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8月に入り、上旬が少し落ち着いた所で開かれた、経理部と営業部の合同飲み会。

聞いた話しによると、こんな飲み会は初めてらしい。




騒がしい居酒屋の中、岸部長や宮本さんに続いてピンヒールで歩く。

ピンヒールの音は、店内の音に消されていく。




大きな個室の襖の前・・・




岸部長と宮本さんが、そこで靴を脱ぐ。




その様子を、私は固まりながら眺める。




「花崎さん?」




固まっている私に気付いた宮本さんが、声を掛ける。




私は少しだけ深呼吸をして、ゆっくりとピンヒールを脱いだ。




それから飲み会も1時間が経ち、岸部長も宮本さんも、既に遠く離れた場所に座り楽しそうに話し込んでいる。




「花崎さん、お酒飲まないんですか?」



「飲みましょうよ!!」




私の周りに集まった数人の男性達が言う。

私は高級腕時計を眺めた後、その男性達を見る。




「私にお酒を勧めるなんて、100年早いわよ。」




「あの~・・・」




盛り上がる男性達を無視して烏龍茶を口に含んだ時、営業部の営業事務の女性数人が近くに来た。




「私達もここで飲んでいいですか?」




その言葉に私は固まり、その女性達を見る。




「あ!ダメならいいんです!!戻りますから!」




私はもう1度、高級な腕時計を眺め、彼女達を見る。




「ここ、座りなさい?」




私の周りには沢山の社員達が座った。




「俺、この前契約2本も一気に取れたよ!」



「俺も調子良い!!」



「抑圧されていた力が一気に解放された気分だよな!?」



「本当、菩薩部長の所に配属されて良かったよ!」




“菩薩部長”

その言葉に、私は男性達を見る。




「ああ、花崎さんはまだ入社してなかったから知らないか!

元々営業部は1つだったんだけど、2年前に2つに分かれたんだよ!」



「そう!それで、俺達は菩薩部長の第2営業部に配属になってな!?」



「あの人、何でか知らないけどあんな感じなのに入社2年目には営業部トップで。

部長になってからも、相変わらず菩薩のままで本当良かったよ。」




そんな会話に笑いそうになるのを、私はウーロン茶を口に含み誤魔化した。




「結城部長、今日も来ないんですかね?」



「あの人、飲み会になかなか来ないからな~、でも、金は出してくれるけどな!」



「本当、菩薩様だよな~!」

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