第18話 無知の罪 ②


 地面は全部舗装されていることから根本から街や村とは作りが違う。数分歩いただけで宿屋が3店舗もある。すぐにでもカジノに行きたいところだが何にせよ場所が解らない。腹も減ったので居酒屋を探そうとしたが直ぐに見つかった。


「クソご飯」と書いている看板を横目に入店。白湯を頼んで食べる。1杯50ゴールド。


「いやー、それにしても昨日は盛り上がったな」


 後ろから聞こえる会話を盗み聞きするのが習慣になっている政岡。携帯がないこの世界の数少ない情報源だからである。


「勇者、ケン様の凱旋式」


「んん?」

 

 無視するには余りにも大きい事実。カレーに集中出来ない。


「昨日はカジノに行って正解だったな。2万ゴールドも勝ったぜ」


 昨日やん! 昨日! やん! 政岡渾身の魂の叫び。

 わなわなと震える政岡。騙された、いや、勝手に盗み聞きしたわけだから騙されたというのはお門違いだが。傍からあの日は熱くてめちゃくちゃ勝ったという自慢話は目の前で悪態をつかれるよりダメージが大きい。パチンカスとはそのような生き物である。


 だが、カレーを食べ終わり落ち着く。何故ならば、スロットを打てるならそれでいいやと思っているからである。勿論、勝てば御の字であるが、負けたとしてもカジノに御の文字を贈呈したい。それ位に彼は打ちたい。彼はパチンカスである。


 食事を終え店を出る。店主にカジノへの道も聞いた。あと数分、そう。あと少しでスロットが打てる。血湧き肉躍る。ついでに財布も踊る。


「市民証をお持ちでないと入れないんですよ」


 スロットカジノ「ジャンバリ」と書かれた店の前で黒スーツの男に止められた政岡。


「市民証? それがあれば打てるんです?」


 身分証明書みたいなものかと政岡は納得。確かに日本でも身分証明書の提示をされることもある。


「はい、そうですが、市役所でお金を支払って発行してもらえれば」


「はい、解りました。いくらとか解ります?」


 仮に1000ゴールド位なら致し方ないと割り切る政岡。


「100万ゴールド支払えば発行できますよ」


「……ん? 100ゴールド?」


「いえ、100、万ゴールド」


 致し方ない額ではない、新手の詐欺か何かなのかと疑う政岡。


「都市には内部と外部がありまして、言うなれば都市の内部に住んで良い正式な権利みたいなものなんですが、内部に住んでるのは殆ど貴族です。これだけで貴族と同等の権利を取れることになるんで一般では支払えない金額になってるんですよ」


 話を聞きながら俯く政岡。仮に1日500ゴールド貯金したとして2000日かかる計算。膝と地面がキスしそうになる政岡。


「ですので、殆どの市民はモンスターレースを嗜みます」


「モンスターレース?」


「はい。色んなモンスターを使って競争をしてどこが一位になるかを賭けるゲームみたいなものです」


 ……ああ、競馬ね。競馬のモンスターバージョンね。


 場所を案内してもらった政岡。本来ならば競馬等の類は嗜まない所だが、まぁ、なんにせよという気持ちでモンスターレースの会場へ赴く。

 

 木で囲われた直線のコースのみ。幅が数十メートル、どうやらカーブなどは存在しないようで非常にシンプルな造りになっている。

 地上で立って見ることの出来る無料のスペースと野球の観戦席みたいに外周を囲って上部が全部椅子になっている有料のスペースになっており、勿論政岡は無料スペースで立ちながらの観戦をしていた。


 モンスターといっても多種多様、スライムの隣は牛に酷似しているモンスターも混じっている。後は虎、鹿、犬、馬、巨大トカゲ、そして。


 目はあっていないがゴーレムがいる。嫌な汗が出てきそうだが、ここはレース場、安全は保証されているはず。


 突如ファンファーレが鳴り響く。解説などがいると思ったらそんな声は聞こえない。マイク等はないのだろうか。


 そんなことを思っていると笛が鳴り響いてレーススタート。無理矢理に並べたモンスター前方のシャッターが上がる。


 どうやらモンスター同士が争ったり妨害をしたりするのはアリだそうだ。その辺りも含めてのレース。スライムは諍いに巻き込まれてそのまま死ぬことが大半なので倍率3000倍。ゴーレムは足が遅すぎて倍率100倍。殆どは犬や馬、虎等が勝つそうで倍率は雀の涙ほど。


 モンスター同士が戦いながらも進んでる姿を眺めている政岡。ふと、ゴーレムの動きが怪しいことに気付く。明らかにゴーレムは脇道に逸れて鉄柵目掛けて走り出す、気のせいか、政岡に向けて走って来ているような。

 

 まるで車が正面衝突を起こしたような衝撃音、周囲全ての音がかき消えるほどの音量が観客全てに襲う。


 臨場感あるなぁと政岡はしみじみと眺めていたがどうやら異常事態らしい、周りの人間はドン引き。明らかにざわついている。ゴーレムは鉄柵を殴り続ける。何度も何度も何度も何度も何度も何度も。次第に鉄柵は形も意味も為さなくなり、大きくひしゃげた鉄の塊が出来上がる。ゴーレムは鉄塊の上を跨いで通り、走る。政岡に向かって。


「……え?」


 政岡は呆然と立ち尽くす。余りにも予想外な事が起きると人は思考が停止する。今の政岡はまさにそれ。


 あと数歩で眼前の所まで来ているゴーレム。政岡は我に返り、後ろへ振り返って逃げようとするその時。ゴーレムは突然、前へ倒れた。


 大きく土煙を上げて目を手で覆う政岡。次第に視界はクリアになり、倒れたゴーレムを見てみると胸の部分に穴が空いていた。


 後ろを見ると大きな弓矢を構えている男が居た。恐らく弓を放ってゴーレムを倒したのだろう。ついでにレースはこんなことがあっても決着を見せたようで一位は虎のモンスター。1.2倍の倍率。だが、政岡はそんなことよりも一つ気がかりな事があった。


(……ゴーレム、俺を執拗に狙ってるくね?)

 目を細める政岡。何かフェロモンでも出してるのかと言いたくなる。異世界人特有の何かがあるかもと思い、政岡はある場所を探すことを決める。

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