『にゅういん』

やましん(テンパー)

『にゅういん』


 『これは、フィクションで、ちょっとブラック・ジョークです。』





 何かの都合で、ぼくは、にゅういんしていました。


 7月でした。


 屋上で、お化け屋敷をやっているというので、上がってみました。


 『ほんものの、お化け屋敷』と、言われています。 


 あたりには、ぼちぼち夕闇が迫ってきていました。


 車椅子を動かしながら、広い広い屋上をぐるっと巡ると、屋上の上に小さな建物があり、そこから沢山の人が並んで待っております。


 ぼくみたいに、怪我をしている方々が、たくさんいました。


 入り口で、みな、メガネを受け取っていました。


 ならび掛けて、はっと、気がつきました。


 お財布を忘れてきたのです。



 しかたがない、これが、今日の最終公開時間です。


 明日にしようね。


 並んでいた人達が、小さな建物に吸い込まれ、係のおじさんが言いました。


 『よっしゃ、ごー。』



 ぼくは、そこから、西側の壁に向かいました。


 壁の向こう側は、海です。


 すぐ、足元まで、海が迫ってきておりました。


 なぜ、屋上が海のすぐ畔なのか。


 それは、あまり考えてもしかたがありません。


 そうなっているのですから。


 首くらいまで、壁がありましたが、所々にちょっと切れ目があって、向こうが良く見渡せます。


 広い海です。


 向こう側には、陸地はまったく見当たりません。


 『今年も、海に遊びには行けなかったな。』


 と、考えながら、ぼんやり眺めていました。


 ここから、飛び込みをすることは、不可能ではないかもしれません。


 そう思っていたら、ひとりの少女が、となりから、ふいっと、海に飛び込みました。


 しかし、この向こうは、ひたすらな大海原です。


 上がってくる場所があるのかしら。


 まあ、ここには、ときどき、幽霊さんが出るという話もありました。


 でも、海上には、誰の姿もありません。



 すると、なにやら、番号の描いてある旗とか棒とかシャベルとか、をたくさん持ってきた若い人達がいました。


 そう言えば、昨日まで、この暑い中、病院自治会の『運動会』をしていたようです。


 内容は、不明でしたが。


 穴掘り競争とか。



 ご苦労様です。



 ぼくは、彼らが出てきたドアから、建物の中に入りました。


 病室は、4階です。


 リフトで4階に降りました。


 そこから、通路を歩こうとしたのですが、ドアがあります。


 こちら側から入ったことは、ありませんでした。


 さっきの、若者のふたりが、ぼくを横目でみながら、忙しそうに先に入りました。


 ドアを開けてくれたのかと思ったら、ばちゃん、と閉められました。


 『そりゃないだろ。』


 仕方がないから、自分でドアを開けます。


 意外にドアは軽く開きます。


 中には、なんらかの部室みたいな部屋があり、彼らが出入りしています。


 その向こうには、また、間仕切りがありました。


 『開くのかしら。』


 と、言いながら引っ張ると、しし、と、開きます。



 ああ、そう言えば、そこは、とりあえずの、死者安置所でした。



 『こら、やましんさん、死者がふらふら出歩かないでください。』


 看護師さんに叱られました。


 看護師さんたちは、幽霊スコープを装着していました。


 『まあ、新人だから仕方ないか。あのこも、また、いなくなったね。』


 看護師さんたちが言っています。



 ここは、伊豆半島沖に作られた、人工の、通称『死の島』です。


 まだ、生きてる人もたくさんいますが、みな、先がありません。



 ここでは、生と死が混じりあっているのでしたが、国内は、大きな戦争で、もはや、死の都ばかりです。


 ここは、楽園です。


 



       👻


 


 


 

 


 


 


 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『にゅういん』 やましん(テンパー) @yamashin-2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る