第7話
そんな中で真っ先に思いついた作戦がこれだった。
「よし決めた。まずはあなたがどれくらい強いのか見せてもらいましょうかね。もちろん全力を出してくださいね?」
「ふん、良いだろう。後悔するがいい!!」
そして戦いが始まる。
先陣を切るのはもちろんケルティングさんの護衛をしている騎士たちだ。彼らもまた冒険者としての経験を積んでいる者達であり実力はかなり高い。
とはいえ所詮はBランク程度なのでA-ランクである彼を相手にどこまで戦えるか見物だと思ったその時のことだった。いきなり凄まじい衝撃波が発生した。
それによって吹き飛ばされていく仲間達。中には怪我を負った者もいたようで苦しげにうめいている声も聞こえてくる。
「くそっ、どういうつもりだ!?」
怒りに任せて叫ぶも当然ながら返事はなかった。
代わりに返ってきたのは笑い声で、それがさらに私の神経を逆撫でしてくる。
「クフッハッハ!!!この程度で終わりなのか?もっと楽しませてくれなければ困るというものだぞ?」
そう言って余裕たっぷりの様子を見せているが、こちらもいつまでも好き勝手させるわけにはいかない。
「みんな大丈夫?ここは私1人でなんとかするから下がっていてちょうだい。それと他の人達も全員下がれと言っておいて」
「無茶を言うな!お前だけであいつと戦うっていうのか?」
「その通りだよ。心配はいらないわ」
「……わかった。くれぐれもその力を無駄遣いしないようにな」
彼らはそう言うと素早く後方へと下がるとそのまま待機してくれた。それを確認してから改めて敵の方を向くとその表情には明らかな嘲笑の色が見え隠れしていた。
「たかだか人間がたった一人で何ができるものか。大人しくそこで見ていろ」
「あら、それはどうかしら。少なくともあなたよりは長く生きているからそれなりに経験だって積んでいるんだよ」
「笑止!そんなもの俺の前じゃあ意味を成さないということを証明してやる!」……どうも馬鹿にされている気がするのはきっと間違いではないはずだよね?まあいいわ、とりあえず今は目の前にいる敵を始末することに集中しないと。
「それなら遠慮なく行かせてもらうわよ!」
「来れるもんなら来てみやがれい!!!」……なんかもう完全に悪役みたいな台詞になっているけど気にしたら負けだと思っておこう。
そう決めると早速魔法を発動させてみた。
使うのはかつて魔王軍の幹部を倒した時に使ったアレだ。
すると相手に向かっていくつもの光弾が迫っていった。
「小賢しいマネをしよって……だがこんなもので俺を倒すことなどできぬぞ?」
(へえーなかなか自信家なようだけど、果たして本当にそうかしら?)
内心疑問に思いながらも次々と攻撃を重ねていくのだが一向に倒れる気配がない。
「ちっ……やはり一筋縄ではいかなさそうだね」
「当然だろうがぁああ!!!」
そう叫んで殴りかかってくる相手に咄嵯の判断で防御を固めて何とか直撃を避けることができた。しかし威力を殺しきれずに大きく弾き飛ばされてしまう。
「ぐぅうううううう……」
壁に激突したことで背中に強い衝撃を受けて息ができなくなってしまう。
「ふむ、今のをまともにくらってもまだ立てるとはさすがと言うべきかもしれんがまだまだ甘いようだな。次は本気で行くぞ!!」
そう言った直後、彼の身体に変化が起こった。
「魔族化だと!?」
ケルティングさんの驚愕の声を聞きながら相手の様子を見つめる。
(……なるほどね)
こうして実際に目の当たりにしてみるとかなり異様な姿だと思う。顔こそ人間のままなのだがその体は黒い皮膚に覆われており、まるで鎧のように全身を覆う筋肉と相まってとても頑丈そうに見える。
そして何よりも特徴的なのはその腕だ。肘辺りまでの長さしかないのだがそこから先が異常に発達しており明らかに普通とは違うことが一目でわかるほどだった。
「これが魔王様の力を受け継いだ我の真の姿だ!!恐れ慄きひれ伏すが良い!!!」
「いや別に怖くないんだけど?」
「貴様なにぃいい!?」
素直に感想を口にしただけなのになぜか怒って襲いかかってくる相手に溜息が出そうになる。
「仕方ないか……。あまりこういうことはしたくないんだけど、タティアナお願いできるかな?」
