第11話 あまりお近づきにはなりたくないですけど
「今もしかして【農民】って言ったっすか?」
「ああ、そうだ。かなり珍しいみたいだが……間違いなく【農民】だ」
「僕も初めて聞いたよ……そんな天職が……」
とそこで、コルットがぼそりと呟くように言った。
「え……【農民】なんて、何の戦力にもならなさそうじゃないですか……ただ一人、足手まといのおじさんが増えただけ……」
いきなりの辛辣な評価に、ルイスは慌てて補足する。
「い、一応、魔物と戦うこともできるぞ! 畑の作物を狙ってきた魔物を、自分で倒していたからな! ……っと、そうだ。お近づきの印に、よかったらこれを」
ルイスはどこからともなく瑞々しいトマトを取り出す。
もちろん彼が畑で作ったものだが、大きさはごく普通だ。
「今どこから出てきたっすか!?」
「何もないところから急に現れたように見えたんだけれど……」
お近づきの印にトマトを差し出してくるルイスの変人さ以上に、彼らはトマトが手品のように現れたことの方が気になったようである。
「あ、これは俺の特技の一つで、作物を保管しておくことができるんだ」
「「まさかの収納系の特技!?」」
この特技のお陰でルイスは巨大な野菜を一人で収穫し、一人で運搬することができていたのである。
「収納系の特技なんて、めちゃくちゃレアっすよ!」
「え? そうなのか?」
「【シーフ】とか【武闘商人】とか、ごく一部の天職にしか発現しない特技だからね。あまり戦闘には関係ない特技だけれど、あればすごく便利なんだよ」
「うーん、けど、俺のは自分で育てた作物しか収納できないからなぁ」
「いやいや、それでも十分っすよ! だって食べ物を持ち運びしなくてよくなるってことっすね?」
「魔境やダンジョンの探索などで、めちゃくちゃ重宝される特技だよ」
「言われてみれば……」
なるほどと頷くルイス。
一方、ジークとリオは、
「(そっちの方面での活躍が期待されてるってことだろうね)」
「(逆に言うと、あんまり戦力にはならないってことっすかね……?)」
そんなことを考えつつ、貰ったトマトをひと齧り。
せっかく貰ったし、食べないわけにはいかないと思ったのだろう。
次の瞬間、二人の目が大きく見開いた。
「「うまああああああああああああああああああああっ!?」」
思わず絶叫してしまう。
「な、なんすか、このトマト!? めちゃくちゃ甘くて美味しいんすけど!? これ、本当にトマトっすよね!? 果物じゃないっすか!?」
「こんなに糖度の高いトマト、初めて食べたよ!? それでいて絶妙なバランスの酸味っ! もはやトマトのレベルを超えてるよ!」
絶賛する二人に、ルイスはうんうんと頷いた。
「気に入ってもらえたようでよかった」
いつも作っていた巨大な野菜は、村から大量生産を求められ、それに応えるために巨大化させたものだった。
しかし残念ながらその分、どうしても味が落ちてしまう。
……それでも普通の野菜よりも美味しかったのだが。
この通常サイズの野菜は旨味が凝縮されていて、その品質は巨大野菜の比ではない。
「「さすが【農民】……」」
むしろ戦士になるより、農業に専念してもらった方がいいんじゃ……と思ったジークとリオだったが、そこは言わないでおくことにした。
「えっと、よかったらどうぞ」
様子を窺っていた【聖女】の少女、コルットにもトマトを差し出す。
「絶対食べた方がいいっすよ!」
「トマトの概念が覆るレベルだから」
「わ、分かりました……正直、お近づきの印にトマトなんてくれる人と、あまりお近づきにはなりたくないですけど……」
戸惑うコルットだったが、ジークとリオに言われて、彼女もまたそのトマトに齧りついた。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!? なななっ、なんですかこれええええええっ!? 信じられないくらい、美味しいんですけど……っ!? こんな美味しいトマトを作れるなんてっ……ルイスさんって、一応パーティに加える価値のあるおじさんだったんですね……っ!」
どうやら見かけによらず、かなり口が悪い子のようである。
「……あたくしには、くれないんですの?」
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