第13話
訓練を始めてから1週間程経ったある日のことだった。1彼女との稽古を終え休憩を取っている時にふと思ったことがあったので思い切って尋ねてみることにした。
「そういえば前から気になっていたことがあるんだけど聞いてもいいかな?」
「はい?なんでしょうか?」
「実はね。ここに来る前もそれなりに強い魔物と戦っていたからある程度は大丈夫だと思っていたけど実際にやってみたら全然ダメだったんだよねぇ~。やっぱり実戦経験が少ないことが原因の一つになっているとは思っているんだけど何かアドバイスとかあったら是非とも聞かせて欲しいと思っているんだ。ほらっ?僕たち一応パートナーだしお互いのことをもっと知っておいた方がいいと思うしさ。どうかな?参考までにお願いできると助かるよ」……まあ半分くらいは建前で本当は単に興味があっただけだしね!だってあんなに可愛い女の子と一緒にいて何も感じないとか男じゃないよね?それにさ、いくらなんでも強すぎるよ。まさかここまで差があるなんて流石に想定外だったよ。
すると僕の質問に対してどう答えるべきか迷っていたようでしばらくの間悩んでいたような表情を浮かべていたのだがようやく結論が出たのか口を開いた。
「そうですね。私の意見としては戦闘中に焦ったりしない冷静さを保てるようになることだと思いますよ。それともし余裕がある時は相手の動きをよく観察して隙を見逃さないようにすることが必要になってくるかと……」
「へぇーなるほどね。確かに言われてみれば納得できなくもない意見だけどさぁ。うーん、まあいっか!それよりもさぁ。この後一緒にご飯を食べに行きたいと僕は考えているんだけどどうかな?」……あれ?どうして黙ったまま俯いているんだろう?もしかして嫌だったりするのだろうか? すると突然顔を上げたかと思えばこちらを見つめてきたので思わずドキッとしてしまい鼓動が激しくなっていく感覚に襲われてしまった。
「あの、えっと、その……わ、わかりました!行きましょう!」
「うん!ありがとう!じゃあさ、早速行こうよ!!」……こうして2人で街に出かけることに成功したわけだが食事を終えてからはもう大変でした。それは何故かと言うとその日の夜にお誘いを受けてしまったからだ。そして断れるはずも無くそのまま受け入れてしまいついに一線を超えてしまうことになってしまったのだが今でも信じられない気持ちでいっぱいである。……いや本当にいいの!?こんなおっさんが相手で後悔したりしていないのだろうか?心配だったので確認を取るとむしろ嬉しいと返されてしまった為ますます罪悪感が増していくばかりだった。それからしばらくして落ち着いた頃に改めて考えてみるとよく分からないことだらけだということに気付いたので再び尋ねることにした。……一体どこから来た人なんだろうとか他にも色々聞きたかったからね。
---ちなみにその答えについては何一つ分からなかった上にそもそも記憶を失っていることが発覚したため余計に謎が深まるばかりであった。
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---side ラサーシア ---……初めて彼に会った時はとても驚いたものだった。何故なら彼のことを一目見た瞬間になぜか懐かしいと感じると同時に心の底から愛しいという感情が溢れ出してきたのだ。まるで魂の奥底にまで刻み込まれているかのように強く根付いている想いを感じ取った時には戸惑ってしまったものだ。そしてそれと同時にある一つの仮説を立てたもののそれを信じることができずにいた。というのも彼があまりにも普通すぎたからである。外見こそ整ってはいたがそれだけであり他にこれといった特徴が無かった為にどうしても信じ切ることができなかったがそれでもどこか違和感を覚えておりしばらく様子見を続けることにしたのだった。
---そんな日々が続いたある日のこと彼はいつものように訓練場へとやって来た。最初はただの暇つぶしか何かだろうと考えていたのだが次第に真剣に取り組むようになっていった姿を見ているうちにいつの間にか目を奪われるようになっていた。そればかりか無意識のうちに彼の様子を眺めている自分に気が付きハッとしたのも束の間のことだった。何故自分はこれほどまでに気にしているのかという疑問を抱き始めたところでふとある可能性を思い浮かぶことになった。
つまりは一目惚れしてしまったのではないかということに気が付いたのである。そうなると今度は何故このような平凡な男性に惹かれたのだろうかと考え始めることになるのだが結局理由を見つけることはできなかったために諦めるしかないと思い始めていた頃のことだった。偶然にも彼と目が合ってしまい慌てて逸らしたもののすぐに気まずい空気が流れることになり耐えられなくなった私はその場から離れようとしたのだが急に声をかけられたことによって立ち止まることとなった。
