第2話 体育

大学1・2年生の時、最も厄介だったのが体育と語学の授業であり、4年生の時にはゼミが難関でしたが、いずれも日本拳法のおかげで「勝つ」ことができました。

もっとも、「本当にこれで良かったのか」疑問なのですが。



当時、我が校は文系の学部(及び短大)は、全て東京の白山(JR巣鴨と水道橋の中間)にあり、日本拳法部の部室も道場もそこでした。昔は本校舎だけで、授業も部活も完結できたのです。

しかし、1年生の必修科目である体育の授業(4月~7月まで)だけは、川越という、池袋から特急で1時間もかかる田舎にある工学部校舎(の運動場)まで通わなければなりませんでした。

私以外の1年生は、みな週一回、往復千数百円の交通費と半日かけて真面目に通っていましたが、私は1度行って嫌になり、二度と行きませんでした。2年生になれば白山校舎の体育館で、4か月間ではなく1年間ですが、体育の補修授業を受けることができるという「救済措置」を選ぶことにしたのです。

4月、2年生になって初めての体育の授業。

開始は14:30からなのですが、私は日本拳法部の練習で遅れ、15時過ぎに、上は下着のTシャツ・下は道着・裸足というスタイルで体育館へ入りました。

すると、そこには50人くらいの「落ちこぼれ」の男女がバレーボールをやっていましたが、驚いたことに、女子の数が圧倒的に多い。おそらく、川越の先の「霞ヶ関」というド田舎駅から、更に舗装されていない、雨が降れば泥濘(ぬかる)む凸凹道を20分もかけて歩くなんてとんでもない、という都会派の女の子たちは、都心の校舎の最上階にある見晴らしの良い体育館での授業を選んだのでしょう。

一瞬でしたが、見た感じほぼ全員が「かわいい」!

私は(なんとなく春めいた気持ちに胸膨らませて)「すいませーん、遅刻しちゃいました。」なんて、思いっきり「真面目な好青年」風の声をかけながら、腕組みをして立つ教師の後ろへ駆け寄りました。

すると先生は、柱にかかる大きな時計をチラッと見て「なーにぃ? 30分も遅れて来て何が遅刻だ、来週顔を洗って出直して来い !」と言いながら、こちらを振り向きました。

ところが、休学して半年ぶりの防具練習で面の付け方が悪く、顔面赤いあざだらけの顔と薄汚れた道着姿の私を見ると「な・なんだ、お前体育会か?」と、声を詰まらせて聞きます。

  「はい、日拳です。練習が12時からなんですが、終わるのが3時近くになってしまうんで・・・。」と、神妙に応える私。

すると、先生はキッパリとした口調でこう仰いました。

  「よし、わかった! お前は授業に出んでもよろしい。一生懸命練習して(大会で)我が校の名を上げろ!」と。

そしてくるりと向きを変えると、生徒たちに向かって「よーし、次はサーブの練習をやるぞ!」と、大きな声を上げながらスタスタと向こうへ行ってしまいました。


一瞬、ボー然と立ち尽くす私でしたが、次の瞬間「やったー! これで、1年間の授業から解放されたぜ」と、心の中で叫びました。

ところが、出口へ向かって歩きながら、短パン姿のかわいい女の子たちをチラリと振り返り「本当にこれで良かったのだろうか」と、少し悩みました。

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