第24話 島流し ⑤
次の日
「パチンカス、政岡、調子はどうだい?」
透き通った声が後ろから聞こえる。サキヨミは政岡の隣に座る。
「パチンカス。まぁ、ボチボチかなと」
「そうか。私は順調だ。後は物資が届いたら残りの作業だ」
サキヨミは腕を上に伸ばし目を閉じる。
「そういえば看守に聞いた話だが、明日盗賊団の一味がここに来るそうだよ」
刑務所ならではの世間話。どんな罪を犯した、どんな地位の人間が来る等の他愛もない話。
「盗賊団はちょっと怖いですね」
「まぁ、大きい組織でそれなりの悪事も働いているから北側に収監だろうな」
「あぁ、区分けされてるんですね」
「そうだよ。危険性が少ない人間は南側、私達が今居る所で、危険性が高い人間は北側に入れられるんだ」
「なるほど、他の囚人は何やらかしたか解らないから怖かったんですよね。少し安心しました」
「とは言ったものの、ざっくばらんな内容だけどね。見た目で決めている事も多いそうだよ。私と同じタイミングでここに来た人間がいたんだけど、顔が怖いという理由で北側に連れて行かれた。ついでに罪状は宿屋の一部を壊して器物損壊罪。村一つ焼き払った私の方が絶対に罪が重いというのに」
政岡はサキヨミの顔を見る。
「まぁ、どんな人間かなんて解らないですもんね。せめて見た目で判断するのは仕方がないかなと」
「いや、ホントに、美少女に生まれて良かったと思うよ」
自分で言ってしまうこの感じ。前から思っていたがそれなりの性格なようで。
「そういえば、その盗賊団は勇者が今追っているそうだね」
「勇者、耳には入るけどピンと来ないですね」
「簡単に言うならここでは無い別の世界から呼んだ人間がすごく強いから、世界の問題を解決してもらおうという事だね。呼ばれた人間からするとたまったものではない話しさ」
「……その、呼ばれた人間ってやっぱり強いんです?」
「強いかどうかは能力次第だ。そういった人達を転生者と呼ばれたりするけれど、1つの例外もなく超常的な能力を持っているそうで、魔王が居た時はそれこそ、救世主と呼ばれていたそうだよ。まぁ、今は魔王は居ないけど」
「……超常的?」
はて? そんなもの貰った記憶はない。何だか腑に落ちない。
「勇者の能力、魔力は我々とは根本的に違うことも多いそうだ。ぜひとも実験したいものだ」
「……ハハ」
自分も転生者である事は墓まで持っていこう。良い未来は見えそうにない。
「そういえば、君の魔力が水なのは知っているが、出力はどうなんだい?」
「あれ? 言いましたっけ? 水って」
サキヨミは政岡の腕輪を指差す。
「石が青色になっているだろう? 種類によって色が変化するんだ」
なるほど、知らなかった。青保留になっていくなぁとは思っていたが。
政岡は立ち上がり、腕を前に伸ばし目を閉じる。手から海を放出する、反動で後ろへ飛ばされるかもしれない、それほどまでのイメージ。
「はぁぁぁぁぁ」
勢いよく飛び出たそれは、弧を描き、地面に落とされていく。それはまるで。
「尿みたいな勢いだな」
あ、駄目だ恥ずかしい。このまま走り去りたい。政岡は目を下に向けイメージを辞めた。
「……コレガ、ゼンリョクデス」
「なるほど、素晴らしいな」
思わぬ褒め言葉。同情で言っているには真剣味が溢れる表情。
「容量に対して出力が低いということは、それだけ普段の生活でも魔力が消費されないという事だ。さっきの引っ込み思案な魔法も」
引っ込み思案言うなよ。
「君の魔力量を考えると消費した分直ぐに回復しているだろう。君は本当に私好みの体質だ。刑務所から出たら何からしようかワクワクが止まらない」
サキヨミは指を口に当てて微笑む。
少女に好みと言ってもらえてもこんなに響かないことはそうそうない。魔力量目当ての関係。そう考えると敬語じゃなくても良いかもしれない。
「よし、今日のノルマは終わったな。今から政岡、君にお願いがあるんだ」
「ん? 何かあるの?」
思い立ったら吉日。直ぐに敬語じゃなくなる政岡。
サキヨミはニコリと笑い腕輪を渡す。
「今日はこの腕輪をずっと着けてほしいんだ」
「それは大丈夫だけど、何のやつ?」
「念には念を。実験もとい君の指が絶縁しない為の物だ。今作れる最大の、出力100倍」
「なるほど?」
腕輪を着ける政岡。
「1000倍の出力ともなると、もしかしたら人体に影響を及ぼすかもしれないから、試しに100倍をね」
「……仮に100倍試してもその10倍はやってみないと解らないってこと?」
「後はこれで何分保つかを計測できたら、君の魔力量も解る。一石二鳥だ」
「聞いてる?」
不穏なやり取りをスルーされたが仕方がない。どのみちこれ以外の道は無い。
「不調を感じたら直ぐに報告をして欲しい。君の魔力量なら大丈夫だと思うが、常人なら1分であの世行きになる代物だからね」
「その話を聞いたら体調が悪くなった」
「まだまだ大丈夫だな。ガンガン行こう」
「……ついでにどれくらいイケるかは予想はついてるの?」
「昨日のことを考えると18分までは大丈夫なはず。いかんせん100倍ともなると正確に100倍と言い切れない」
「なるほど、人体に影響って最悪何が起きるの?」
「さぁ?」
「……」
怪訝な目でサキヨミを見る政岡。
「知らないものは知らない」
なんとも言えない顔で何度も頷く政岡。
「まぁ、仮に何かあっても死なないだろうから無傷みたいなもんだよ」
「それ、自分で言うことなんだけど?」
若干とは言えない不安要素はあるが、それでも進めるしかない政岡。ここまま時間が流れるのを待つ。
30分後
政岡、倒れる。
「もう厳しいかい?」
「見たら分かるよね? それ」
顔を接地しながら話す政岡。ピクリとも動かない、いや、動けない。
サキヨミは、政岡の腕輪を外した。
「30分……本当に人間か疑いたくなる魔力量だね、常人の100倍以上だ」
「お褒めに預かり、大変光栄」
「脱力以外に、体が痛いとか、そういうのは無いかい?」
「体が動かない以外は特に無いかな、後は息がし辛い」
「魔力枯渇の症状だけだね、これなら多分大丈夫だ」
ただの喋れる置物と化した政岡は。そのまま地面に伏す。
「今で30分なら1000倍は3分ってことだよね?」
「そうだね。手遅れになったら事だから2分59秒で外す予定だよ」
「2分でお願いしようかな」
そんなギリギリでいつも生きていたくはない政岡。
「取り敢えず問題ナシだ。完成が待ち遠しいな……どんな結果になるのか、胸が弾むし高鳴るよ」
目をキラキラ光らせて楽しそうに語るサキヨミ。まるで新しいおもちゃを買ってもらえる子供のよう。
「どうか最良の結果になるようにお祈り申し上げる」
「祈るのは大事な事だよ。さて、その腕輪を預かって戻ろう思う。今の内に寝ておくよ」
「解った、その前に質問。どれくらいで体が動くのかな?」
「人によりけりかな。早い人なら1時間で動けるようになるよ。遅い人なら3時間とかかな? おやすみなさい。また明日」
「……おやすみなさぁい」
まさかの放置プレイ。なんにせよ結果は良好。このまま進めば指が地面の肥やしになることは無い。
「何だアイツ、地面に突っ伏しながら笑ってるぞ。気色悪い」
突然の罵倒も今は許そう。今は比較的穏やかな心境に恵まれている。体が動くようになったら自分も寝よう。
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