影の英雄譚〜勇者よりも強い兄妹は今日も人知れず無双する〜

ふぃるめる

最強の兄妹

第1話 少年レオン

 「アレをいい感じに弱らせろって言われてもなぁ……」


 魔族と人族との最前線の南、魔王軍の傀儡師により傀儡化されたサイクロプスの住まう森があった。

 おどろおどろしい単眼の巨人が三体、森を跳梁跋扈していた。

 

 「殺す方が簡単なんだが……全く無茶を言ってくれる」


 今は『気配同化』のスキルで奴らにバレてはいないのだが、こちらから仕掛けた場合に一体目を倒した段階で他の二体に感づかれてしまうのは間違いない。


 「はぁ……」


 ため息とともに巡らした頭の中で浮かぶ一つの可能性。

 それはスキル『隠密』を行使した状態での、精密魔法射撃だった。

 

 「核を外してっと……この辺りか?」


 指先に魔力を集約させて放つのは【炎芒矢ヴァンアロー】。

 

 「Graaa!?」

 

 撃ち抜かれた腹を押さえて一体目のサイクロプスが膝を折った。

 残りの二体が射撃地点を炙り出そうと、力任せに周囲の森林を破壊して回る。

 立て続けに二回、同じ動作を繰り返せばそれで任務は達成だった。


 「Gra……」

 「GraGra……」


 苦悶の声を上げて、それでも俺を探そうと周囲を睨み回す単眼の巨人。


 「いたぞ、あそこだ!!」

 

 そんな三体の元に現れた五人組。


 「主役のお出ましか……」


 『気配同化』のスキルで気配を消しながら、俺はその場所を後にした。


 ◆❖◇◇❖◆


 「おいおい、エリオット様率いる勇者一行が、傀儡師に操られたサイクロプス三体を討伐したってよ!!」

 「いや〜、魔王軍相手にも完勝できるんじゃないか?」

 「こりゃ人族の未来は明るいな!!」

 

 ミスラス教国の大司教座都市トリーアは、勇者一行の活躍で湧いていた。


 「ようレオン、元気してたか?」

 「まぁ、ぼちぼちだな」


 ギルドの酒場で話しかけてきたのは、同年代の冒険者のブルーノだった。


 「お前はいつもそうだな」

 「なんにも無いのが一番、だろ?」


 年齢もさほど変わらない冒険者であるブルーノは銅級の冒険者で、青銅級の俺より一つ上の階級だった。


 「それはそうなんだがなぁ……俺としてはレオンの実力だったら銅級以上を狙っていけると思うんだよな」

 「買い被りだ」


 俺はうだつの上がらない冒険者くらいで丁度いい。

 いや、それくらいが望ましい。

 何しろ冒険者として大成してしまえば、本業に差し障りがあるのだ。

 何しろ俺は―――――


 「レオン、お客さんだよ」


 酒場の顔馴染みの店員に言われて、声のした方向を振り向くと、そこには一人の少女が立っていた。


 「悪いなブルーノ、今からデートだ」

 

 少女の名前はヘレナ、俺と同じの人間だった。

 それだけじゃなくて血の繋がった妹でもあった。

 酒場の裏手、閑散とした裏通りに出るとヘレナは口を開いた。


 「今回は私も一緒」

 「なら前回よりも厳しい任務ということか?」

 「大丈夫、私たちは最強のタッグだから」


 ヘレナの目が紫色に爛々と輝いた。


 「ちなみに内容は何なんだ?」

 

 そう訪ねるとヘレナは淡々と告げた。


 「エンシェントドラゴンの


 任務の内容に思わずため息をつかずにはいられなかった――――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る