オルコット『若草物語』

今回は『若草物語』です。

1868年に発表されました。明治維新の年ですよ、150年以上前!

日本での初訳は1906年で、以後も様々な形で出版されていますが、こちらも講談社青い鳥文庫版で読みました。


事前知識はそれなりにありました。四姉妹の名前はうろ覚えでしたが、外見や性格といった特徴はしっかり覚えていたんですよね。

これはもう、完全に世界名作劇場のアニメ『愛の若草物語』のおかげです。でも具体的なエピソードは、四女エイミーが鼻が低いことを気にして、洗濯ばさみで鼻をつまんで寝ている場面しか記憶にありませんでした。それなのに四姉妹の個性が印象に残っているのは、やはり抜群にキャラクターが立っているからなのでしょう。

そして現在(2024年11月)は、『若草物語』を原案にしたテレビドラマが放送中。奇跡的なタイミングになったなぁ…。

おそらく三人以上の姉妹をメインキャラに据えた数々の物語は、多かれ少なかれ『若草物語』の影響を受けているのではないでしょうか。偉大な作品だな~と思います。個人的には週刊少年サンデーで連載していた漫画『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』が大好きです。『若草物語』を意識したり、逆にひねったりしたのかも…と今さらながら思い当たる部分もあったり。


さて、あらすじ。

南北戦争の頃のアメリカ東海岸が舞台です。父親が従軍牧師として戦地にいるため不在のマーチ家での、メグ・ジョー・ベス・エイミーという四姉妹の一年間の生活を描いています。

正直なところ、序盤は読んでいて少々退屈でした。やっぱり150年以上前の作品だから今の感覚とは合わないからか、あるいは古い日本語訳だからか…などと思ったりもしました。

ですが、おとなりに住む少年ローリーや、その祖父ローレンスさんと四姉妹が仲良くなるあたりから、ぐんぐん楽しく読めるようになってきたんですよね。四姉妹に愛着がわいてくるからかもしれません。みんながわちゃわちゃしているだけで心地よくて、まんがタイムきらら等の日常系4コマ漫画を読んでいるような感覚に近い気もします。


読む前のイメージよりも、次女のジョーがはっきりと主人公でしたね。気が強く、男の子になりたかったと思っており、小説を書くことが好きで、オルコット自身がモデルだそうです。いかにも女の子らしい長女のメグとは正反対の性格ながら仲が良く、父親不在の家庭で疑似夫婦のような関係なのかな~と思ったりもしました。


いっぽうで、他の3人がメインになるエピソードもしっかりあります。

本当にいい!と思ったのは、四女エイミーが学校でデービス先生にめちゃめちゃ怒られて体罰を受けた後の文章。(いやもちろん体罰はよくないことなんですけども)


「エイミーは誰とも口をきかず、さっさと自分の本や道具をまとめると、もう永久にくるもんかと、心に誓って学校を出た。

うちへ帰ったときは、とてもみじめな気持ちだった。帰ってきた姉さんたちも、みんな話をきいて憤慨した。メグは、打たれた手にクリームをつけ、その上に涙をこぼした。ベスは、これではとうてい子ねこをつれてきても、なぐさめられないと思った。ジョーは、かんかんに怒って、すぐさまデービス先生を逮捕すべきだといきまいた。ハンナは、げんこつをふりまわし、夕食用のじゃがいもを力まかせにたたきつぶした。」


みんながエイミーを大切に思っていることを示しつつそれぞれのキャラクターらしい反応を見せ、家政婦のハンナでオチをつけるっていう…。ハンナもいい人なんですよね。

ちなみに四姉妹の母親も当然怒り、学校へ退学届を出したりします。強い!


しかし、明るいムードも後半に変わってきます。

父親が戦地で重体に。母親はそれを看るためにワシントンへ。そんな中で三女のベスが病に倒れ命の危機に…という急展開。そりゃ後半にピンチがやってくるのは物語のお約束とはいえ、キツいよ!

思いっきりネタバレしますが、ベスが病死してしまうという知識は何故か持っていたので、いやー両親に会えないまま亡くなってしまうのは可哀そうすぎる…と読んでいていてヒヤヒヤしました。が、ベスはなんとか回復して命を取りとめ、無事に帰ってきた両親とも再会します。よかった~!


『若草物語』はハッピーエンドを迎えます。そう、ベスが亡くなるのは続編での話だったんですね。Wikipediaや『挑発する少女小説』を読んで続編の内容を知りました。決して楽しくてハッピーなわけではない展開になるようで…。

またネタバレしますが、『若草物語』の終わりでは「このふたり、くっつきそうやん!」とみんなが感じるであろうジョーとローリーが結ばれないんですね。ローリーは本当にいいやつで、魅力的な少年です。成長すると、ローリーはジョーに求愛しますが、ジョーはそれをはっきりと拒絶します。当時の読者からジョーとローリーを結婚させてほしいという手紙が山ほど来たそうですが、オルコットは決して折れなかったそうです。つ、強い!

かっこよくて、気心が知れていて、友人としては何の不満もない少年と結ばれるだけが女の子の幸せではない…という明確な意志があったのでしょう。

うまく表現できる文章力も知識もないのですが…ジョーとローリーが結ばれなかったからこそ、『若草物語』が150年以上にわたって読み継がれ、事実上の少女小説の始まりであるとまで言われる強度を持つに至っているのでは、と思えます。私自身がどんなお話を作りたいのか、改めてよく考えたくなりました。


その他、気になった点をいろいろメモ。

・メグ&ジョー&ベスの一人称が「わたし」なのに一番年下のエイミーの一人称が「わたくし」なの、カワイイ! キャラクターの個性を表した名訳だと思います。

・ジョーに失恋したローリーは、その後にエイミーと結ばれます。これもまた、すごい展開だ! そして『じゃじゃ馬グルーミン★UP!』で次女ひびきに失恋した醍醐悟が後に長女あぶみとくっつく流れも、その影響下にあるのだろうか…などと思ったりしました。

・『若草物語』の続編を読む気力はちょっとないんですけれども、2020年に日本で公開された映画『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』はジョーとローリー周りの話をしっかり描いているみたいで、いずれ観てみようと思います。

・現在放送中のドラマはね…どうなんでしょうね。いろんな問題を背景とした流れの中で、わざわざ『若草物語』を原案に現代日本を舞台にしたドラマを作る必要ある~? だったら完全オリジナルでやればよくないか~??? とは感じます。


次回はついに最後! 今野緒雪『マリア様がみてる』です。ただ、更新は2025年の2月ごろになろうかと思います。お待ちいただければ幸いです!

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少女小説で踊りたい 平河ゆうき @doraman

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