040. 奮闘(後)

 その2日後、なんとかドレスが謁見に間に合いました。


 わたくしは、妖精様がいつものように外に出て行こうとされるのを、なんとか遮ります。本日居なくなられますと、わたくしのクビが飛ぶかもしれません、辞めさせられるという意味で。


 窓から第2騎士団の皆様が出立するのが見えます。今年は雨が降りましたから"双子神"様の影響が大きくなると予想されているそうです。その影響を抑えるため、最も被害が大きいと予想される港町へ行くそうですね。妖精様はそんな出立する騎士団の皆様を眺めておられました。


 そうして妖精様が外に出て行かないように注意を払っていますと、ドールショップのオーナーとお針子たちが到着しました。急いで用意したドレスを着付け、季節毎のドレスを仕立てるために、改めて採寸させます。流石は専門のお針子ですね、わたくしの採寸では身長や腰回り程度しか計測しておりませんでしたが、なんと妖精様の指のサイズまで計っています。




 謁見も無事終わり、またもや妖精様がいなくなられた後、わたくしは妖精様の街でのご様子を伺うことができました。なんと街ではお肉を召し上がっていたそうです。やはり食事は必要でしたか……。


 その頃、ちょうどよく装飾された食器が納品されましたこともあり、わたくしは妖精様のご夕食をお出しするために奔走しました。まだ届いていなかったカトラリーを回収し、厨房に妖精様の食器類を届け、食事内容を料理長と協議します。



「妖精様のご夕食だぁ? こんなに小さい皿に合う料理を作るのかぁ?」


 料理長は少々口が悪くございますが、腕は確かです。それに貴族様の前では綺麗な言葉使いを使い分けられることもあり、ただ粗暴なだけではないことも知っております。


「左様、本日の夕食からご用意して頂きます」


「いやいや、もう夕刻近いですぜ。何も仕込んでないのに今からですかい?」


「問題などございませんでしょう? 通常の料理の端を少し集めるだけで1品揃うでしょうに」


「まぁ、確かにな。で? 妖精様は何を食うんだい?」



 はて、妖精様は何を召し上がるのでしょうか? 街ではお肉を召し上がっていたとのことですから、肉食?


 絵本で得ていた妖精様のイメージが崩れそうです。絵本では花の蜜などを食していた筈ですが、まさか妖精様が肉食だなんて。


 いえ、クッキーも召し上がっておられたではないですか。つまり雑食、人と同じということでしょう。



「人と同じでいです。王家の方と同じ内容は可能ですか?」


「そりゃぁ、食材はほとんど必要ないし可能っちゃ可能だが、盛り付けがなぁ。こんな小さな皿に盛り付けるのかい? ソースも1垂らししただけで皿からこぼれちまうぜ」


「工夫なさいな。ピンセットでも使えば盛り付けできるでしょう? ソースは筆などで塗れば良いのです」


「ふん、そこまで言うならお前さんにも手伝ってもらうぜ」



 そうしてわたくしと料理長は色々と悪戦苦闘した結果、なんとか妖精様のご夕食を準備できたのでした。カップはまだ試行錯誤中のため、お飲み物をお出しできないのが残念です。


「いやぁ、できるもんだな。勉強になったぜ。でもこれどうやって運ぶんだ? ワゴンなんかで運んじまえば即こぼれそうだぜ」


「そうですね、配膳盆に乗せて持ち運ぶしかないでしょう。しかもこの小ささではすぐに冷めてしまいますね。確か保温機能付きの魔道具がございましたでしょう? それを妖精様専用に割り当てて頂けませんか?」


「しゃーねぇなぁ、今回は俺からの貸し出しってことで使って良いぜ。専用割り当ては俺の一存じゃ無理だから、後で許可取っといてくれよ」


「ありがとうございます」



 わたくしは慎重にご夕食を運びます。妖精様はどのような反応を見せてくださるでしょうか? 何を食べて何を食べないか、どのように召し上がられて、どのような不自由があるのかをよく観察して、今後に活かさなければなりません。


 満を持して妖精様にご夕食をお出ししました。



 妖精様は、食べてくださりませんでした……。


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