第18話 鍬で攻撃しただけだが

「ふう、こんなもんかな」


 ルイスは額の汗を拭った。


「あんなに硬い地面が、畑になってしまった……?」

「こっちの耕してない方と比べてみるっす! 全然違うっすよ! というか、そもそもこの岩みたいな地面に、よく鍬が通ったっすね!?」


 ジークたちが驚愕している通り、ルイスが鍬で耕した地面が、あっという間に作物の栽培に適した土に変わってしまっていた。


 さらにルイスは、その土を操作してみる。


 ズズズズズズ……。


「「「ゴーレム!?」」」


 畑の中から巨大なゴーレムが出現した。


「やっぱりな。そのままの地面だと操作できないが、こうやっていったん耕してしまえば、いつものように自在に操ることができるみたいだ」


 推測通りの結果になり、ルイスは満足げに頷く。


「……つまり、耕すことでダンジョンから支配権を奪ったってことかな」

「細かいことはよく分からないっすけど、これなら隠れる場所も簡単に作れそうっすね!」

「それはありがたいです……あたしみたいな不幸体質がいると、きっと魔物がどんどん集まってくるでしょうし……」

「ブモオオオッ!」

「……ほら、こんなふうに。……え?」


 急に割り込んできた咆哮。

 全員の視線が一斉にそちらへと向く。


 そこにいたのは、牛の頭を持つ人型の魔物だった。


「「「ミノタウロス!?」」」


 頭に野太い二本の角を持ち、身の丈二メートルをゆうに超える筋骨隆々の肉体。

 地下一階で遭遇したゴブリンとは、明らかにレベルの違う魔物だ。


「ブモオオオオオオオオオオオッ!!」

「こ、こっちに突っ込んできたっすううううっ!?」


 角を突き出す前傾姿勢で、地響きを上げながら突進してくるミノタウロス。


「アクアスネイクっ!」


 前に出たエリザが青魔法を発動する。

 大蛇のごとき水流が、ミノタウロスの巨体を直撃し、吹き飛ばした。


「さすがCランク冒険者っす!」

「油断は禁物ですわ! ミノタウロスは危険度Cの魔物! この程度では倒せませんの!」


 青魔法は応用が利きやすく、多彩な戦い方が可能だが、やや威力に欠けるのが特徴だ。

 そのため耐久力の高いミノタウロスを、この魔法だけで仕留めるのは簡単ではない。


 と、そのときである。

 また別の場所から雄叫びが聞こえてきたのは。


「ブモオオオオオオオオオオオッ!!」

「「「もう一体!?」」」


 新手の登場に、悲鳴を上げる一行。

 そのときにはすでに、最初の一体が身体を起こし、再び襲い掛かってこようとしていた。


「あ、あたくしが押さえていられるのは一体だけですわ!」

「くっ、どうするっ!? ミノタウロスの突進なんて、今の僕じゃ絶対に防げない……っ!」

「今のおれの魔法じゃ、ミノタウロス相手じゃ足止めにもならないっす! 逃げるしかないっすよ!」

「あたしはもう逃げ出してますうううう……っ!」


 もはやパーティはパニックだ。

 ……一人を除いて。


「って、ルイス!?」

「ちょっ、何をする気っすか!?」


 迫りくるミノタウロスに対し、鍬を担いだルイスは逃げるどころか、自ら近づこうとしていたのである。


「そうか! 彼にはゴーレムがいる! きっとあれでミノタウロスと戦うつもりなんだ!」

「た、確かに! あのゴーレムなら、大きさ的にもミノタウロスに負けてないっす!」


 次の瞬間、ルイスはゴーレムを操作してミノタウロスの突進を受け止めた――りはせず、鍬を振り上げた。


「せーの」


 猛スピードで突っ込んできたミノタウロス目がけ、ルイスはタイミングよく鍬を振り下ろす。


 グシャッ!!


 ミノタウロスの上半身が、一瞬で潰れてぺちゃんこになった。

 残った下半身が勢い余ってルイスに飛んでくるが、そのときには再び鍬を振り下ろしていた。


 グシャッ!!


 下半身も一瞬で潰れてしまう。


「「いま何をした!?」」

「え? 鍬で攻撃しただけだが」

「ミノタウロス、踏まれたカエルみたいに潰れてるっすよ!?」

「潰れたどころか、粉々に砕けてない……?」

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