054. 茶番
数日前から行儀見習いとして王城に上がった
以前のお付きは攻撃魔法の才に目覚めたとかで、現在は魔術師見習いとの兼任で魔術師棟の侍女をしているそうです。魔法ならいざ知らず魔術の才とは、まったく羨ましい限りですわ。
急遽城に奉仕に上がった
なんでも帝国兵は既に地下水路を経由して王城地下までのルートを確保しているらしく、あとはそこに繋がる隠し扉さえ開けばいつでも王城に侵入可能とのこと。そして、その最後の鍵が
ところが未だ隠し扉の位置が不明ですので、なるべく早めに王城地下の調査を終えたい次第です。そのため、このようなくだらない茶番にお付き合いしている場合ではないのですが……。
「さぁさ、どのような反応を見せてくれるのかしら?」
王妃が浮かれて妖精と妖精そっくりのドールを見比べておりますわ。
件の妖精は、キョトンとしてドールを見やり、そして周りを見渡し、もう1度ドールを見ます。そして私達に満面の笑みを向けてきました。く……、可愛らしいですわね。
妖精は自分そっくりのドールに興味津々のようで、右から左からと様々な方向からドールを観察しております。そうして顔を覗き込んで、手を取って……。
「まぁ、握手かしら? とっても可愛らしいですね。ねぇ、ティレス?」
「そうでしょうか……?」
「本当に可愛らしいですな! 私共も感涙ですぞ!」
「頑張った甲斐がありました! 見てください、まるでお友達のよう」
王女の反応は淡泊ですね……。それに引き換え、ドール職人やお針子達は非常に喜んでおりますわ。まぁ確かに、とてもお可愛らしいですが……。
「あらあら、手を上げて。まるでハイタッチをしているよう。冒険者などは親しい相手に再会した際には、このような動作を取るのでしょう?」
「左様でございますね! 妖精様は頻繁に冒険者ギルドを訪れておられるそうです。きっと、そこで覚えられたのでしょう。気に入ってくださったようで喜ばしいです」
商業ギルドのギルドマスター本人まで出てくるとは、全くなにをされておりますやら。あなたはこの国の現状をもってしても、危機感を抱かずお人形遊びに熱を上げられておりますのね。
「いやはや、商業ギルドで妖精様の顔の造形を進められていて助かりました。そうでなければこの短期間で、こちらのドール製作など実現できなかったでしょう」
「いえいえ、私共も妖精様の像を製作中でしてね。顔の造形は終えていたのですよ。ちょうど良かった」
ドール職人と商業ギルドマスターが意気投合しております。
「まったく、お母様が急に妖精様ドールを作成しましょうとか言い出されるからです」
「あら、ティレス。あの可愛らしいトルソー、あなたも見たでしょう? あれを見てドールが欲しいと思わないなんて、あなたやっぱり擦れてますよ」
「……そうでしょうか。あのトルソー、妖精様がお作りになられたのですよね?」
「おそらくそうです。逆流の初日にいつの間にか存在しておりました」
妖精の傍に控えていた侍女が発言します。あの侍女も要注意人物。なんでも強烈な魔術を放つとかで、可能であれば排除しろとのことでした。まぁ、
見ておりますと妖精は、今度はドールに装着されているドレスが気になりだしたようですわね。手に取りしきりに観察しております。
「まぁまぁ、そのドレスが羨ましいのかしら? それとも自分のドレスを盗られちゃったと思っているの? それはアナタのドレスではないのですよ。アナタのドレスはちゃんと別にあります。シルエラ、クローゼットを開けてちょうだい」
「承知致しました」
妖精付き侍女がクローゼットを開けます。驚きました。妖精相手にこんなにもドレスを用意しておりましたの? まったくこの王家は……、呆れるにも程がありましてよ。王家の力は国のためにあるというのに、このようなことに力を使っているとは……。
「妖精様、それでですね。こちらのドールを貴族向けに量産・販売したいのですが如何でしょう? もちろん、利益はお支払いさせて頂きますよ」
妖精が頷く。まさか?
「おお、おお、許可してくださいますか! これはこれは、有難い!」
事前情報では言葉が通じず意思疎通困難、ということではなかったのですか? これは、明らかに会話が成立しておりますわ。帝国の情報も当てになりませんね……。
「それでは、名残惜しいですが私共はこれにて」
ようやく、この茶番が終わるようですわね。
「しかしどう致しましょう? このドールは王妃様のお部屋にお飾りする予定でしたが……」
「そうね、妖精様もたいそう気に入られたご様子。このドールを持ち帰るなどできません。私は次に完成したモノでよろしくてよ」
「承知致しました。ではそのように」
ふぅ、この後ティレス様は魔術師棟に行かれるご予定。その間にも地下を調査しに参りますか。
この国の未来は、我が公爵家が担うべきなのですわ。
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