『任せて!!』
元気よく答えてくれたタティアナが即座に行動に移ってくれたおかげで無事に倒すことができましたとさ。
「おい、あれは何だったんだ?あんな魔物見たことも聞いたこともないぞ?」
「うん、私も初めて見るから詳しくはわからないのよ。ただ言えるのはあの人が元人間だったということくらいね」
ケルティングさんからの質問に対して正直にありのままで答えることにした。
下手に取り繕って後々面倒なことになっても困るだけだからだ。
「なんということだ……まさか人を化け物にしてしまうような恐ろしい薬があるなんて信じられん」
「確かに信じ難い話かもしれないけれど本当だから受け入れてくれるとありがたいの」
「わかっている。ここで嘘をつくメリットなどないことだしな」
「ありがとうございます」
ひとまずこれで問題はないと思いホッとしているところへ先程の男がやってきた。
「ふん、随分あっさり倒されてしまいおったか」
「うるさいですね。それよりもあなたに聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「なんだ?」
「あなたはどうしてそこまで強くなりたかったの?」
単純な興味として気になったので聞いてみたところ彼は静かに語り始めた。
「俺は元々孤児だったがスラムで生きていくためには強くなるしかなかった。そこで必死になって戦い方を学び続けた結果、いつの間にか俺はこの街でもトップクラスの実力を持つようになっていた」
「そういえばAランクの冒険者とも互角に渡り合えるほどの実力者とか言っていたわね」
「ああ、だからこそ俺も調子に乗ってしまったのだ。このままいけばいずれはAランクにまで到達することができるのではないかとな。だが現実はそんなに甘くはなかった。ある日のことギルドの依頼を引き受けていた時のことなのだが依頼主から指定された場所へ行くとそこには大量のゴブリンがいたんだよ」
その言葉を聞いて嫌な予感を覚えてしまった私は慌てて続きを促した。
「その時はまだC-ランクだったので苦戦しながらもなんとか討伐することができた。しかしその後にも似たような出来事が何度も起こり続け、次第に俺の心には慢心が生まれ始めていた。それがいけなかったんだろうな、ある時遂に致命的なミスを犯しちまった」
「それってもしかして……」
「そうだ、本来なら遭遇するはずのないB+ランク相当のオークと遭遇した上に戦闘に発展してしまったんだ。しかも運の悪いことに仲間とはぐれてしまっていたせいで助けを呼ぶこともできずに追い詰められていってしまったよ。そこで死を覚悟した時に突然何者かが現れてきてそいつを一刀のもとに切り捨ててくれやがったんだよ!」
悔しげに歯噛みしながら語ってくれている男を見ていると本当に強かったのだということがわかる。おそらくだが目の前の男より上のレベルの冒険者がいたとしても単独で勝つことは難しいだろうと思えた。それほどまでに目の前にいる男の力は圧倒的過ぎたのだ。
「結局そのまま意識を失ってしまい次に目を覚ました時にはベッドの上だった。そして医者の話によるとどうも数日間眠り続けていたらしい」
(なるほど……それで)
ようやく全ての謎が解けてスッキリとした気分になることができた。
「そういうことだったのね。納得できたし色々と助かったわ」
「あ、待て!まだ話は終わっていない!!」
立ち去ろうとしたところで呼び止められたので仕方なく振り返ると男は真剣な表情を浮かべながらこちらを見て口を開いた。
「あんたがいったい何者で何をしようとしているのか知らないがこれだけは言っておくぜ。もし何か企んでいるなら早めに手を引いた方がいいぞ。これは忠告であり警告でもある」
「それはどういう意味かしら?」
「簡単な話だ。お前達では絶対に勝てないということだ。もしも本気でやるつもりならば命を捨てに行くようなものだからな。まぁもっとも、それでも諦められないというのであれば止めないがせいぜい後悔だけはしないようにしろよ」
それだけ言うとその人は部屋を出て行った。
(ふう……なんか変な雰囲気になってしまったけれどとりあえず一件落着ってことで良さそうかな?)
