小さな妖精に転生しました

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一章 王妃の病

001. 妖精転生

 目が覚めると妖精になっていた。


 なぜだか分からないけど、自分が手の平サイズの小さな妖精になっていることを理解している。ふと背後に視線をやると、当たり前のようにトンボのような透明な羽が……、やっぱあるよねぇ。でも自分は確かに人間だった記憶があるんだよ。


 うーん、これは……、もしかして妖精に生まれ変わったとか? つまり死んだ? あれ? 何も思い出せない……。


 まぁいっか。



 んでここは……、森だね。特に違和感もない普通の森だけど、どこの森なんだろう? って、虹!? でかっ! 空を見上げるとめちゃくちゃ大きな虹がかかっていた。色も白いしなんだか普通の虹じゃないっぽいけど、なんだあれ? しかもよく見ると月が2つあるよ。そっかー、異世界かー。超でかい白い虹があって月が2つもある、絶対地球じゃないよね。


 だけどなんでだろう。地球じゃない異世界に小さな妖精になったことをすんなり納得できてしまう。ある程度自分がどんな存在になってしまったのか、なんとなく分かっちゃうよ。



 んーと、まずは森から出た方が良いのかな。だけど、下手に森から出ると人間に捕まって一生籠の中も有り得るかも? でもでも、森を出ないにしたって周辺の情報は欲しい、地図でも表示するか。


 ぽわっ


 え、地図出た。地図出せるんだけど私。すご。なんか当たり前のように地図を出せたけど、あれ? 地図って普通出せるもんだっけ……。まぁいいか、出せて便利なことはあっても不都合なんてないでしょ。


 それにしてもこの地図、なんか赤い点が表示されてるなぁ。しかも動いてるし……。うーん、行ってみよっかな。あ、この地図オートマッピングだ。すご。便利。




 地図を表示しながら赤い点に向かって飛ぶ。普通に飛べてるね。特に羽音もしないのは良かったよ。これでハチみたいにブーンて音がしてたら発狂してたかもしれないからね。あと、結構な速度で飛んでるけど目が乾いたりはしないっぽい。風は感じるんだけど、不思議な感じ。




 おっと、なんか向こうから嫌な感じがする。地図の点と嫌な感じの場所は同じっぽい……。あ、あれか。魔物だ。見たことない生き物だけど、あれが魔物だってことが何故か理解できた。地図の赤い点はつまり魔物だったのね。近寄らない方が良い気がする。赤い点がない方に移動しようっと。




 そうしてしばらく赤い点とは反対方向に移動すると、地図上にいっぱい点が出てきた。しかも赤い点だけじゃなく青い点もある。


 青はなんだろ? 赤が魔物だったから青は人間? つまり魔物に人間が襲われてる? 森の中に街道があって、移動中の旅人か何かが襲われてるのかな。どうしよう、助けに行った方が良いのかな? でも人間を助けたとして私が捕まらないかな? なんてったって妖精だ。この世界での妖精の価値が分からないけど、もし超珍しい存在だったら捕まえられるかもしれないよね。


 助けられるかどうか、という疑問は湧いてこない。人間が怪我をしていれば治癒できるし、劣勢なら支援魔法が使えるということが当たり前のように把握できていた。


 そっか、魔法使えるのか私。ってか魔法あるんだこの世界。まぁ、半透明の地図がホログラムみたいに浮いてるんだから魔法くらいあってもおかしくないかもしれない。よし、魔法があるなら自衛もできるでしょ。とりあえず様子を見に行こう。




 あ、人だ!


 近づいてみると森の中の街道にすごく豪華な馬車が止まっていた。その馬車を騎士が護衛していて、それをムサイおっさん連中が襲撃している。森の中から見つからないように様子を窺う。手の平サイズの私が見つかるなんてことは無いでしょ。っていうか、やっぱり手の平サイズだったのか私。人間超でかい。


 んで、これは騎士が青でムサイおっさんが赤ってことか。赤い点は魔物だけじゃなかったんだね。ムサイおっさんは何なんだろう。山賊? 森だから森賊? いやえっと……、ああそうだ、野盗か。


 おっさん側から悪意のようなものを感じるから、実は騎士側が悪者でおっさん側が良い者って展開はないと思う。つまり地図の赤い点は敵で青い点は敵以外なのかな。これは助けるべきか、むむむむむむ……。



 とりあえず倒れている騎士たちに回復魔法を使ってみる。どうだ? お、動いた。立とうとしてる! 良かった、ちゃんと回復できたっぽい。騎士側も野盗側も不思議そうに一瞬ポケッとしたけど、次の瞬間には騎士たちが一斉に攻めだした。


 よし、補助魔法もかけてあげよう。ふふふ……、びっくりしてる。よーしよしよし、いけ! そうだ! やっつけろ!



 ほどなくして騎士が野盗を制圧し終えた。ってか殺してしまっていた。うわー、普通に殺すんだ……。でもそりゃそうか。見たところ中世っぽいし、あんな豪華な馬車を襲った野盗を逃がすわけにもいかないだろうし、かと言ってあんな人数捕縛してもこんな森の中じゃ連行するのは現実的じゃなさそうだしね。



 見ていると馬車からメイドさんに続いて凄く綺麗な銀髪の女の子が出てきた。銀髪とかやっぱ異世界すご。めっちゃ美人だしすっごい高そうな服着てるし、あれは貴族だね。間違いない。でも何を話しているのか分からないな。音はよく聞こえているんだけど言語がちんぷんかんぷんだ。みんなうにょうにょ言ってるようにしか聞こえない。



 っ!? こっち見た? 見つかった? こんな小さいのに?



 銀髪ちゃんはしばらくこっちを見ていたけれど、騎士と何やら話したあとまた馬車に乗って見えなくなった。ふぅ、めっちゃドキドキしたよ。騎士たちは野盗の死体を処理し終えたみたいだし、どうやら出発するっぽい。


 うーん……、どうしようかな。あれに付いてけばとりあえず街には行けそうな気がする。


 よし、行くか。


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