第56話 もはやぬるいくらいだ

 Cランク以上の冒険者たちと騎士団員たちは、城壁の外に、左右に別れて陣取っていた。

 魔物が城壁にぶつかったときを狙い、両側から挟撃するという作戦である。


「お前たち案ずるな! なにせ過去に幾度も樹海に挑戦してきた、このオレが参戦しているのだからな! もっとも、何度か死にかけたことはあったがな! がっはっはっは! 特に樹海の奥地で遭遇したドラゴントレントとの死闘は――」


 若い冒険者たちを鼓舞しているようにみえて、己の武勇伝を大声で叫んでいるのはサブギルドマスターのバルクだ。

 すでに冒険者自体は引退している彼だが、どうやらこの戦いに参戦するつもりらしい。


「こんな視界の開けた平地で戦えるなど、もはやぬるいくらいだ! がっはっはっは!」

「「「(サブマスうるせぇ)」」」


 バルクの制御役である専属秘書のミレアがいないせいである。


 ただ、これでもかつては騎士として活躍し、冒険者になってからはAランクにまで上り詰めた男だ。

 現役を退いているとはいえ、大きな戦力になるだろう。


 そうこうしているうちに、魔物の先頭集団がもうすぐそこまで押し寄せてきていた。

 前方に巨大な城壁が聳え立っているというのに、そのまま真っ直ぐ突っ込んでいく。


「まだですの! もっと引きつけてからですわ! ある程度は、城壁にぶつかってきても構いませんの!」


 エリザが声を張り上げる中、最初の魔物たちが城壁に激突してきた。


 ドオオオオオオオオンッ!!


 大きな衝突音が鳴り響く。

 だがこの程度では、せいぜいミシミシと少し軋んだ程度だ。


「今ですの!」


 ある程度の魔物が城壁のところまで辿り着いてきたところで、エリザは合図を送った。

 別の指揮系統であった騎士団の魔法部隊も、ほぼ同じタイミングで魔法を放つ。


「「「~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」」」


 頭上から一斉に降り注ぐ魔法の雨。

 それに魔物たちが気づいたときには、もはや回避することなど不可能だった。


 魔法陣や詠唱によって増幅させていたこともあり、樹海の魔物に対しても十分な威力で、直撃を受けた魔物が次々と倒れていく。

 やがて準備していた魔法がひと段落着いたときには、五十に迫る魔物の死体が転がっていた。


 先頭集団の魔物たちがいきなり殲滅されたことで、それに付き従っていた魔物たちは当然、大いに慌てた。

 このまま真っ直ぐ進むべきか、それともあの壁を避けていくべきか、右往左往していると、


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」」」


 城壁の左右に控えていた戦士たちが、その隙をついて一気に躍りかかった。

 混乱状態にあった魔物たちは、もはや成すすべなく撃破されていく。


「がっはっはっは! お前たち、オレに続け!」


 先陣を切って次々と魔物を屠っていくバルクが、意気揚々と叫ぶ。

 ちなみに彼の天職は【ベルセルク】で、自分の身体よりも巨大な剣を振り回して、豪快に敵を真っ二つに両断する。


「って、誰もついてきていない!?」

「グルアアッ!!」

「ぬおおおおっ!?」


 ……一人で魔物の大群の中に突っ込み過ぎたバルクは、取り囲まれて一転してピンチに陥ってしまった。


「「「マジで何やってんだあのサブマス」」」


 一方、騎士団側にも、一人で魔物の大群の中をどんどん突き進んでいく者がいた。


「おらおらおらおらああああああっ!! 樹海の魔物はこの程度かっ、ああっ!?」


 炎に包まれた拳で魔物を焼き殺していくのはアンジュだ。

 彼女はバルクと違って、魔物に包囲されてもまったく勢いが落ちることがない。


「騎士団長に続けっ!」

「「「おおおおおおおおおっ!!」」」


 騎士たちも雄叫びを上げ、負けじと魔物を仕留めていく。


 元より領地を護るために存在しているのが騎士団だ。

 冒険者たち以上の熱意をもって、この戦いに臨んでいた。


 作戦が上手くハマったこともあって、序盤戦は戦士側が圧倒。

 このまま順調に戦況が進んでいくかと思われた、そのときだった。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!


「「「っ!? じょ、城壁がっ……」」」

「「「破られたああああああああああっ!?」」」


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