ケルティングさんからも感謝されてとても良いことをした気持ちになれた私はこの後に起こる悲劇を知る由もなかったのです。
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「ふむ、やはり予想通りの結果になりましたか」
とある場所で1人の老人が水晶玉を見ながら呟いていた。
「ですがまだ手遅れではありませんから大丈夫でしょう」
彼が見ているのは勇者達の現状だったのだが、その中でも特に注目していた人物についてのことだった。
「とはいえさすがに放置しておくわけにはいきませんねぇ。仕方ありません、ここは少しだけお手伝いしてあげるとしましょうか」
そう言い終わると同時にその場から姿を消した彼であったがそれに気づいた者は誰一人として存在しなかったのであった。
翌日になってから早速街の外へ出てみた私達は昨日と同様に森の中へと入っていった。
「今日こそ見つけるぞー!!ってあれ?皆どこに行ったの?」
意気込んで歩き出したもののすぐに誰かがいないことに気づいたのでキョロキョロと見回していると後ろの方から声をかけられてきた。
「ここだよ」
「えっ!?もしかしてずっと後ろにいましたの?」
2人の姿が見えなかったので完全に見失ったと思っていたのだけどまさか隠れていたなんて……。「もちろんだとも。これでも僕は隠密行動が得意な方なのでね」
得意気に胸を張っている2人に対して苦笑いをしていると今度は前方の方が騒がしくなってきたのでそちらへ視線を向けると3人組の男女が何やら揉め合っているようだった。
「ちょっと!いきなり現れてくるんじゃないわよ!」
「うるせぇ、邪魔だって言っているだろうが!!」
3人とも大柄でいかにもガラが悪いといった感じの男性達が怒鳴り散らしているがそれに対して怯えることなく睨み返しておりなかなか根性がありそうな子であると思った。
「おい、こいつらをぶっ飛ばしちまえばいいじゃねえか」
1人がもう我慢できないと言った様子で言うと残りの2人も同意するようにニヤついた笑みを浮かべていた。その反応を見た少女は腰に差している剣を抜き放とうとしていたがそれを慌てて止めた私は代わりに前に出て行って事情を聞くことにした。「あなた方はどうしてこんなところに来たんですかね?」
なるべく刺激しないよう穏やかに声をかけてみると彼らは一瞬驚いたような顔をしたもののリーダー格と思われる男が下卑た声で話しかけてきた。
「ああ、俺たちはこの森に生息している珍しい魔物を狩るためにやってきたんだよ」
(うわ~、典型的なチンピラみたいな人達だよね。こういう時に限って面倒くさいことになるんだろうなぁ)
そんなことを考えているうちに彼らの標的が自分であることに気づいてしまった。というのも彼等の目つきが完全に獲物を狙う肉食獣のような目になっていたからである。
「それで俺達に何か用なのかなお嬢ちゃんよぉ」
「いえ別に貴方方には特に興味はないんですよ。ただそこの少女に話が聞きたかっただけですので……」
チラッと後方を見るとちょうどその時に目が合ってしまいお互いに軽く会釈をしたのだが何故か呆れたようにため息をつかれてしまった。
「あの、お願いがあるんだけど聞いてくれるかしら?」
彼女は真剣な表情を浮かべてこちらを見つめていたのでこちらも姿勢を整えてから向き直った。すると彼女が唐突に頭を下げてきて予想外の展開になったので驚いてしまうことになったが理由を聞いてみるとどうも私が先程注意した冒険者だということだった。
「実はあいつらに絡まれてしまい困っていたところを貴女に助けられたのでお礼を言いたいと思って探していたの」
「あー、そういうことだったんだね」
(それならそうと早く言ってくれればよかったのに……)
とは思いつつもわざわざ追いかけてきてくれたことは素直にありがたく思った。
「それで結局どうするつもりだったの?」
「うん!まずは話し合いをしてみるつもりなんだよ。それで駄目なら実力行使しかないかな」
「なるほど。まぁ確かにそれが無難な方法かもしれないわね」
私の返事を聞いた彼女も納得してくれたようで安心することが出来た。それからしばらく待っているとようやく彼らとの会話が終わったらしくこちらに向かって歩いてきたのだが、何とも微妙な表情を浮かべており一体どんな話をしてきたのか気になってしまうほどだった。
「えっと、とりあえず自己紹介させてもらうけど俺はフィルケンスっていう名前なんだよろしく頼むよ」
「はい、こちらこそ改めてになりますけれど私はアラーラといいましてあそこで黙っているのがサリアです」
簡単にお互いの名前を教えあったところで本題に入るために口を開くことにした。
「それで話というのはなんでしょうか?」
「単刀直入に言うがあんたらはここに何をしに来ているということだ」
(ん?どういうことかな?)
