーっと眺める。


 地図を模写している人をみつけた。地下を重点的に模写しているみたいだね。もしかして、この街の人たちでも地下水路の構造を把握してないのかな? 迷路みたいになってたし、把握できてない可能性あるなぁ。


 模写し終わった後、地図を拡大するように要求された。ドアップ様にドアップの城の地図を見せる。にっこりしてくれた。兵士の人がドアップの城地図をのぞき込んでは、時折部屋の外の兵士とやりとりし始めた。ドアップ様はお茶しつつもそれを横目で見てるっぽい。なるほど、全然分からん。何やってんだろ?



 そんな感じでぼーっとしていると、突然瓶詰の果物を出された。なんか見覚えがある。なんだっけ?


 ああ、そうだ。クッキーが甘くなかったからジャムにでもしてクッキーに塗ってほしかったんだった。だけどもう妖精印の甘いクッキーがあるからそれほど重要じゃないんだよね。まぁ、同じ味ばかりだと飽きるから、どうせならジャムにしてもらおっかな。


 私がいつものように指さしジェスチャーで伝えようとしたとき、私の前に紙と羽根ペンが用意された。紙は羊皮紙っぽいヤツだ。


 ふむ、筆談か。せっかく用意してくれたんだし筆談にチャレンジしてみるのも悪くないかな。別に絶対に伝えないといけない重要事項でもないから気楽にチャレンジできるしね。


 よいしょっと羽根ペンを浮かしてインクを付け、まず紙に丸を描く。この丸はクッキーだ。でも、描いてみて思ったけど、丸だけだとあんまりクッキーぽくないかな。丸の中に点々を描いてみる。お、クッキーぽい?


 次にビンを描く。うんうん、これは分かりやすい。


 そして最後にビンからクッキーに向けて矢印を描き足した。これで「クッキーにジャムを乗せる」と伝わっただろう。分かりづらいか? でも字なんて知らないししょうがないよね。


 まわりの様子を窺うとみんな神妙な顔つきで私の絵を見ている。これは伝わってないっぽいなぁ。ま、伝わってなくてもいっか。



 その後もなんか色々話されたけど、よく分からんというのが正直な感想だ。一通り話が終わった後、私のリアクション待ちみたいなができてしまった。


 頷くのは危険と思い知ってはいるものの、何もしないとこのが終わらないっぽい。しょうがないので頷くと、みんな安堵した表情を浮かべてこの場は解散となった。


 今度は何に了承してしまったんだろう。こわい。


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