077. 暗殺者
「先ほどスタンピードが王都に到達、魔術師団長殿の魔術による迎撃が開始されました。今のところ作戦は順調とのことです」
「そうか、わかった」
王都近郊にもスタンピード発生と知らせを受けた際には、どうなることかと内心ヒヤヒヤしたがひとまず問題なさそうでなによりだ。2日前に発生したスタンピードの対策で、ワシと宰相はこの2日ほぼ寝ずに対応に追われていた。
避難民を受け入れるのにも食料がいる。しかし妖精殿の影響が最も出て豊作となっていた西側にスタンピードが発生したのは痛い。
豊作となった西の作物は、まだ不作の影響が色濃く残る東と北へ流通させるように、王太子であるアーランドに政務の練習も兼ねて任せておった。しかし、スタンピードが国内2箇所同時に発生するなど前代未聞、あやつではまだ対応しきれまい。
辺境のスタンピードにも兵站は持っていかれたのだ。北と東の食料供給をあまり削減しすぎるのも後々不興を買う。特に北は先日の氾濫の爪痕がまだ残っておるしな。
しかしバスティーユめ、よくも第2騎士団を足止めしてくれたものだ。当然第2騎士団を呼び戻させておるが、まず間に合わんだろう。だがまぁ、この責任を追及すれば今回の負債の一部を奴に負担させることは可能か。
何故ワシの代でこうも問題が頻発しおるのだ。そう思っていたとき、突然黒ずくめの男3人が窓から侵入してきた!
「な!? 近衛! 侵入者だッ!」
暗殺者か? 宰相が執務室のドア前で待機している近衛を呼ぶが、間に合わんだろう。部屋の外にいる近衛よりも既に侵入しておる暗殺者の方が断然早い、早い……? いや、遅い? なんだこやつら……、暗殺者にしてはやけに遅いではないか。
ワシは壁に飾られていた儀礼剣を手に取る。これでも若い頃は護身程度に剣術を習ったのだ。ただではやられてやらんぞ。
ノロノロと近づいてくる殺る気があるのかも分からん輩に、ワシは儀礼剣を振り下ろした。すると相手の体が左右に分かれ、双葉のように開いて倒れる。真っ二つだ。
え? この儀礼剣こんなに切れ味良かったのか? いつもこの儀礼剣で叙任の儀式とかやっておるんだが……、騎士団長の任命時などに肩をこうポンポンと。よく今までヤツらの首が取れんかったものだな。あぶなすぎるだろう、この切れ味。
しかし今は有難い。ワシが1人を真っ二つにしたのを見て残り2人の動きが止まった。
「陛下! ご無事ですか!?」
「おのれ怪しい奴め!」
部屋の外に待機していた2人の近衛が剣を抜いて暗殺者に向かう。それを見た暗殺者は退却に移ったが……、遅いのぅ。それでは逃げられんだろ。ワシが手前の暗殺者に剣を振るうと、勢い余って奥の暗殺者まで真っ二つにしてしまった。
おわー、この剣大丈夫か? 儀礼剣の域を完全に超えておるではないか……。近衛もポカーンと馬鹿っぽい顔をさらし、いつも細目な宰相も目をひんむいておる。その目、妖精殿の顔くらいの大きさがありそうだの?
「陛下、ご無事でなによりです。陛下がこれほどの腕前だとは、御見それ致しました」
復帰した近衛が話しかけてくる。
「ふん、この剣の切れ味が良いだけだ。それよりこの者たちは何者だ?」
「パッと見では分かりませんね、暗殺者であることは間違いないでしょうが。全身黒ずくめ、……剣は量産品ですね。所持品は……、特になしと。そっちはどうだ?」
「こっちもだ。どこの者か分かるようなモノは所持していない」
「むぅ。まぁ、おそらく帝国だろうがな……。全くこの忙しいときに。しかし、いよいよ帝国も切羽詰まってきておるようだな。このようなノロノロした暗殺者しか残っておらんとは、くっくっく」
帝国の奴らめ。国土など十分持っておるだろうに帝位争いでこちらに攻めてくるなど迷惑極まりないが、奴らの敵は我々王国だけではない。帝位争いが激化するあまり人材なども多く失っておるのかもしれんな。
ドーン……
「今の音はなんだ? まさか他にも入り込まれておるのか?」
ドーン……
ドーン……
「これは爆発音? 陛下、念のため部屋の中央に。宰相殿もこちらへ。入り口も窓も危険です。おい、人を呼んでこい。できれば状況確認も」
指示を受けた近衛の1人が部屋を出て行く。今日はやることが詰まっておるんだがなぁ、全く。今晩も寝られんことを覚悟しておかねばな。もしくは永眠か? いやいや、冗談を言っておる場合ではない。
「へ、陛下……、落ち着いておられますね。さすがでございます」
「そういうお前は怯えすぎだ。もっと気丈にならねば宰相など務まらんぞ」
「はは……」
バァン!
突然ドアが開き、また闖入者が入ってきた。やはり他にも入り込まれておったのか。この国もいよいよ危うくなってきたな。今までギリギリのところでなんとかやりくりしてきたが……。
いや、最近は妖精殿のおかげで大分持ち直していた。皆の手前国王が軽々しく頭を下げることはできんが、礼を言いたい程だ。ここさえ乗り切ることができれば何とかなるかもしれん。
「いたぞ! 国王だッ! 囲め!」
「させるか!」
相手は10人、やはり帝国兵か。こちらは近衛1人……、まずいな。
先頭にいた帝国兵が近衛と斬り結ぶ。んー? 弱くないか? もしかして、暗殺者が弱かったのではなく、ワシが強くなったのか? 何故だ? 考えられるとすれば……、あのときの妖精殿の果実か! やれると判断したワシは近衛の横から参戦する。
「陛下!? いけません、下がって!」
「まぁ見ておれ、ふん!」
「は?」
ワシが敵を1撃のもと斬り伏せたのを見て、相手の何人かが驚愕して硬直する。ええのか、そんな隙を晒して。ほら言わんこっちゃない、ワシはそいつも切り伏せた。
「国王陛下ッ! ご無事でございますかッ!?」
帝国兵の後ろから増援が来る。これで決まったな。増援に気を取られた帝国兵3人を1撃で切り倒した。こっちに意識を戻した帝国兵だが、こちらはもう1人おるだろうに。近衛が1人を倒して残り4人。後は増援と挟み撃ちにできたことで、すぐに終わった。
「おお、陛下がこれほどとは」
「すごい……」
「まさかここまで入り込まれるとはのぅ。他の様子はどうなっておる?」
「はッ、現在非戦闘員は第一ホールに避難中、戦える者全員で防衛しております! 今のところ王太子殿下も王妃様もご無事でありますが、しかし……」
「それは良かった。で、しかしとは何だ?」
「はい、現在ティレス第一王女殿下が行方不明でございまして」
「なんだと……? 捜索は?」
「しております。しかし城内は混乱しており、今しばらくお待ち頂けると」
「そうか……、ワシもホールに移動した方が
「いえ、道中どこに敵が潜んでいるかわかりません。ここで防衛しましょう」
「そうか。では皆の者、宜しく頼むぞ!」
「はッ!」
ティレスよ、無事でいてくれよ……。
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