第12話 戦闘③
「抜かせ」
痩身の男は、そう吐き捨てると槍を強く握った。
【
特殊な力を持った武器である伝承級宝具、神話級宝具であれば自己防衛の能力を持っていることはザラだ。
どんなルートでそれを手に入れたのかはこの際置いておくとして、だとすれば二つの可能性の両方を併せ持っていることも有り得る。
「ヘレナ、目眩しをやってやれ」
男に聞こえないようそっと耳打ちをして、男へと向き直る。
「テメェらは、この槍の錆になって死ぬんだよ」
風切り音とともに勢いよく突き出される槍。
突き出してから変化する軌道は未だに見切れず間一髪の回避だが、それでも男が槍を手元に引くその隙を作れればよかった。
ヘレナはその隙での魔法行使を悟られないよう牽制する動きを見せている。
「オイオイ、いつまで避け続けるつもりだ?」
男の槍裁きは鈍ることなく、こちらのこちらの動きを捉えようと縦横無尽に暴れていた。
「【
これ以上回避しきれる自信はないし、さっさと片付けてヘルベティア共和国へと入りたい。
そろそろケリをつけるべきだろう。
「上に逃げたって無駄だぜ?」
男は俺を狙おうと槍を構えなおした。
そこに生じたコンマ数秒の隙。
たかが一瞬、でも俺たち兄妹にとってはそれで十分だった。
「【
ヘレナの詠唱と共に辺りは真っ白になった。
「なッ!?畜生、何も見えねぇッ!!」
それが男の最後の言葉だった。
「終わりだ」
垂直降下の一瞬、俺は男の首筋を掻き斬った。
「ぐおぉぉぉッ!!」
絶命間際の叫びと血潮がとが辺りに飛び散り、命を失った男の身体は自らの血の海に沈んだ。
「……中々に厄介な相手だったな」
「対人戦の経験が私たちには圧倒的に不足していると思う……」
気がつけば俺もヘレナもどっと疲れてその場に座り込んでいた。
「ヘルベティア共和国のギルドの依頼で対人戦が想定されるものがあったら受けてみるか?」
「経験を積みたい」
人を殺したのは別に初めてでは無かった。
過去にはヴォルガルの敵を抹殺したこともあったし、魔族を殺したこともある。
だがそのほとんどにおいて、今回のように先頭になることは稀だった。
「なら、そうしよう」
今後の予定が定まったところで、背後から馬蹄の音が聞こえた。
「助けに来たぞッ……って、もう終わったのか……?」
「そこの二人が殺っちゃったみたいね」
ヘルベティア共和国の方からやってきた四人の騎士。
束の間の安堵感は吹き飛び、互い以外を信じることが出来ない俺たちは剣を手に身構えた。
◆❖◇◇❖◆
「おっと……我々は敵じゃないぞ?」
「そうそう、乗り合い馬車の御者と乗客から、敵の足止めのために君たちが降りたって聞いて駆けつけて来たんだよ」
隊長と思しき男は握っていた剣を鞘へと収めて、もう一人の女騎士が説明を請け負う。
「俺はヘルベティア共和国騎士団、三番隊隊長のアイメルトだ」
「んで、私は副隊長のエマ。君たちには聞きたいことがいっぱいあるし、とりあえず同行願えないかな?」
エマの言葉に俺とヘレナはどちらともなく顔を見合わせた。
「お兄ちゃんに任せるよ?」
「どうするか……」
多分、追っ手はあいつらだけじゃない。
それこそ名うての犯罪組織ならその構成員は百を優に超える。
それなら俺たちはいっそ、彼らに同行して当面の間はヘルベティア共和国を隠れ蓑にする方がいいのかもしれない。
連中に拘束されている間は、少なくとも安全な場所にいられるわけだしな。
「よし、彼らについて行こう」
俺がそう決めたときだった―――――
「死体の背中に刺青が!!」
死体の検分を行っていた騎士の一人が驚いたような声を上げた。
俺たち含めてその場に居合わせた全員が痩身の男の背中を見つめた。
男の背には曲刀と星とが彫られており、男がどこの組織に所属しているのかは一目瞭然だった。
「ニザールの連中ね……」
エマは酷く重いため息と共に組織の名前を口にした。
「うちの国への入国を図ろうとしてたとはな……」
アイメルトの言葉に騎士たちの注意が俺たちへと向いた。
彼らの視線と表情とが、彼らの抱いた「疑い」を代弁していた。
二人でニザールの連中四人を殺した君たちは何者だ?――――――と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます