第20話 島流し ①
薄暗い鉄格子の部屋で政岡は正座をして目を閉じている。まるで切腹前の侍。澄んだ瞳は覚悟の表れか、今にも口上を垂らしそうな雰囲気を醸し出している。
鉄格子の向こう側から物音が近付く。鎧を着た男が扉を開け政岡を見る。
「時間だ。今から向かうぞ」
「すみません、図書館で本を借りたんですけど、この指輪外せます?」
覚悟なんてものは無かった、生にしがみつく姿はある意味生き物として正しい姿。政岡はつぶらな瞳で男に尋ねる。
「さあ? 雇われの身だから知らん」
余りの雑な返答に政岡は目に潤いを帯びる。
「取り敢えず今から向かうらしいから付いて来い」
「……はぃ」
今にも魂が抜け落ちそうな返事をする政岡。言葉の節々に気を使っている余裕など無い。兎にも角にも選択肢など今は無く、言われた通りに金魚のフンになるしかない。
そのまま歩いて半刻程。ある場所にたどり着いた。
都市の後ろは巨大な湖になっており、そこを移動するために船がある。政岡は、船に乗っている。
「……ん?」
都市のどこかに刑務所があると思っていた政岡は動揺を隠せない。仮に都市ではなくともどこかの街だと思っていたが……政岡が危惧しているのは1つ、図書館があるかどうか。
湖を渡った先に街があるということか、政岡は心もとない様子で薄暗い部屋に案内され座っている。考えても仕方がない状況。政岡は目を閉じ仮眠を取る。ふと、向かいに座っている鎧を着た男2人が会話をする。
「もしかしてと思っていたが、コイツまさか、尿かけの政岡か? 今日、門番の奴が嬉々として語っていた、アレ」
「ああ、何か盛り上がってたな。ということはまさかこの男、道端で歩いてる貴婦人に尿をかけて……? とんでもない男だな」
……今から暴行罪が重複したら追加の罰則はやはりあるのだろうか。もし多少なら、いっそ……。
政岡は良くないことを考えている。雑念を振り払うように政岡はより一層瞼に力を入れる。
「着いたぞ。早く降りるんだ」
思ったよりも早い到着。部屋を出て、地上に向かって降ろされた木材の板を渡り地上へ。
どうやら湖の中心にある島に降ろされたようだ。湖は想像よりも大きく周りを見渡しても水平線しか見えない。水も綺麗で透き通っている、白と青しか無い景色に心が浄化されそうだ。島の方角を見ると、湖とは裏腹に黒い外壁が囲われている砦の様な門が堂々と構えられている。門を開け中に入ると顔面傷だらけの男が出迎えをしてきた。
船に乗っていた男が傷の男に紙を渡す。
「名前は政岡、賭博法違反で1年の労働……」
傷の男は政岡を凝視する。蛇に睨まれた蛙。政岡は身動きが取れない。
「まぁ、頑張れや。付いて来い。部屋を案内する」
思ったよりも簡潔なやり取り。何もされない事に安堵するが、まだ解らない。異世界の刑務所暮らし、どんなものか想像もつかない。固唾を飲みながら案内される政岡。
「ここだ」
刑務所の中は非常に単純な造りになっているそうで、廊下の左右に四角の部屋が並んでいる。それが何個も続いているようだ。
番号が扉に貼っており、776番。数字が1つ足りない事が不吉に感じる政岡。気にしても仕方がないものではあるが、政岡はパチンカス。これは性分なのだ。
中は寝るだけの浜所。それ以上でもそれ以下でもない。布団、毛布、枕。以上。
「明日から仕事だが、2種類ある。1つは肉体労働、雑務。まぁ、畑仕事か何か手作りをすると思え。もう1つは魔力量が多い奴しか出来ない仕事だ、詳細はまた明日だ。そろそろ夜だから今日はもう寝ておけ」
思ったよりも常識的な刑務作業でたいへん喜ばしいがそれよりも。それよりもだ。
「あの、すみません、図書館で本を借りたんですけど指輪外せます?」
去り際の確認。これだけは、これだけは絶対に、必ずなのだ。
「ああ、本は検査した後に返すし、所内に司書も居るから指輪を外せるぞ」
政岡、深く息を吐き姿勢を崩す。取り敢えず爆発エンドは免れた。
政岡はこのまま横になり目を閉じる。取り敢えず命の危機は脱した。激動の1日だった訳で、体は突然限界を迎え、瞼は重力に逆らうことなく落ちていく。
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