世界が僕を間違えた ~突然始まる異世界生活~

@kita55

独白 ~プロローグ~

 僕の名前は遠野奏多とおのかなた、どこにでも居そうな普通の男子高校生だ。ただ、ひとつだけ違う点があるとすれば夢を見る事だろう。もちろん夢と言っても誰もが見るし、人によって内容も長さもそれぞれで、それは当たり前の事だと思う。

 だが、僕の場合はそれが明らかにおかしい。夢であるはずなのに自分自身が夢の出来事を現実でやっていたかのような妙な実感が残ってしまう。その他にもおかしなところはいくつもある。

 例えば夢の内容は毎回、同じものばかりだ。その中に出てくる僕は超人的な身体能力を持ち、ファンタジーものによくある不可思議な光を放つ剣を手にしている。言うまでもないけど現実の僕はそんな人間離れした力もなければ代々伝わる曰くつきの剣なんて持っていない。

 なのに、夢の僕はその身体能力と剣の力を遺憾なく発揮してゲームとかで見た事あったりなかったりする化け物を倒したり、時には人ですらも躊躇なく斬り殺していた。それをやった記憶もないのに、確かに自分の手でやったのだという強烈な実感を刻み込まれるのだから結構しんどい。

 他には夢を見て起きるまでの時間がキッチリ同じである事。目覚めてしばらくの間はなぜか涙を流している事。眠りに就く前の一瞬、身に覚えのない焦燥感に苛まれる、等々。


 これを高校三年になるまで毎日見せられ続けてよく精神が病まなかったものだな、と思う。最初に見たのが中学に上がったばかりの頃だったから、今年で六年目の付き合いになるワケか。見始めた頃はだいぶ苦労したり悩んだりもしたが、誰かに相談する気にはなれなかった。両親には心配をかけたくなかったし、ましてや友達に話そうものなら笑い話にされてクラスでバカにされるのがオチだったからだ。


 しかし、人間は慣れる生き物。精神的な害はさておき、現実的な害にまで及ばないとなれば自然と平気になっていった。こんなモノにも慣れってあるんだな、と少し呆れたりもしたけど。

ともあれ夢の見様見真似でそれなりに剣道が強くなれたところだけは感謝してる。ついでに荒事にも。


 …と、まあこんなおかしい部分があるにしても僕の生活はそれなりに平和なものだった。このまま高校を卒業して大学に進学し、就職していずれは結婚したりしなかったりの平々凡々な一生を過ごすんだろう、なんて思ってたんだけど。

 そんなある日の夜の事。いつものように明日の準備をして、いつものように寝て、いつもの夢を見て朝を迎える。そのはずだったのに――



――気が付くとどこまでも続く白一色の世界にパジャマ姿のまま、僕は居た。もっと正確に言うと知らない女の子とテーブルを挟み、向かい合う形で椅子に座っている。どうしてこんな事になってるのか、なんて僕が分かるワケない。

いつも見ている夢じゃないってだけでも驚いたのにその上、自分自身がその中に居るという事実にどうしたらいいのやら。今夜の夢はいつも見ているモノ以上に意味が分からない。にも関わらず驚いてたのは最初だけで、今は不思議と心が落ち着いていた。

「人間、あまりに信じられない出来事に遭遇すると逆に冷静になるものだ」とかテレビで誰かが言ってたっけ。でも、まさか僕自身がそんな状況になるなんて思ってもみなかったな。…と、そういえば目の前の女の子は一体どういう事なんだろう。

何かこの夢について知ってるなら教えてもらおうかな、と思って話しかけようとした矢先、彼女の方から声をかけられた。


でも、それがまさか僕の本当の意味での人生の始まりを告げる言葉になろうとは、この時は思ってもみなかった。



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