第23話 これはニンジンだ
ルイスが投擲し、ブラッディミノタウロスの口を見事に塞いだのは、真っ赤な巨大トウガラシだった。
「辛さマックスに育てたやつだ」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」
ボスモンスターが声にならない咆哮を上げた。
目と鼻から液体を溢れさせ、地面を転がりながら悶絶する。
「しっかり魔物にも効くみたいだな」
「あの大きさの魔物でもあの反応……人間が食べたらどうなるんですの……?」
「見ているだけで汗が出てきたっす……」
仲間たちが戦慄している中、ルイスはボスに接近すると、右腕に鍬を振り下ろした。
グシャッ!!
耕された腕が砂状になって崩れていく。
「ブモオオオオ~~~~ッ!?」
慌てて身体を起こしたボスは、残った左腕で斧を振るおうとするが、それよりもルイスが鍬の一撃を繰り出す方が速かった。
グシャッ!!
「モオオオオッ!?」
左腕も消失し、落下した斧が地面に突き刺さる。
「これでもう防御もできないだろ」
「モオオオオオオオオッ!」
「……あれ? 逃げ出した」
完全に戦意を喪失したようで、踵を返して逃走するボスモンスター。
「ボスが逃げ出すなんて……」
「あ、あり得ないっす……しかもこの部屋、逃げ道なんてないっすよ?」
唯一の出入り口である扉は、彼らが入ってきたときに閉じられているのだ。
まさかそれが、ボスからの逃走ではなく、ボスの逃走を防ぐために機能するとは、ダンジョンも想定していなかっただろう。
「それっ」
逃げ回るボスに向けて、ルイスが何かを投げつけた。
それがボスの足に突き刺さる。
「ブモオオオッ!?」
「……あれ、槍っすか?」
「いや、たぶん違うと思う」
ルイスが投擲したのは、細長くて先端が鋭利で、一見すると槍のような代物だ。
しかしこれまでの傾向から、普通の槍のはずがないと推測するジーク。
「あの独特なオレンジ色……それに柄頭から葉っぱみたいなのが生えている……も、もしかして……」
「ニンジンっすか!?」
ルイスが頷く。
「ああ、これはニンジンだ」
限界まで硬さと細長さを追求することで、槍のようなニンジンを作り上げたのである。
足をニンジンに貫かれ、逃げることもできなくなったブラッディミノタウロスに、ルイスがゆっくりと近づいていく。
「ブモッ……ブモッ……」
「これで終わりだ」
「ブモオオオオオオオオオオオオオオオッ!?」
「……結局、ボスを一人で倒してしまった」
「おれたち、何にもしなかったすね……」
「足を引っ張る隙もなくて……正直、助かりました……」
半身が砂状になって絶命したボスモンスターを前に、仲間たちが立ち尽くす。
ずっと土の要塞に隠れていた彼らは、最後までただルイスの異次元の強さを見守っていただけだった。
「(たった一人で、あのボスモンスターを倒してしまうなんて……。これはとんでもない戦士が現れましたわね……。Bランク冒険者どころではありませんわ。この強さ、すでにAランク……いえ、下手したらそれ以上かも……)」
試験官のエリザもまた、ルイスの強さに驚愕していた。
「おっ、扉が」
音を立てて開いたのは、彼らが入ってきた扉ではなく、ボス部屋の奥にあった別の扉だ。
その先には階段が続いていた。
「これを上っていけば地上に戻れるんだな?」
「ええ、そのはずですわ。……さすがにここからはトラップもないはずですの」
◇ ◇ ◇
ルイス一行がボス攻略に成功し、しばらくした頃。
そのボス部屋に現れた者たちがいた。
「お嬢様、何度も念を押すようですが、少しでも危ない感じたときはすぐに加勢させていただきますので」
「そそ、無理しちゃダメだよ!」
「……相変わらず過保護。心配は無用……ソロで十分」
お嬢様と呼ばれた少女は溜息混じりに突っ撥ねながら、平然とボス部屋の中央へと歩いていった。
だがそこで、予想外の光景を目にすることになる。
「ボスが……やられている?」
ブラッディミノタウロスが倒れていたのだ。
「もしかして、我々の前にどこかのパーティが攻略したってことでしょうか?」
「でも、両腕がないし、下半身も砂みたいになってるよ? どんな倒し方したらこうなるの?」
とそこで、少女があることに気づく。
「この二本の斧は……」
地面に落ちていた二本の斧を見て、彼女は思い出す。
通常は何も武器を持たないはずのこのダンジョンのボスが、ごくごく稀に両手に巨大な斧を装備して出現することがある、との情報を。
「双斧のブラッディミノタウロス……通常のボスと比べ、難易度が跳ね上がると言われている強化ボス……一体、誰が倒した?」
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