014. 果樹
お風呂からマッパで逃げ出した私はとりあえず服を着た。
やっばいな、結構怒ってたな……。やっぱ勝手にお湯を張ったのはマズかったかな。これは何かお詫びの品でも用意しとかないと、ペット生活2日目にして捨てられる危機なのでは?
でも心配はない。今の私は、私も皆もWinWinになれる素晴らしい案を思いついている。私は昨日甘味を味わえなかったことを未だに残念に思っていた。しかし私はただ与えられている存在ではない、自分で考え行動できるチートな妖精さんだ。自分で味わえる甘味が無いなら作れば良いのだ。
妖精と言えば森、花、そして果物。そう、果物だ! 私も皆も食べられる甘くて美味しい果物を育てよう。私は果樹を育てるのに適していて、それでいてお城の人に迷惑が掛からなさそうな場所を探した。
まず、お城裏の庭園はなしだ。すごく綺麗に植込みがお手入れされている。こんな左右対称で幾何学的な配置の庭園に、いきなり無秩序な木が生えたら流石に怒られるだろう。私が庭師ならブチギレ案件だ。また正面玄関前の広場もなしだ。石畳が敷かれており、そもそも木を植えられない。
それから私に与えられている部屋から遠すぎるのも通うのが面倒だ。ある程度近場が良い。コの字構造のお城は正面玄関が南を向いている。でかい庭園が北側だ。私の部屋はコの字の右手、正面玄関から向かって左手、西側に位置している。
私はお城の西側を中心に、目立たず手入れがされていなさそうで、それでいて日当たりが良く石畳になっていない場所を探した。
お城の西側には少し小さめの建物が隣接されており、渡り廊下で接続されている。お城本体と同じ様式なので、お城の別棟なのだろう。その向こうには少し間隔を置いて様式の違う建物がある。その建物の前には広場があり、騎士っぽい人たちがいた。あっちの別様式の建物は騎士舎かもしれない。
お城に近い別棟は少し特殊な形をしていて、お城から繋がる渡り廊下を横に逸れると奥まったところで行き止まりになっていることに気付いた。ここは特に舗装もされていなくて草がボウボウだ。生え散らかした雑草たちが、ここは庭園のように手入れされていないということを教えてくれる。
ふむふむ、多少日当たりが悪いけど雑草がボウボウになるくらいには植物も育つ良い環境だね。人目にも付き辛いだろうし、木が1本2本生えたところで誰も何も言わないだろう。私は早速果物の木を植えることにした。
どんなのが良いかなー。甘くて美味しいのは当然として、私サイズでも簡単に食べられて、人間でもそこそこ食べ応えがあるヤツが良いな。なんか良い感じの木育てー!
芽が出てきた、よしよし。
水はあげなくても雨が降っている、後は何が必要かな。特に思いつかなかったので私は祈りをささげた。おいしくな~れ、おいしくな~れ♪ 芽はぐぐぐと伸びて私の身長を追い越し、人間の腰くらいのサイズまで育つ。
うーん、今すぐ収穫できるワケじゃないか。今日はここまでにしておこう、どんな実がなるか楽しみだ。
私は部屋に戻り、今度は鳥籠の改造を始めることにした。まず中に吊られている首吊りロープみたいな止り木を取り外した。それから、昨日この鳥籠で寝ていて着布団が欲しいと思っていたので、鳥籠にもとから敷かれている西洋座布団に合わせた毛布を作った。
最後に、私が寝ているところを外から見られるのも良い気がしなかったので、鳥籠を暗幕で覆うことにした。小学校の体育館の舞台に付いている舞台幕のような厚めの臙脂色の布を用意した。縁には金糸の刺繍をあしらって鳥籠の雰囲気にも合っており、なかなかゴージャスだろう。これなら王家のペットの住処として遜色ない。
そろそろ暗くなってきたので、私は会心の出来となった鳥籠の中で就寝した。
明日は晴れると良いな……。
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