振り返り見るとそこには笑顔を浮かべながら話しかけてくる姿があり困惑しながらもなんとか返事を返すことができた自分を褒めたい気分になったものである。その後会話を続けていった結果わかったことは特に無いということだけだった。そのためあまり期待せずにいたところ予想に反して予想外の言葉を聞かされることとなった。どうやら私のことを知りたがっているようだったが残念なことに自分自身でもわからないと答えることくらいしかできなかったためである。……正直な話を言うと自分から聞こうと思ってはみたのだが上手く聞くことができずにいたため困っていたところに助け舟を出してくれたような形になりホッとしていた。
その後も話は続いていきいつしか話題は彼のことについての話になっていたのだがそこで思わぬことが発覚することとなった。
なんと彼は自分が異世界人であるということをあっさりと口にしたのである。それも当然といえば当然ながら嘘をつく必要など無かったためである。
とはいえまさかそのようなことがあるとは思ってはいなかったこともありかなり動揺していた。……どうしようかしらと悩んでいると再び声をかけられたため咄嵯の判断で誤魔化すことに決めた。その結果どうにか切り抜けることが出来たわけなのだが今度会う機会があれば本当のことを言おうと考えていると不意にあることを思い出し思わず笑みをこぼしてしまう。それは私がなぜこの世界にやってきたのかについて思い出したことによるものだからだ。その理由というのが私の持つ固有技能にあったからである。
その名を『ゴッダス』と言い対象者に向けて言葉を発すればそれがどのような内容であれ無条件で従うようになるというものだった。もちろん制約もあり相手が望んでいない場合は効果が発揮されないどころか逆に悪影響を与えることになってしまうというものである。その為基本的には使わずにいることが多い能力ではあった。ただし今回のように誰かの指示によって発動する場合には例外となる。これは相手の意思を無視して強制的に従わせることが出来る反面、その反動として使用した者に様々な影響をもたらすことから使用禁止とされているものであり過去に何人もの命を奪ってきたものでもあるからだ。……もっとも今回は状況的に仕方がないと判断して使うことを決めたわけだが結果的に大成功だったことに安堵したものである。そうして彼と別れてからしばらくは幸せな時間を過ごせた。
---だが幸せは長く続かなかった。なんと突然勇者召喚が行われたことを知ったからだ。そしてさらに悪い知らせが届いたことで愕然とすることになる。なんとその対象の中に彼の名前があったからだ。……この時ほど自分の運の悪さに絶望したことは無いかもしれない。しかもその事実を知った時にはすでに手遅れの状態になっておりもはや成るようになれと半ば自暴自棄になるしかなかった。……しかし結果としてはその選択が功を奏し彼を救い出すことに成功しただけでなく一緒に暮らすことができるようになったのだ。これ以上望むことなど何もないというほどである。それからは今まで以上に頑張ろうと決意を新たにしていたところへさらなる朗報が飛び込んできた。なんと彼が魔法を習得できることが判明したからである。
これでようやく恩返しができると考えたわたしはすぐに行動に移すことにした。幸いにしてまだ時間があったため急いで準備を整えた後に再び部屋を訪れることにする。するとちょうど良いタイミングだったため早速指導を始めることとした。
---だがここで問題が発生した。というのも彼に魔力が全くなかったのである。本来であればありえないことであるため混乱したがとりあえず落ち着くべく深呼吸を繰り返すことにした。
おかげでだいぶ冷静さを取り戻すことに成功していたため改めて確認したところやはり間違いないようだと判断した上で原因を探ることにしたのだがいくら調べても見つからなかった。
念のためもう一度だけ試すことにし再度詠唱を行ったのだが結果は変わらず失敗に終わることとなる。
(一体どういう事なのかしら?)……不思議ではあったがこのまま考えても答えが出ることはないだろうと結論を出した私は一旦考えるのをやめることにした。何よりもまず優先すべきなのは一刻も早く習得してもらうことであるためそちらを優先するべきだと思ったからである。
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