第19話 亡者の配下たち
「少し良いか、アナスタシア。例の、
三階の書斎から二階へと降り、踊り場で裁縫箱を手に持っているアナスタシアへと声を掛ける。
すると彼女は小さく頷き、ポケットの中からひとつの指輪を取り出した。
「報告が遅れてしまって申し訳ございませんでした、ロクス様。こちら、宝物庫から見つけてきた【アナライズ】の魔法が宿った
差し出された紫色の小さな宝石が付いた指輪を受け取り、右手の薬指に嵌める。
―――――低三級・情報属性魔法【アナライズ】。
この魔法は、対象を視認し魔法を使用することによって、敵や味方のステータス値を無理矢理開示することのできる優れた
主に、戦闘中、
あとは、冒険者ギルドで等級プレートの進級審査で使用されることもあるな。
相手の能力を調べることができる故に、使用される頻度が多い、この世界で最も有名な情報属性の魔法と言えるだろう。
「‥‥ふむ。見たところ、とても年期の入った指輪だな」
古い
魔法石がちゃんと作動するかどうか、この場で試してみても良さそうだな。
オレは指輪を目の前に立つアナスタシアへと向け、
「―――――【アナライズ】」
詠唱を唱えた、その瞬間。
視界の端に、ステータスのパラメーターが記載されているウィンドウ画面が表示された。
《ステータス》
〇個体識別名 アナスタシア・メルク・ネーレイシス
〇Level 1
〇種族 上級アンデッド種 【ヘカトンケイル】
〇年齢 17歳
〇耐性 《物理属性耐性》
〇加護 《万力の加護》
HP 322
MP 26
攻撃力:筋力 427:344
防御力 456
俊敏性 523
魔法攻撃力 78
魔法防御力 246
成長性 B
《習得魔法スキル》なし
《習得戦技スキル》なし
「―――――――なるほど。問題なく使用できていると見て良さそうだな。それにしても‥‥‥‥驚きだな」
まさか、アナスタシアがここまで能力値が高い存在だとは思いもしなかった。
基本的な聖騎士の平均ステータス値は、せいぜい50~100くらいのものだ。
それなのに、元貴族の少女が、アンデッドに転化しただけでここまでの能力値を持っているとは‥‥正直、驚きで空いた口が塞がらない。
レベル1で、攻撃力の値が400越え――その数値の高さは、最上級冒険者であるフレイダイヤ級冒険者にも匹敵するステータス値なのは間違いないだろう。
彼女がもし敵だったと思うと、ゾッとしてしまうな。
俺はふぅと短く息を吐き、右手を下げ、
すると、視界の端に映っていたウィンドウ画面は即座に消えて、目の前には、柔和な笑みを浮かべているアナスタシアだけが立っていた。
「ロクス様、その様子から察するに‥‥どうやら
「あぁ。このアイテムを見つけ出してくれて、本当に助かった。感謝するぞ、アナスタシア」
「礼など不要ですわ。わたくしはロクス様の一の配下。どんなことでも何なりとお命じくださいませ。戦事でも、掃除でも、料理でも、雑事でも―――勿論、夜伽のお相手でも。フフッ」
そう言って目を細めると、アナスタシアは俺の鎧にそっと手を触れて、顔を近づけてニコリと妖艶に微笑んできた。
そんな彼女の様子に困惑していると、廊下の奥からこちらへ、慌ただしく走って来る音が聴こえてくる。
「アナスタシアっちー!! 縫合に使えそうな糸見つけて来たよ―――――って、何へいたいちょーにエロい視線向けてんのよ、この腕蜘蛛女ーーっ!!!! ぶっ殺すぞオラァァァーーーっ!!!!!」
「あらあらあらあら、リリエットさんがもう来てしまいましたわね。ロクス様、これから彼女との先約がありますので、申し訳ございませんが‥‥ここでわたくしは失礼いたしますわ」
アナスタシアは俺から離れて、優雅にカーテシーの礼を取ると、そのまま背後から駆けてくるリリエットの元へと向かって行く。
初対面時は何処か険悪な雰囲気を醸し出していた二人だったが‥‥何だかんだ、こうして見るとそこまであの二人の相性は悪くはなさそうだな。
見た感じ、喧嘩が絶えない姉妹‥‥といったところだろうか。
年齢的には17歳のアナスタシアよりも、19歳のリリエットの方が年上なので―――落ち着いた性格のアナスタシアの方が姉に見えるのが、おかしなところではあるのだが。
