第22話 野菜が万能すぎないっすか

「ブモッ!?」


 人間相手に力負けし、困惑するボス、ブラッディミノタウロス。


 しかしボスにはもう片方の斧があった。

 すかさず逆の手で持つ斧を、勢いよくルイスへと振り下ろす。


「っと!」


 ガキイイイイイイインッ!!


 だがルイスは目にも留まらぬ速さで鍬を構え直し、すぐにそれに対応した。

 またしてもボスの斧が跳ね上げられてしまう。


「な、なんて腕力ですのっ……」

「あっ、でも、ルイスの鍬が……」


 二度もボスの斧を弾き返したことで、ルイスの持つ鍬の刃が折れてしまったのだ。


「また折れてしまったか。やっぱり金属部分は脆いな」


 暢気に呟きながら、ルイスはその鍬を捨て、亜空間の中から別の鍬を取り出す。


「よかった、替えの鍬があったっす!」

「ていうか、何であの柄の部分は大丈夫なんですかね……真っ先に折れそうですけど……」


 コルットの疑問に、ルイスが答えた。


「柄の部分は畑で作ったゴボウを使ってるからな」

「「「ゴボウ!?」」」


 あまり都会では食されないが、貧しい農村地帯などではよく食べられている野菜である。


「特別に硬く作ったゴボウで、そこらの木材なんかより、ずっと硬いんだよ」

「なんか、野菜が万能すぎないっすか……」

「う、うん……他にどんなのがあるんだろう……」


 と、そのときである。





「ブモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」





 激怒したボスモンスターが突如として響かせたのは、ダンジョン全体が揺れるほどの、圧倒的な大咆哮。


「「「~~~~~~~~~~~~ッ!?」」」


 離れた場所で土の要塞に護られているエリザたちですら、思わずその場で尻餅をつき、呼吸が止まりそうになるほどの威圧感だった。


「か、身体がっ……恐怖で……動かなっ……いっす……」

「まずいですわっ……こんなのをっ……至近距離で受けたらっ……」


 それを真正面から浴びたルイスは。


「ん? ちょっと身体が動かしにくいな?」

「「「その程度!?」」」


 それでも身体が少し言うことを聞かなくなってしまったようである。


「ブモモォォッ!!」


 強烈な咆哮によりルイスの動きを鈍らせたその隙をついて、ボスが渾身の斧撃を繰り出す。


 ドオオオオンッ!!


「「「ルイスうううううううううっ!?」」」


 ブラッディミノタウロスの斧をまともに喰らい、ルイスは猛スピードで吹き飛ばされてしまう。

 数十メートルほど宙を舞い、ボス部屋の壁に叩きつけられた。


「ひぇぇぇぇっ!? ルイスさんが、殺されてしまいました……っ!? これはもう、あたしたちも終わりです……っ! ルイスさんがいなくちゃ、あたしたちなんて嬲り殺されるだけですよぉぉぉっ!」


 コルットが頭を抱え、絶望の表情で叫ぶ。


「いててて……さすがに今のは危なかったな」

「って、生きますうううううううううっ!?」


 より大きな声で絶叫するコルット。


「ルイスが……お、起き上がった!?」

「あれを受けて生きてるっす!? しかも、そんなに怪我してない感じっす!?」

「ああ。ギリギリのところでこいつを取り出し、斧と身体の間に挟んだんだ」


 ルイスが驚くジークたちに見せたのは、落とし穴の底に激突する際にも活躍した、あの巨大なシイタケだった。


「そのシイタケ、盾みたいにも使えるんですの……」

「持ち手もあるし、むしろ普通の盾よりも強力かもしれないっす……ジーク、どうっすか?」

「さすがにあれを盾として使うのは恥ずかしいかな……」

「ぶふっ……あ、すいません……想像したら、つい……」


【パラディン】がシイタケを手にして戦っている姿を思い浮かべたようで、コルットが思わず吹き出している。


「ブモオオオ……」


 会心の一撃を防がれてしまったことで、ボスも大いに困惑していた。


「今度はこっちから行くぞ」


 地面を蹴り、一気にボスとの距離を詰めるルイス。

 ボスは再び大きく息を吸った。


「またさっきの咆哮をするつもりですわ!」

「同じ手を二度も喰らうかよ」


 ミノタウロスが口を開いた瞬間、ルイスは巨大な塊を投擲した。


「ブモオオオオオオオオオ――オゴッ!?」


 それがボスの開けた口に見事に収まり、咆哮が中断される。

 ブラッディミノタウロスの口を塞いだのは、真っ赤な巨大トウガラシだった。


「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」

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