何も強くない異世界転生〜無双なんて無かった〜
@sisomasa
第1話 プロローグ
鉄の玉が弾け、液晶の音量が何百と重なる騒音の集合体。そこで一人の青年が椅子に座っていた。
ある日の休日、パチンコ屋で働いていた政岡優吾は、仕事でパチンコ屋にいるのにも関わらず仕事終わりにもパチンコ屋で怠惰な時間を過ごしていた。
いつもなら多少の一喜一憂があったりするのを楽しむ程度だったパチンコが、今日は大いに牙を向いていた。
良い意味で。
「20万玉超えた……」
思わず溢れた独り言は誰の耳にも届くことなく騒音の中にかき消えた。
ダンダムウニコーン150連チャン……
平均5回しか当たらない台、平均の約30倍。
圧倒的行幸……! なんて言葉では説明できないほどの大連チャン。確率の壁なんてものはとっくに超え、隕石が頭に直撃する、体がすり抜けてマントラに落ちる方が現実的なのではないだろうか。
「……パチンコ20万玉?」
20万玉って80万円相当の物、80万って、20万玉! 実質無限やん! 駄目だ駄目だ、半笑いで打っていたら近くのコンビニの店員さんとかに見つかってこの前笑いながら打ってましたけど勝ったんですか? とか言われる。よくよく考えたら俺のプライベート、顔われすぎじゃね?
思考がまとまらない。無趣味無彼女の政岡にとってこの大金は手に余る。国さえ手に入れたのではないかという錯覚。それ程までの幸福。
これだけあればもう、パチンコなんて辞めて彼女を作ろう、出来るか知らんけど。
なんてことを思っていると。
視界が、端から順に白くなっていく。
立ちくらみをしたのか、もしくはガン見で液晶を見続けて目が悲鳴をあげたのか、それともこれが癲癇の前兆?
政岡は左手の指で目を抑えようとしたとき、体が一瞬、浮いた感覚を覚え、驚いて目を見開いた。
「…………へ?」
視界が、パチンコ台から木と草に突然変わっていた。あれだけの騒音も、鳥の鳴き声に変わっていた。よく見ると木の枝に止まっていた鳥が脱糞をしている。
「…………へ?」
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