何故そのようなことを聞かれたのかわからずに首を傾げてしまうのだが答えるべきかどうか迷ってしまう。というよりこの質問の意図が全く理解できなかったのだ。
「正直に言ってよくわからないというのが事実ですね。まぁ強いて言えばレベル上げをしに来たってことでしょうかね」
「そうか。では最後に確認するがお前らは冒険者で間違いないという事でいいんだな?」
「はい、その通りですよ。だからと言って何か問題があるわけでもないと思いますよ?」
「……そうだな。すまなかった変なことを聞きすぎたようだな。忘れてくれても構わないぞ」「わかりました」
彼の言葉に短く返しながら考える。おそらくこれは警告のようなものなのだろうと予想がついたからだ。
(私達に対して警戒心を抱いているって感じだろうか?もし仮に敵だとしたら自分達よりも圧倒的に弱い相手とは戦わないはずだから大丈夫だと思うけど一応覚えておいた方がいいかも)
こうして新たに知り合った男のことを記憶しておくことにしたのだった。ちなみにこの後無事に和解して別れた後にも何度か遭遇してしまったのだけど毎回同じようなやりとりを繰り返すことになりすっかり慣れてしまっていたのでそれほど気にすることなく接することが出来るようになっていたのであった。
「ふぅ、今日もなんとかなったね」
「さすがに慣れてきたみたいね」
「うむ、最初は大変だったが今では特に何も感じなくなったのう」
3人で談笑しながら街に戻るとそのままギルドへと向かい中に入った途端に受付嬢さんの方へ駆け寄っていくと笑顔で出迎えてくれるようになった。
「おかえりなさい皆さん!今回は随分と遅かったようですが何があったんですか?」
「実はちょっと森の奥まで行ってきたんです」
「森の最奥ですか!?それはまたどうしてそんなところに行こうと思ったんですか?」
「あ、えっと……色々と事情がありまして……」
彼女のあまりの食いつき具合に気圧されながらもどうにか説明を終えることに成功した。しかし今度は心配そうな表情を浮かべているのを見て戸惑ってしまっているとその様子を見かねたのか後ろで待機してくれていたアリョーシが助け舟を出してくれた。
「すみません。少し興奮してしまいすぎてしまったかもしれませんね。それにしても森の最深部に行くなんて無茶をする人がいるものだと思いましてつい」
「はぁ、まったくだよ。俺達がいなかったら今頃大変なことになっていたかもしれないんだぜ」
突然横槍を入れてきたのは何時の間にやらいなくなっていたはずのベルドランでありなぜか偉ぶった態度を取っていたことに思わず苦笑してしまうことになった。
「まあまあ、無事に戻ってきているのですから良かったじゃないですか!」
「それもそうだな!それじゃあ早速報酬をもらうとしようじゃないか!!」
彼が高笑いをしながら去っていくとその後ろ姿を見送った後で溜息をつきながらこちらに向き直ると申し訳なさそうに謝ってきてくれた。
「ごめんね。彼はいつもああなんだけど悪い奴ではないんだよ」
「いえ、全然構いませんよ。むしろ面白い方だなって思っていましたし」
「ありがとう。それならよかったんだけれど……」
その様子から察するにやはり何かしらの問題児として扱われていることが窺えたのだった。
その後で報酬を受け取った後は3人で食事を摂ることにしたのだがその際にも今回のことについて話し合うことになった。というのも結局のところあの魔物達は何者なのかということが疑問として残っていたからである。
「結局あの人達は一体なんだったのでしょうね?」
「そうね……やっぱり魔族とかそういう類の種族なんじゃないかと思うわ」
2人の意見を聞いて確かにその可能性はあるかもしれないと考えたのだが同時に違和感を覚えてしまうことになる。その理由としては先程戦った際に受けた印象が非常に人間に近いものだったという事である。もちろん見た目の話ではあるがそれでもどうしても信じきれない部分があるのだ。
「でもいくらなんでも人間があんなに強いはずがないよね?」
「えぇ、それは間違いなく言えることね。それならば考えられることはただ1つしかないでしょうね」
「あ、そっか。確か前に聞いたことがあるような気がするよ。えっと、何だったかな?」
必死になって思い出そうとするのだがなかなか出てこず焦りを感じ始めたその時になってようやくその名前を思い出すことが出来たのであった。
「魔王軍幹部の存在の可能性ですね」
私の呟いた一言を聞いた2人が揃って驚愕の表情を浮かべると共に固まってしまうという事態に陥ってしまったのは言うまでもないことだろう。
「お姉ちゃんが言っていたのってこれのことだったんだね」
(そういえばそんなことも話していたなぁ)
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