第53話 できる限り深くて大きな穴を掘って

「この池だな」


 領都から南に二十キロほど。

 普通の冒険者なら少なくとも二、三時間くらいはかかる距離だったが、ルイスは僅か十分程度で辿り着いていた。


 ほとんど作業着だけの身軽な格好なので、いつも移動のときは走っていた。

 風を操ってその流れに乗ってしまえば、二十キロなどあっという間である。


 体力に自信のあるルイスは、息もまったく切らしていない。

 休息を取ることもなく、早速目的を果たそうと池を観察するルイスは、そこであることに気が付いた。


「……思っていたより広い上に、水中にいるからどこにいるか分からないぞ? しかも水棲の魔物相手に、水中で戦うのは明らかに不利だ」


 と、そのとき水面の奥から影が浮かび上がってきたかと思うと、半魚人の魔物が水中から顔を出してきた。

 サハギンだ。


「「「ギョギョギョッ!!」」」


 そんな鳴き声をあげながら、池から上がってくるサハギンたち。

 ぺちぺちというちょっと可愛らしい足音を鳴らし、襲い掛かってきた。


「おら」

「「「ッ!?」」」


 大根を収納から取り出したルイスは、それでサハギンたちを殴り飛ばす。

 サハギン自体は弱い魔物ではないと聞いていたが、数メートルほど吹き飛んで地面や水面に叩きつけられると、一撃で動かなくなった。


「「「ギョギョッ!?」」」


 思いのほかルイスが強かったからか、慌てて池に逃げ込むサハギンたち。

 そして水中から顔と出だけを出した状態で、


 ビュワッ!!


「っと」


 撃ち出してきたのは水のレーザーだ。

 ルイスはそれを咄嗟に回避。


「「「ギョギョギョッ!!」」」


 ビュビュビュビュビュワッ!!


 サハギンたちが連続で水を飛ばしてくる。

 ルイスはそれをカボチャの盾で弾きながら、


「槍ニンジンでも喰らえ」


 槍ニンジンを投擲し、それが一体のサハギンの顔面に突き刺さった。


「「「ギョギョッ!?」」」


 そんな遠距離攻撃もあるのかと驚いたサハギンたちは、怯えたように鳴くと、池の中に潜りって見えなくなってしまった。


「……逃げたぞ。ううむ、どうやって倒したものか……そうだ!」


 ある方法を思いついたルイスは、早速それを実行してみることに。

 まずは池から500メートルほど離れた場所に移動する。


「ここにできる限り深くて大きな穴を掘って、と」


 取り出したミスリル製の鍬で、どんどん穴を掘っていくルイス。


「……この鍬、まさか最初に穴掘りに利用することになるとは。だが、めちゃくちゃ掘りやすいぞ」


 得意の土操作も利用しつつ、やがて完成したのは、なんと先ほどの池と遜色のない大きさの巨大な穴だった。


「後は、さっきの池とこの穴を繋いで、と」


 間の土を掘って、水路を作っていく。

 先ほどの池と繋がった瞬間、一気に水が流れ始めた。


 ぐんぐん下がっていく池の水位。

 すると水中に潜んでいたサハギンたちがわらわらと姿を現す。


「「「ギョギョギョッ!?」」」


 いきなり池の水が少なくなるという事態に、慌てふためくサハギンたち。

 全部で百体近くはいるだろう彼らが、少ない水のところに殺到してしまったせいか、サハギンたちがイモ洗いのようになっている。


 そんな中に、さらにひと際体格のいいサハギンの姿があった。


「ギョオオオオッ!!」


 身の丈は三メートルを超え、でっぷりと太った巨漢のサハギンだ。

 恐らくこいつがサハギンロードだろう。


 周りのサハギンたちを強引に押し退け、サハギンロードが襲い掛かってきた。

 手にした三又の槍を突き出してくる。


 ザクィンッ!


 それをルイスはミスリルの鍬で掘り弾く。


「ギョッ!?」


 槍の先端部分がボロボロと崩れていき、巨大サハギンが驚きの声をあげた。

 その隙にルイスはサハギンたちの身体を踏みつけて足場にすると、鍬を振りかぶりながらサハギンロードに接近する。


「おらっ!」


 ザグシャッ!!


 サハギンロードの肩から脇腹にかけて、鍬が斜めに掘り抉った。


「ギョギョオオオオオオオオッ!?」

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