第四話

「賢者の血って事は聖女の子供か!?」


誰かがそう言ったのが聞こえた。

あぁ…。 ガリウスさんはいつもそうだよ!

何も考えずに発言するからこうやって注目を浴びちゃうんだ…!


「ところで、アビスの野郎はどうしたんだ?」


「亡くなったよ。 老衰だって」


「あの老いぼれめ…」


アビスとは勇者の師匠だった人で僕の事を鍛えた一人でもある。

正確には、僕と父さんを鍛えたんだけど…。

僕は母さん譲りの才能があったらしくて色んな事にずば抜けてたから父さんの様に剣術バカではない…と思う。 多分。


『タマシイクラッテモイイノカ?』


「駄目だから! 一旦戻って!」


「やべぇもんはテイムすんな! ってか【天馬】 や【猫馬】 はお前の好きなモフモフって奴で分かるが、このアンデッドはモフモフじゃねぇぞ…?」


確かに、僕はモフモフを愛でたくてテイマーになろうって決めたんだ。

なのになんでアンデッドをテイムしているんだろう。

まぁ気にしても仕方ないか。 今は大事な仲間だし!


「良いんです! 皆良い子ですから!」


「例外は居そうだが…」


「アハハ…」


それはなんとも言えない。

僕もちょっとね、うん、何とも言えない。


『我はまだその果汁を貰っていないぞ』


完全に失念してた…。


「あ、ごめん、これ飲んでて…。 後で自分の分買ってこよ…」


「あ、それアドモのとこの果実水じゃねぇか。 評判良いんだぜそれ。 いつも大体売り切れだ」


「え、そうなんですか!? 売ってるかな…」


「まぁ、無かったらまた今度だな。 で、だ。 アビスの野郎の最期はどうだった」


急に真剣な表情に切り替わる。

忘れてなんかいなかったんだね。


「苦しまずに、眠る様に逝きました。 僕に教える事はもうないと。 広い世界を見て回れと」


「そうか。 俺には何もなかったか」


「いえ、最期にパーティの皆に会いたかったと。 忙しい皆には報せるなと」


ポロリと一粒涙を零しながら拳を握り、悔しそうな表情を浮かべるガリウスさん。


「あの野郎、最期の最期まで俺達をガキ扱いして気を使いやがって! クソが!」


「それと、机に書き残してあった紙が一枚だけありました…」


そっとその紙をガリウスさんに渡す。

最期に遺した殴り書きとは思えないとても達筆な文に驚き、そして、笑う。


「あの野郎…。 いや、アビスさん。 マルクの事は任されたぜ…」


「思い出したニャアアアアア!!! マルク君ってガリウスさんがよく言ってた名前ニャアァァァァァァ!!!」


「「「「「「「「「「今更かよっっ!!!」」」」」」」」」」


良い所だっただろ!!!

というツッコミがところどころ聞こえていて、本人も顔が真っ赤になっている。

ガリウスさんも怒りで顔が真っ赤になっている。

すぐ、表情に出るのがこの人の良い所だし、悪い所だ。


「ガリウスさん、僕を任せるってどういう事ですか?」


「マルクが心配だからちゃんと面倒を見ていてやれって書いてあったんだ。 魔法文字でな。 これには流石のお前も気付かなかっただろ?」


そんな高度な物を死の間際にサラっと遺して行くの!?

まだ生きてたりしないよね?

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