仲睦まじく言い争いをしているリリエットとアナスタシアの様子にフッと笑みを浮かべると、俺はそのまま階段を降りて、一階のロビーへと向かって行く。
そして屋敷の外に出ると、雲の切れ間からこちらを覗く太陽を、仰ぎ見た。
「ふむ。どうやら雨も止んだ、か。森の火も完全に沈火したように見えるな。では、そろそろ‥‥村の様子でも見てくるとしようか」
屋敷の庭園に視線を向けると、そこには呻き声を上げながら徘徊している――16体の元聖騎士のアンデッドたちの姿があった。
俺は彼ら元聖騎士のアンデッド‥‥近くにいる適当な【グール】の一体に向けて、
「【アナライズ】」
その瞬間―――――先ほどと同じように、視界の端にウィンドウ画面が表示された。
《ステータス》
〇個体識別名 マルク・フレアシス
〇Level 1
〇種族 低級アンデッド種 【グール】
〇年齢 24歳
〇耐性 なし
〇加護 《万力の加護》
HP 224
MP 52
攻撃力:筋力 265:182
防御力 154
俊敏性 152
魔法攻撃力 18
魔法防御力 26
成長性 E
《習得魔法スキル》なし
《習得戦技スキル》なし
「なるほど‥‥」
アナスタシアに比べれば大分劣る能力値だが、元人間の視点から見れば、かなりの高水準のステータス値といえるな。
やはり、通常の聖騎士より‥‥生前の彼らよりは、アンデッド化によって幾分か能力が強化されているような気配があるな。
俺は続けて、五体しか作成していない、首のないアンデッド―――【デュラハン・ナイト】の一体へと
《ステータス》
〇個体名 ギース・ウェンダル
〇Level 1
〇種族 低級アンデッド種 【デュラハン・ナイト】
〇年齢 27歳
〇耐性 《物理属性耐性》
〇加護 なし
HP 267
MP 82
攻撃力:筋力 166:133
防御力 302
俊敏性 103
魔法攻撃力 19
魔法防御力 275
成長性 E
《習得魔法スキル》なし
《習得戦技スキル》なし
「ほう? クククッ、なるほど、なるほど‥‥。グールは攻撃力と俊敏性が高く、デュラハン・ナイトは防御力に優れている、と。思った通り、種族別で能力値は異なっていたわけか」
もしこれから先、対聖騎士団用にアンデッドの兵団を作るならば、攻撃隊にグールを、守備隊にデュラハン・ナイトを据えた布陣を作るのが良さそうだな。
知性のないこいつらが馬に乗れるのかは分からないが――できるのだとしたら、騎馬隊なるものを作ってみても良いのかもしれない。
基本的に、肉体が脆弱な種族である人間種とは違い、アンデッド種は魔物であるが故に平均して能力値が高い。
そんな屈強なアンデッドによる兵団を作って、王国を攻め滅ぼす‥‥ククククッ、国盗りまでの構図が段々と見えてきたな。実に、面白くなってきた。
「―――――っと、そうだった。ここで一人、ボーッと佇んでいる場合ではなかったな。まずは、あの村の者どもを完全にこちら側に引き入れなければならないだろう。裏でこっそりと裏切って、王国に情報でも流されては敵わないからな‥‥クククククッ」
俺は、グールとデュラハン・ナイトへ視線を向ける。
どちらも鎧甲冑を着ているといえども、背を曲げてふらつくグールのその動きは、亡者そのものの動作だ。
ここは、兜さえ被っていればまだ動きは人間に見えなくもない、デュラハン・ナイトの方を連れて行くとしようか。
デュラハン・ナイトは個体が少ないのがもったいないところだが‥‥またどこからか死体を持って来て作成すれば良い、それだけの話だな。
「よし。五体のデュラハン・ナイトどもよ。今から俺の後をついて来い。あぁ、今から向かう村には人間がいるが、むやみやたらに攻撃はするなよ? 貴様らにはこれからその村の防衛――――ひいては、反逆者の監視をしてもらおうと思うからな。ククッ」
そう命令をした後、俺は馬に乗り、五体のデュラハン・ナイトたちを引き連れ、エレノアたちがいた村‥‥フレースベルの村へと向かって、焼けた森へと続く坂を下って行った。
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