033. 怠惰な冒険者

 俺はいつものようにギルド併設の酒場で飲んだくれていた。


 他の奴らは、護衛依頼やらが多く貼り出されたってことで出払っている。今ギルド内に居るのは新人の受付嬢と、酒場のマスターと言うよりは厨房係と言った方が似合ういつものオッサンと、昼間から仕事もせず飲んだくれている怠惰な冒険者の俺くらいだ。


「もう、ダスターさん! もう少し働いたらどうなんです?」

誰もいなくて暇なんだろう、新人受付嬢がわざわざこちらまで来て小言を言ってくる。


「あ、ああ、古傷が痛くてね……」


「うーん、そうですか……」


 分かってるさ、こんなにサボってばかりじゃダメだってことは。ただ、俺は要領は良い方だ。1日依頼を受ければ、3日はサボってても最低限の生活ができる。自分の限界を感じて以降、若い頃のように上を目指す熱意がなくなってしまった。それからは今のような怠惰な生活をひたすら続けている。


 雨が降る前はそれでもまわりに紛れて目立たなかったのだ。受けられる依頼の数が少なく、俺みたいな生活をしていた冒険者は少なくなかった。しかし、受けられる依頼が増えると連中はいそいそと仕事に出て行った。俺は連中と違った訳だ。ただ怠惰なだけ……。


 長年冒険者を続けてきた俺は、状況判断能力や諸々の知識は結構付いたと思う。しかし、俺は説明下手だった。口下手と言っても良い。普通は数人のパーティーを組んで行動する冒険者だが、俺はパーティーを組めなかった。俺の怠惰な生活は、パーティーを組んでいないということも影響している。


「それでも、もう少し働いてくれると嬉しいですけど。今はポーションも足りてませんし、薬草採取だけでも」


「そうだな……」


「もう……」


 諦めた受付嬢が戻っていく。そんなとき、突然妖精がギルドに入ってきた。受付嬢がクチをパクパク開けて驚いている。まぁ、トラウマもんだろうしな。


 あの妖精は2日前にも冒険者ギルドに来ていた。そのときはちょうど依頼が貼り出されていたタイミングと被っており、多くの冒険者がいた。


 冒険者なんてもんは、強欲な奴らの方が多い。そんな中に金になりそうなモノが放り込まれれば奪い合いになる訳で、2日前は依頼ボードや受付カウンターが破損するほどの大騒ぎになったのだ。


 俺はそんな騒ぎに参加する熱意などなく、ギルドの隅から眺めていただけだった。しかし、あの受付嬢は受付カウンターが破損した際に傍にいた筈だし、騒動後は真っ二つになった依頼ボードの修復のために、悲しそうな顔で釘を打ち付けていたのを覚えている。



 ま、妖精が来ようが俺には関係ない。そう思っていたのだが、どうやら甘かったようだ。妖精は俺を見るなり一直線にこちらに飛んできた。しかもなんだ、緑のボール? 果物か? が、妖精の隣に浮きながら一緒に飛んでくる。受付嬢があからさまにホッとしているのを横目で見てしまった。


 妖精はしきりに俺が食っていた肉の上で滑稽な動作をしていた。腕をグルグル回している。何がしたいんだ? なんか光ってる粉が肉にかかってるんだが……、あまり俺の肉の上で飛び回らないで欲しい。


 何をしてるんだ? そう言おうとしてクチを開けた瞬間に、拳大くらいある緑の果物をクチの中に押し込まれた! おまっ!! おい! 慌てて噛み切ると、案外やわらかい。


 うっま! なんだこれ!?


 俺が夢中で果物を食い始めた横で、妖精は俺の肉を食い始めたのだった。


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