何を話していたの?【なずみのホラー便 第142弾】

なずみ智子

何を話していたの?

 ユウコは自分でも不思議で不思議でたまらなかった。

 同じ大学の友人・サナが男性と話しているところをひとたび見かけてしまうと、それはもう気になって気になって仕方がなくなるのだ。

 話が終わってサナが一人になった頃合いを見計らい、「さっき、〇〇くんと何を話していたの?」「今の人、誰? 何を話していたの?」と毎回毎回、駆け寄って確認をせずにはいられない。


 なお、ユウコのこの抑えきれぬ衝動に基づく行動は、サナに対してだけであった。

 ユウコはサナの他にも、そこそこの数の友人ならび知人がいたため、サナに対する独占欲あるいは依存心とは少し違う気がする。

 現にサナと話している相手が同性であったなら、ユウコは何とも思わないし、駆け寄ってまで確認することはないのだから。


 ということは、ユウコはサナの恋愛事情に並々ならぬ興味関心を抱いているということか?

 ちなみに、ユウコにもサナにも彼氏はいない。

 ユウコは無意識にサナをライバル視、もしくは自分より下に位置づけており、サナに彼氏が出来て”先を越されてしまった”という敗北感を突きつけられたくがないために、彼女と言葉を交わした男性と会話内容についてまでも確認というか、把握しておかなければ気が済まないのであろうか?


 そんなある日、ユウコは大学周辺の歩道で、サナがまたしても男性と話しているところを見かけてしまった。

 しかも、サナは二人の男性と話している。

 男性は二人ともユウコが始めて見る顔であり、年はどちらも三十過ぎと思われた。

 一人は長身痩躯で、もう一人は大兵肥満で、並んでいるからこそ相乗効果によって余計に際立つ身体的特徴をどちらも有していた。

 いや、何よりも……あの男性たちは、治安の良い大学周辺というこの近隣の雰囲気に溶け込んでいない、というよりも完全に浮き上がっている。

 年齢差があるだけでなく、自分やサナみたいな普通の大学生とは”明らかに住んでいる世界が違う者たち”にしか見えない、とユウコはいつも以上に気になって気になって仕方がなかった。


 男性たちとの話が終わり一人になったサナの元に、ユウコはいつものように駆け寄っていく。

 今回はいろんな意味で、サナに聞かずにはいられなかった。

 そう、今回はいろんな意味で把握しておかなければならないと思ったのだ。


「今の人たち、誰? 何を話していたの?」


 唇の端を吊り上げたサナは、答える。


「………………ウザいあんたに消えてもらう方法よ」



(完)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

何を話していたの?【なずみのホラー便 第142弾】 なずみ智子 @nazumi_tomoko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