第17話 こんなときに農作業なんて
「確かにかなりの距離を落ちてきたな。深い階層まで来てしまったかもしれない」
ルイスは周囲を見回してみる。
雰囲気は地下一階とそう変わらず、ごつごつとした岩肌に囲まれた洞窟の中だ。
「まさか地下一階に、こんな凶悪なトラップがあったなんて……もはや試験どころじゃなくなってしまいましたわね(ちょっとだけ漏らしてしまいましたわ……)」
まったく想定していなかった事態に、試験官のエリザも困惑している。
「どうにかして地上に戻ることを考えなければいけませんわ」
とそこで、気絶していたコルットが目を覚ました。
「んん……こ、ここは……?」
「あっ、起きたっすか」
「あたし、寝ていた……? はっ、もしかして、寝ている隙にいやらしいことを……っ!?」
慌てて腕で胸を隠し、青ざめるコルット。
「残念ながらそんな場合じゃなかったっすよ! 気絶する前のことを思い出すっす!」
「気絶する前……? そ、そういえば、あたし、またトラップを……っ!? し、死んでいない……? それとも、ここは天国……? いえ、あたしみたいなのは、きっと地獄ですよね……この辛気臭い空気も、どう考えても天国じゃないですし……」
「死んでないっす! ルイスのお陰で助かったっすよ!」
「まだ助かったかどうか定かじゃないけれどね」
困惑しているコルットに、ジークが詳しい状況を説明する。
「白菜で落下の勢いを落として、キノコをクッションにして着地……? ええと、もしかして皆さん、頭がおかしくなっちゃいました……? こんな状況ですし、仕方がないかもですけど……もう少しメンタルが強くないと、戦士としてやっていけないと思いますよ……?」
「別におかしくなんてなってないっすよ! ルイス、実際に見せてやるっす!」
言われて、亜空間から白菜とシイタケを取り出すルイス。
「……なるほど、おかしいのはルイスさんの能力だったようです」
「何で俺が?」
コルットも目を覚ましたので、とりあえず一行は今後の方針を話し合うことに。
「恐らくここはダンジョンの下層ですわ。今のあなた方では太刀打ちできない、凶悪な魔物が多数いるはずですの」
「「「下層……」」」
上層なら彼らのような見習いでも探索できるレベルだが、ここは推奨冒険者ランクがBのダンジョンだ。
つまり下層に挑むには、Bランク冒険者以上の実力が必要ということになる。
五人パーティであれば、全員がCランク以上といったところだろうか。
「ええと……エリザさんの冒険者ランクは?」
「Cですわ。とてもじゃないですけど、あなた方を守りながら地上まで戻るなんて芸当はできませんの」
「ということは、救助を待つってことっすか……?」
冒険者ギルドが行っている試験だ。
今日中に帰還する予定になっていたため、もし彼らが戻ってこなかったら、何かあったと判断されて恐らく救助が派遣されてくるだろう。
「問題は救助までの食料だけれど……」
ジークの視線がルイスへと向けられる。
「食料なら十分あるぞ。この人数なら数年くらい余裕で持つんじゃないか」
「そ、そんなにあるっすか!? ほんと、ルイスがいて不幸中の幸いだったっすね……」
ダンジョン内で作物を栽培するのが難しくても、ルイスには十分なストックがあった。
「後は、できれば魔物に見つからないよう、隠れられる場所があればいいんだけれど……」
「ルイスが特技を使えるなら、簡単に壁を作れたんすけどねぇ」
残念そうにリオが言う。
「ちょっと試したいことがあるんだが」
「試したいこと、ですか……?」
「よっと」
「「「鍬が出てきた!?」」」
亜空間の中から鍬を取り出したルイス。
農作物だけでなく、農具も保管しておくことができるのである。
そして何を思ったか、ルイスはその鍬をダンジョンの地面に突き刺した。
「ルイス……? 急に地面を耕し始めてどうしたっすか……?」
「こんなときに農作業なんて……変な人だとは思ってましたけど、もう完全にヤバい人ですよね……」
「……コルット、彼は一応、命の恩人だからね?」
ダンジョンの地面は、地下一階のときよりも硬くなっていて、ほとんど岩と言ってもいいようなレベルだ。
にもかかわらず、ルイスはどんどん地面を耕していく。
「ちょっ、ちょっと待つっす! ルイスが耕した地面が……柔らかい土に変わってるっす!」
「本当だっ? ていうかこれ、もう畑になってる!?」
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