災禍の令嬢は壊したい
しけもく
プロローグ
顔に付いた返り血を拭う。
体中べったりと塗れているのだから、殆ど気休めでしかないけれど。
「はぁ……最中は良いけれど、終わった後の
溜め息がつい溢れるけれど、これは私の自業自得。偏に『敵が壊れる感触をより味わいたい』という私の欲求によるものだ。普通に戦えばこうはならないのだから、今の私のセリフはただの我儘。とはいえ、気持ち悪いものはやっぱり気持ち悪いのだから仕方がない。
「
そんな目も当てられない状態の私へと、従者である
「悪いけれど、お願い出来るかしら?」
「承知しました。とはいえ、もう少しスマートにいきませんか?」
「これが私の、唯一と言っていい楽しみだもの。やめるつもりはないわ」
「文句を言ってみたり、開き直ってみたり。毎度心配して待っているこちらの身にもなって欲しいですね」
そんなお小言を頂戴しつつ、社に身を任せる。
すると彼女の両手が淡い光を放ち始め、そのまま私の頭から足までをゆっくりと撫でる。そうして数分も経たない内に、返り血によって見るも無惨な状態だった私の衣服は、まるで新品のような状態へと戻っていた。ざっと見回しても汚れひとつ見当たらない。いつもながらいい仕事だ。私が戦闘の度に汚れられるのは、彼女の能力あってのこと。もしも彼女がいなければ、もう少し返り血に気を使って戦っているかもしれない。いいえ、やっぱりそれはないかしら?
「はい、終わりました」
「そう。それじゃあ帰るわよ。あとの処理は現地の人間に任せるわ」
「承知しました。車を回して来ますので、今暫くお待ちを」
そう言って去ってゆく社の背中をぼんやりと眺める。続いて、自らの周囲を見回してみる。地面には大小様々な破壊痕。木々はなぎ倒され、まるで台風が通り過ぎた後のような様相を呈している。粉々に砕かれた大岩に、血の池に沈む敵の死骸。我ながら随分好き勝手に暴れたものだと、自嘲が溢れる。
そんな私を見つめる、幾つかの視線があった。
軍服に身を包み、各々が武器を携行した数人の軍人。私が到着するまでの間、必死に戦っていたのだろう。見れば誰もが何かしらの負傷をしており、どうやら死人も出ている様子だった。そんな彼らの顔に浮かんでいたのは、紛れもない恐怖の色だった。果たして彼らが恐怖を抱いた相手は、そこで朽ちている死骸なのか。それとも───。
そんな風に考えていたところで、私を呼ぶ声が聞こえてきた。どうやら社が車を回してきてくれたらしい。であれば長居は無用だ。私の用件は先程終わったのだから、後の始末はそこで怯えている彼らにお任せするだけ。一人だけ、恐らくは隊長と思しき女性だけは、恐れとはまた違った感情を抱いている様子だったけれど。
「それじゃあ皆さん、御機嫌よう。あとの事はお任せするわ」
彼らの返事を待つこともなく、私は踵を返す。
車に乗り込んだ頃にはもう、この先二度と会うこともないであろう彼らのことなんて、私の記憶からすっかりと消え去っていた。
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