後悔の先に

ya_ne

第1話 私は・・・

あの人がいなくなってしまってから

かなりの月日が経った。


ようやく私もあの人のところに行ける。


あの人は、まだ待っていてくれるかしら?

それとも、もう生まれ変わっちゃったかしら

もし、生まれ変わった先でも

また出会う事ができたなら


今度こそ、ちゃんと素直にならなきゃ


今度こそ、ちゃんと素直に伝えなきゃ




私は今、

あの人と出会ってからの思い出が

走馬灯のように駆け巡っている。



あの人と初めて出会ったのは、

所詮お見合いというものだ。


私の時代では、

自由恋愛なんてものはほとんどなく、

親に決められた相手と結婚し、

子供を産み育て、

夫を陰で支えるというのが当たり前だった。


あの人とお見合いをしてからは、

とんとん拍子に話が進んだ。


あの人のことはタイプでもなかったし、

あの人のことも好きでも何でもなく

その決められたレールに乗って結婚したまでだ。


私には、

そうする道しか与えられていなかった。


それでも、

初めて会った時からあの人は優しかった。


あの時代では珍しく、

女性を見下さず、偉そうにもせず、

対等な立場で私と話をしてくれた。


どうせ結婚してからは、

その態度も変わってしまうだろうと思っていた。

だから私は、

一歩引いた態度を取り続けていた。


だが、

そんな私の思いは、良い意味で裏切られた。


あの人は、出会った時よりも優しく

出会った時以上に愛してくれていた。

愛の言葉を囁くようなことも言ってくれた。

愛してくれているという気持ちは、

充分に伝わってきた。


あの人曰く、

私に一目惚れだったらしい。



私の心も、段々と絆されていき、

あの人を心から愛するようになっていた。


だが、気恥ずかしさからか

あの人への私の態度は、

天邪鬼のように

そっけない態度になってしまい

なかなか素直になれなかった。



それから程なくして

あの人との間に子供ができた。

私も嬉しかったがあの人の喜びようったら

今思い出しても

笑みがこぼれてしまいそうになる。


子供を産んだ後も

私のことを愛してくれるか心配になったが

あの人は変わらずに私を愛してくれていた。


あの人との間に産まれた二人の子供は

私にとってもあの人にとっても

かけがえのない宝物だ。



それでも、

レールの上で育ってきた私は、

あの人へも、我が子にも

良き妻、良き母を演じ続け

素直に自分の気持ちを伝えることはしなかった。


そのまま、いつまでも素直になれず

あっという間に子供たちも育ち

良き妻、良き母を

演じることに慣れてしまったのだ。



いつの間にか

子供たちも巣立っていき

あの人と二人だけの生活に戻っていた。


二人の生活にもどってからも

あの人は相も変わらず私を愛し続けてくれた。

私は毎日あの人の愛を感じることができていた。


それでも長年の習慣のように身についてしまった

私の素直になれない気持ちが邪魔をして

あの人に言葉で伝えることはできなかった。



巣立った子供たちも結婚し、

私たちに

天使のような孫ができた。


子供たちも、孫を連れて

頻繁に遊びに来てくれる。


孫たちと遊んでいるあの人の笑顔を見て、

絵に描いたような家族になれているんだなと、

あの人と一緒になれて本当によかった。

私はあの人と一緒になれて本当に幸せだ。


あの人は、私を愛してくれた。

ずっと変わらずに、

いつまでも愛してくれた。







そんなある日

あの人は、


「愛しているよ。

 僕は、君と一緒になれて本当に幸せ者だよ。

 生まれ変わっても、

 また君と一緒になりたいなぁ。」


なんてことを言ってきた。

私は、嬉しさと気恥ずかしさから

またはぐらかしてしまった。








次の日、


あの人は起きて来なかった。


布団に入ったまま起きて来なかった。


何度も声をかけた。何度も身体を揺すった。


それでも動いてくれない。


私がずっと言えなかった言葉を伝えた。

今まで言えなかった言葉を

何度も何度もちゃんと言葉にして伝えた。


それでも返事はなかった。




子供たちに連絡をして

すぐに来てもらったのだが

やはりあの人からの返事は返って来なかった。

私はそれでも、

あの人の側から決して離れなかった。

言えなかった言葉を伝え続けた。






そこからは、あまり覚えていない。

いつの間にか全て終わっていた。




最後に見た

あの人の優しい笑顔が忘れられない

あの人の最後の言葉が忘れられない


私の大好きな

心から愛した

あの人がいなくなってしまった



喪失感と共に、

後悔ばかりが頭の中を巡り

何も手につかなかった。



そんな私に、

子供たちも励ましの言葉をかけてくれるが

私の後悔は、あの人には届かない。

直接あの人に伝えなければいけない言葉なのだ。




それからは毎日、

あの人の仏壇の前で、私の想いを伝える。

あの人には直接言えなかったのに

いなくなった途端、

簡単に伝える事ができる。

こんな、

なんて事のない事だったのに

気恥ずかしさから言えなかった。

素直になれなかった。

後悔しても遅い。



それでも、

あの人に伝わるように、

あの人が私に伝えてくれたように、

毎日欠かさず、

私の想いを伝え続けた。


子供たちも


「お父さんにもちゃんと伝わってるよ。」


そう言ってくれる。

それでもずっと後悔は消えてくれない。




あの人に会いたい。



私もあなたと同じ想いなんだって


私もあなたを愛しているんだって


あなたと一緒にいられて幸せだったって



あの人に会ってちゃんと伝えたい。





それでも時は過ぎ

あの人がいなくなってからかなりの月日が経った。


子供たちや孫たち、

そして、友人たちに支えてもらいながら

今では、

楽しく幸せな日々を送らせてもらっている。



本当にあの人のおかげだと心から思える。

本当にありがとう。




そんな私にも、

ようやくお迎えが来たようだ。

やっとあの人のところに行ける。



あの人に会えるのが楽しみだな。


私のことを待っててくれるかな?


ヨボヨボのおばあちゃんになった私に気付くかな?


あの人なら気付いてくれるよね?


でも、できれば若い頃の姿で会いたいな。


それとも、もう生まれ変わってしまってるかな?



もし、生まれ変わっていたとしても

あの人を見つけにいけばいいか。



もし、あの人を見つける事ができたなら

今度こそ絶対、

私の想いを伝えるんだ。


今度こそ後悔しないように、

私の想いを言葉にして伝えるんだ。







私もあなたを愛していますって。







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